自社ビジネスの顧客となる企業や消費者が、今何を求めているのか?これを知ることができれば、ビジネスはより良い方向へと向かいます。各顧客が何を欲し、何を実現したいのかを考えることは、企業にとって永遠の課題とも言えます。
この課題を解決するための取り組みが「顧客分析」です。企業が保有している顧客にかかわる様々な情報から、顧客のニーズを掘り出し、そのニーズに沿ったソリューションを提案することでビジネスはまた1歩成功へと近づきます。
ところが、「顧客分析の具体的な取り組み方が分からない…」という企業は多く、今でも暗闇の中で手探りによって顧客ニーズを探し出し、ビジネスを展開しているというところは少なくありません。
本稿では、そうした状況から脱却していただくために、顧客分析の基本から具体的に何をすればいいのかまでご紹介します。
顧客分析ってなぜ必要なの?
そもそも、顧客分析という活動が必要な理由とは何なのか?ビジネスを成功させるためか、あるいは市場シェアを拡大するためか。実はどちらも違います。顧客分析の本質は「日々変化する顧客ニーズは、ビジネス環境に対応するため」です。
スーパーマーケット市場を例に挙げますと、1970年頃までは完全に「売り手市場」であり、需要が旺盛だったことから欧米で発展した「チェーンストア理論(中央集権的な経営手法)」が広く浸透しました。それにより、日本のスーパーマーケット市場は急速に拡大しましたし、大成功を収めています。
しかし、1970年代に入ってからは、日本全体にモノが行き渡るようになり、次第に「買い手市場」へと変化していきます。すると、売り手側の都合で経営を回していくチェーンストア理論はやがて通用しなくなり、顧客ニーズを満たすことが難しくなりました。
そこで多くのスーパーマーケット事業は、店舗が中心になり彼らを取り巻く顧客に合わせた商品を展開していく経営手法へと、ビジネススタイルを変化させていきます。つまり、顧客が何を欲しているのかを理解するための顧客分析の重要性が増したわけです。
こうした一例だけでも、顧客分析とは常に変化する顧客ニーズをとらえ、ビジネス環境に対応するための活動だと言えます。ビジネスの成功や市場シェアの拡大、あるいは売上向上などはあくまで最終的な目標であって、顧客分析の本質ではありません。
このことを理解していると、顧客分析がずっとやりやすくなるので念頭に置いていただきたいと思います。
顧客分析の基本は「セグメンテーション」
「顧客分析」という言葉をもっと分かりやすく言い換えると、「誰が何を買ってくれるかを予測して、その人に効率的にアプローチするための方法を探す」ことです。つまり顧客分析から得たアウトプットは、マーケティングや販売活動へと繋げていく必要があります。
そして、顧客分析の基本とも言えるのが「セグメンテーション」と呼ばれる分析手法です。平たく言えば「顧客をグループごとに分類する作業」を指します。
たとえば消費者相手のビジネスならば、年齢/性別/居住地/趣味/家族構成などの属性情報をもとにセグメンテーションを行います。ただし無数の顧客を単に分類したからといって、何かが変わるわけではありません。大切なのは分類の先、グループごとにどのような特徴があるかをつぶさに観察することです。
そうすると、「30代/男性/都市部在住の顧客グループでは、Aという商品を購入する可能性が高く、反対にBは好まれない。A以外にはCにも興味を示すことが多い。」といった情報が得られます。これが顧客分析と言いたいところですが、ここで終わってもいけません。
さらにその先にある「なぜAを購入する可能性が高いのか?なぜBは好まれないのか?Cに興味を示すのはなぜか?」まで考えるのが、顧客分析というものです。
この問いに対する答えが出れば、ひとまず「30代/男性/都市部在住」というグループが持っている(可能性が高い)顧客ニーズを知ることができます。答えを出すまでのプロセスは実にさまざまですが、このようにセグメンテーションから始めるのが顧客分析の基本です。
今すぐできる「デシル分析」を解説
それでは、セグメンテーションを応用した顧客分析手法である「デシル分析」について解説していきます。なぜこの手法かというと、Excelさえあれば簡単に実行でき、今すぐにでも実施できるものだからです。
「デシル(Decil)」とは「10分の1」の意味を持つラテン語であり、デシリットルやデシメートルの語源でもあります。デシル分析では、無作為に並べた顧客情報や商品情報を、ある基準をもとにして10分割する分析手法です。たとえば、現在取引のある顧客企業を、「売上」という基準で次のように並べ替えてみます。
|
購入金額合計 |
購入金額比率 |
累積購入金額比率 |
1人あたりの 購入金額平均 |
1~100位 |
2,000万円 |
40.0% |
40.0% |
200万円 |
101~200位 |
1,000万円 |
20.0% |
60.0% |
100万円 |
201~300位 |
800万円 |
16.0% |
76.0% |
80万円 |
301~400位 |
500万円 |
10.0% |
86.0% |
50万円 |
401~500位 |
300万円 |
6.0% |
92.0% |
30万円 |
501~600位 |
150万円 |
3.0% |
95.0% |
15万円 |
601~700位 |
100万円 |
2.0% |
97.0% |
10万円 |
701~800位 |
80万円 |
1.6% |
98.6% |
8万円 |
801~900位 |
50万円 |
1.0% |
99.6% |
5万円 |
901~1000位 |
20万円 |
0.4% |
100.0% |
2万円 |
合計 |
5000万円 |
100% |
- |
5,000円 |
こうして顧客企業を並べ替えてみると、上位200の企業で売上全体の60%に達し、上位400の企業では全体の86%に達していることが分かります。こうした単純なデシル分析からも、今まで知り得なかった情報が取得できまし、並べ替える基準を色々と変えてみて、それらの結果を突き合わせると情報と情報の相関関係に気づくことができます。
また、顧客情報を商品情報や地域別情報などに置き換えることで、さまざまな角度から顧客分析が実施できるでしょう。デシル分析は、分析に必要な情報とExcelさえあれば誰でも簡単に行えるので、ぜひ取り組んでみてください。
顧客分析に必要な基盤作りを大切にしよう!
最後に、顧客分析へ取り組むにあたって大切なことを1つお伝えします。顧客分析を成功させるために重要なポイントは、「リアルタイムにデータを分析し、生きた情報を得る」ことです。たとえば、どんなに正確な顧客分析を実施しても、その情報が3ヵ月前のものならマーケティングにおける施策効果は薄いでしょう。
欲しいのは「今、顧客が抱えているニーズ」という情報です。これを知るには、リアルタイムデータを常に分析する必要があります。そのためにはスピーディに顧客分析を実施するための基盤作りが大切であり、具体的にはデータウェアハウスやBIなどのツールが必要になっていきます。
また、データを1箇所に蓄え、総合的に顧客分析を実施するのにCRMも大変有効です。これらのツールやシステムは、単にスピーディな顧客分析を実施できるだけでなく、業務プロセス全体を改善する効果などもあるので、基盤作りの際は検討してみることをおすすめします。その際にはPower BIなどの強力なBIツールを備えたMicrosoft Dynamics 365がおすすめです。