本記事ではSAP社が新たなERP製品として打ち出し、来る2025年問題に向けたソリューションとなるSAP S/4 HANA(エスエイピー・エスフォー・ハナ)についてご紹介します。
SAP S/4 HANAってなに?
ITに少しでも関わっているビジネスパーソンならば、SAP社が何を作り提供しているのかを知っているほどの大手ITベンダーですし、SAP S/4 HANAについて一度は耳にしたことがあるかと思います。SAP社はドイツ西部ヴァルドルフに本社を置くヨーロッパ最大級のソフトウェア会社です。長年世界のERP発展を根底から支え、フランクフルト証券取引所及びニューヨーク証券取引上に上場している、名実共に大企業だと言えます。
そんなSAP社が提供するSAP S/4 HANAは、旧世代のERP製品であるSAP ERPに代わる次世代ERP製品となります(第4世代に位置付けられている)。SAP S/4 HANAは販売開始から1年で3,200社が採用し、2019年7月時点では1万1,500社まで成長しているといいます。
そんなSAP S/4 HANAを語る上で欠かせないのが、SAP HANAの存在です。
SAP HANA=超高速処理を可能にしたデータベース
SAP S/4 HANAアーキテクチャの基盤がSAP HANAです。2010年に提供が開始されたSAP HANAは、インメモリデータ処理プラットフォームという名称でサービスがスタートしました。端的に言えば、超高速の処理を可能にするデータベースです。
一般的なデータベースはハードウェアに搭載されたハードディスクにデータを保持しながら動作します。これに対し、SAP HANAはインメモリスペースにデータを保持するため、ハードディスクに比べて非常に高速なデータ処理を可能にしているのです。インメモリとハードディスクとの違いを簡単にご説明します。
皆さんが普段使用しているパソコンの記憶領域にはRAM(Random access memory)とROM(Read Only Memory)の2種類があります。RAM=インメモリ、ROM=ハードディスクだとお考えください。
RAMの役割はパソコンのCPUが何らかの処理を行ったり、画面上に何かしらのデータを表示したりする際に使う作業用の記憶領域です。このためRAMのデータは頻繁に書き換えられ、データの出し入れを素早く実行できます。ただし、RAMは容量が非常に限られているので、一般的なパソコンならば4~16GB程度のRAMを搭載しています。
一方、ROMはいわば大量のデータを書き込むための記憶領域です。パソコン上で作業していない大量のデータはすべてROMで管理されています。つまりはパソコンがデータを保存できる容量のことです。基本的にハードディスクでデータの読み書きをするので、RAMに比べて処理は遅くなります。ちなみにROMという表記をするのは日本だけで、海外ではInternal Memory Storageと表記します。ROM本来の意味は、書き込み不可・読み込みのみのメモリです。
話をSAP HANAに戻します。以上の説明から、SAP HANAのデータベースにはすべてRAMを採用していると想像してください。数億コードのデータもすべてRAM上で処理されるので、データの読み書きが非常に高速であり、SAP HANAを基盤にすれば理論上あらゆるシステムのパフォーマンスが劇的に向上します
SAP S/4 HANAのメリット
ここまでの説明で理解いただけたかと思いますが、SAP S/4 HANAとはつまりSAP HANAをベースにし、超高速なデータ処理を可能にしたERP製品ということです。ただし、SAP S/4 HANAはSAP社が従来から提供してきたSAP ERPをSAP HANAに移行したものではなく、従来のそれとはまったく異なるアーキテクチャを持っています。
その理由は、SAP ERPのアーキテクチャでは運用を続けることでリアルタイム処理性能が低下していき、ユーザー企業のビジネスニーズに応えるのが難しくなったからです。例えば従来のSAP ERPでは、ある商品在庫情報に関する項目だけでも30近くのテーブルが存在するようになり、何万点もの部品点数を持つようなアセンブリー商品のバックフラッシュ処理(部品在庫引き落とし)を行うと処理性能が不足します。
一方、SAP S/4 HANAは中間テーブルを排除してたった2つのテーブルのみを使用するので、ワークロードが少なくなった上にSAP HANAが超高速データ処理を実行することで瞬間的に在庫数の計算処理が完了します。
さらに、UX(User Experience:ユーザー・エクスペリエンス)設計を大幅に改良しているのもSAP S/4 HANAの特徴の1つです。従来のSAP ERPでは各業務の処理は機能別にまとまった画面を使うので、多数の画面を行き来しながらデータを処理することが多々あります。対してSAP S/4 HANAはユーザーごとにロール別画面を設計することで、画面の行き来が減少して業務効率がアップします。この他、次のようなメリットを持ちます。
- 分析もレポーティングもすべて同じ基盤で完了し、経営意思決定に必要となる情報をスピーディに提供する
- これまでに実感したことのない速度でデータを処理し、ほぼすべての業務において高い処理速度を実現できる
- システムのレスポンスが高速になることでオペレーション時間が減少しTCOが削減され、データサイズが小さくなるためインフラコストも削減される
- オンプレミス、クラウド、ハイブリッドの中から構築基盤を自由に選択でき、Microsoft Azureにも対応している
2025年問題を乗り越える切り札に
SAP社では現在、従来から提供してきたSAP ERPのサポート期限が攻めっていることからユーザー企業のシステム環境に大きな変更と影響をもたらす問題を抱えています。そしてSAP社は、その問題を乗り越える切り札こそSAP S/4 HANAだとしています。
旧来のSAPユーザーにとっては、SAP S/4 HANAヘ移行すること以外にも多くの選択肢があります。例えばSAP S/4 HANAへの移行を検討する企業においては、クラウドのメリットや先進的な機能性を考慮してAzure上でSAP S/4 HANAを動作させることも考えるべきでしょう。また、もっと使い慣れたインターフェースでERP製品を導入したい、AIや先進技術を活用してデジタルトランスフォーメーション を実現したいという企業にとってはマイクロソフト社のDynamics 365も検討すると良いでしょう。
いづれにしても多くの選択肢がある中で、企業はどのようなバックオフィスプラットフォームを選択するのかを明確にするときがきている時期と言えるでしょう。