マイグレーション/モダナイゼーション

Dynamics 365がレガシーERPユーザーを救う 間近にせまるサポート終了に備える

Microsoft Dynamics 365概要

目の前に迫る大手ERPのサポート終了

大手ERP、たとえば、SAP社による「SAP ERP 6.0(SAP Business Suite 7)」の保守サポートの終了(EOS:End of Support)が2025年に迫っている。もともと2020年の終了予定が延長されたものであるため、これ以上の再延長は望めない可能性が高いであろう。現在使っているSAP ERPを今後どのようにすべきか、ユーザー企業の決断が迫られている。

ERPの移行や導入にかかる期間を鑑みれば、時間的な余裕があるとは言えない。

例えば、2018年にプロジェクトをスタートして1年をかけて計画、2019年から本格的な設計・構築がはじまって2年、導入作業に2年、並行稼働期間を含めてプラス1年──と計算していくと、完全本稼働は2024年。2025年のEOSになんとか間に合うという計画だ。

バッファを見込んだアバウトな計算ではあるが、移り変わりの激しいビジネス環境のことを考えれば、仕様変更などによる遅滞は発生して当然である。悩んでいる時間はほとんどないというのは、間違いない。

SAPの場合は、インメモリ技術を採用し非常に高速な処理が特徴とされる同社の最新ERPである「SAP S/4HANA」への移行を推奨している。しかし、すべてのERPユーザーにとって、S/4HANAが最適な解答とは限らない。確かに高速処理は魅力であるが、自社の用途にはオーバースペックであるというケースも多いのではないだろうか。

米リミニストリート社が2017年6月に発表した調査によれば、現行のSAP ERPバージョンを使い続けるとしたSAPユーザーは、全体の89%にのぼったという。既存のSAP ERPが安定的に稼働しており、ビジネスニーズを満たしているためだ。

また全体の65%は、最新バージョンのS/4HANAへの移行を計画していない、あるいは着手していないと回答している。移行によるビジネスメリットの確証が得られない、ROIの見込みが立たないという理由が最も多かった。

Dynamics 365は移行先の現実解

リミニストリートによれば、バージョンアップを計画していないユーザーのうち、約30%がハイブリッドIT戦略を採用しているという。SAP ERPの「Systems of Record(SoR)」としての価値を享受しつつ、コストやリソースを削減して、クラウドやモバイルといった「Systems of Engagement(SoE)」側に再配分し、イノベーションを推進しようというわけだ。

SoRとは」について調べてみよう!

その移行先として注目されている「Microsoft Dynamics 365」は、オンプレミスにもクラウドにも対応できる柔軟性を持ち、CRMとERPの双方に必要な機能が統合された、ハイブリッドIT戦略に最適なクラウドアプリケーションである。

SAP ERPは、基本的にバックエンドで稼働するものであり、フロントエンドアプリケーションは個別に開発したりカスタマイズしたりするケースが多かった。一方でDynamics 365は、バックエンドとしての機能もさることながら使い勝手のいいフロントエンドも特長だ。使い慣れたMicrosoft Officeとの統合も評価が高く、メインの業務アプリケーションとしての機能を期待して、SAP ERPからの移行をした事例も多くある。

Dynamics 365のオンプレミスとクラウドの双方に対応できるという特性は、他のクラウド専門ERPなどにはないメリットだ。例えば、現在の社内ポリシーではデータを外部に持ち出せないという組織もあるだろう。しかし、いずれはクラウド化を図る必要があるかもしれない。Dynamics 365であれば、当初はオンプレミスシステムとして導入して、徐々にクラウドへ移行するという形態にも容易に対応できる。現状では、非常に現実的な解と言えよう。

社内ポリシーという点では、海外にデータを持ち出せないというケースもあるはずだ。Dynamics 365は、データの格納先を自由に選ぶことができる。もちろん、東西日本のリージョンを選択することも可能だ。また、ディザスタリカバリーサイトも標準で選択できるため、東日本リージョンをメインサイトにして、西日本リージョンをバックアップサイトに指定するのもよいだろう。(もちろん、その逆もあり)

Microsoft Dynamics 365は、エンタープライズ向けのクラウドアプリケーションとして開発・運用されており、比較的小規模な環境から非常に大規模な環境まで幅広く対応することができる。マイクロソフトのサイトでも、大小さまざまな事例が紹介されているため、ぜひ参考にしてほしい。

削減した運用費をハイブリッドITへ投資

SAP ERPからMicrosoft Dynamics 365へのハイブリッドな移行を果たしたいとして、その原資をどのように捻出すべきかという問題がある。

そこで、SAP ERP 6.0のEOSに対応しながら、コストを削減する方法として、リミニストリートのような保守専業ベンダーのサービスを活用するユーザーが増えている。前述した同社の調査によれば、回答者の約半数が、SAPの保守サポート費用が“高額すぎる”と回答している。保守サービスを専業ベンダーへ移管することで、保守費用を大幅に削減(場合によっては半分程度に)できるということだ。

この減額分をDynamics 365に当てて、ハイブリッドIT戦略を推進すればよい。もちろん、どれほどコストを抑制できるかは、利用している機能やニーズによって異なるため、正確なアセスメントが必要である。しかし、Dynamics 365の導入・運用コストは安価であるため、十分に移行可能であるはずだ。

しばらくは並行稼働期間が必要であろうが、いずれはSAP ERPを管理会計(CO)と財務会計(FI)などに限定していけば、トータルコストをさらに削減できるようになる。将来的に、Dynamics 365へ完全に移行すれば、本来のERPとしての価値を最大化できることだろう。

SAP ERPからMicrosoft Dynamics 365への移行には、当然のことながら、相応の技術力とノウハウが必要である。Dynamics 365とSAPの双方の経験豊富なシステムインテグレーターやコンサルタントを選定したいものだ。

2025年のSAP ERP EOSまで、あとわずかである。ERPの移行・導入のプロセスを逆算すれば、ほとんど余裕がないことは明らかだ。Microsoft Dynamics 365への移行は、運用コストを抑制しつつ、現代企業に求められるハイブリッドIT戦略の推進剤として、多くの企業にメリットをもたらす解決策である。ぜひマイクロソフトや信頼できるパートナーに相談し、できるだけ早くプロジェクトを開始していただきたい。

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