チャットボットと呼ばれる自動応答プログラムが、2010年代後半からECサイト、コールセンターなどで活用されてきました。省人化、効率化を実現する手段として企業の導入が増えています。
しかし、実際のところ分からない点も多いという方も少なくないでしょう。そこで本記事ではチャットボットの基本から導入方法まで解説します。
チャットボットとは
チャットボットとはChat(チャット)とBot(ロボット)を組み合わせた造語で、利用者の発話に対してテキストや音声で適切な回答を返すプログラム、またはそのサービスを指します。
近年、WebサイトやSNSなど、さまざまな場面でチャットボットを目にします。画面の脇に「何かお困りですか?」「○○がお答えします」といった表示が出てきて、知りたい項目を選択したり、質問を入力したりするように促し、チャットで応対するものです。
また、音声でやり取りするスマートスピーカーのAmazon Alexa(アレクサ)やiPhoneのSiri(シリ)もチャットボットの一種です。
チャットボットを活用例として、ある大手通販サイトでは利用者からの問い合わせに答えてくれるチャットボットを導入し、大幅な人件費削減を実現しました。同時に問い合わせ対応の迅速化による顧客満足度向上、対応スタッフの業務効率化にも貢献しています。
金融機関や自治体などでも導入が増えています。あるネット銀行では、既存顧客の利便性向上を目的としてチャットボットを導入しました。カードローン利用に対するヘルプデスク業務をチャットボットが担当することで、利用者が手軽に問い合わせられるようになりました。
対外的な問い合わせだけでなく、社内向けのヘルプデスクとしてチャットボットを活用する例もあります。ある大手企業では、従来IT部門が行っていた社内ヘルプデスクをチャットボットに切り替え、スタッフの作業負担軽減や対応品質向上につなげています。
このようにチャットボットは、企業の問い合わせ業務効率化や省人化、顧客満足度向上に役立つツールとして活用されています。
チャットボットと人工知能(AI)の違い
混同しやすい概念としてAI(人工知能)があります。AIとは、判断、識別、推論といった人間のような知能をコンピューターが実現する技術全般を指す言葉です。チャットボットは“人間のように”会話するプログラムを指しますが、応答内容は事前に決めたルールに沿う場合やAIが判断する場合など、さまざまです。
チャットボットにはAIを搭載したタイプもあるため誤解されがちですが、2つは異なるものです。AIはチャットボットを構成する技術のひとつと理解するとよいでしょう。チャットボットが注目されている背景
チャットボットは2010年代後半から導入企業が増え始めました。その流れは2020年代に入ってからも続いています。
チャットボットの原型と呼ばれるEliza(イライザ)が開発されたのは1960年代、それから50年以上経ち、あらためてチャットボットに注目が集まっている背景には、AIの技術が向上しチャットボットがより高度な受け答えをできるようになったことがあります。
さらに2010年代に入り、LINEをはじめとしたSNSでチャットボットを搭載できるようになったことも要因のひとつです。
さらに近年大きな課題となっている以下のような課題を解決する手段としてチャットボットが活用できることから、多くの企業が関心を持っています。
生産年齢人口の減少
少子高齢化が進み、働き手不足が大きな社会課題となっています。総務省によると、15歳から64歳までの生産年齢人口は、2020年に7406万人(総人口比59.1%)、2040年には5978万人(同53.9%)にまで減少すると推計されているうえ、新型コロナウイルス感染症などの影響でさらに減少スピードが加速する可能性もあります。
働き手が不足する中では、単純作業などの機械化、自動化を進め、付加価値の高い業務にリソースを集中する必要があります。そこで顧客からの問い合わせ対応などの業務をチャットボットに肩代わりさせ、省人化、業務効率化を図ろうとしています。長時間労働への対応策
前述の生産年齢人口の減少を補うために政府が打ち出したのが「働き方改革」です。これは育児・介護などに携わる人などが働きやすい環境を整備する、労働生産性を向上させる、といった取り組みです。
長時間労働の解消は、働き方改革の三つの柱のひとつとして挙げられています。実現するための手段として期待されているのはAI・チャットボットなどのIT技術を活用した自動化です。
チャットボットは24時間、365日、土日祝日問わずに対応可能です。今まで手作業で対応していたカスタマーサポートなどの業務の一部をチャットボットに置き換えることで、スタッフの作業負担が軽減され、長時間労働の改善につなげられます。
ECサイト利用者の増加
2020年に新型コロナウイルス感染症が急拡大したことで個人の消費活動やビジネスなどのオンライン化が加速しました。経済産業省の発表でも2021年のBtoC EC市場は約20.7兆円(前年比7.4%増)、2020年のBtoB EC市場は約372.7兆円(前年比11.3%増)と大幅に増加しています。EC利用者が大幅に増加したことで、BtoB、BtoC共にECサイトに対する問い合わせ対応やサポート業務の需要が高まっています。
前述のとおり生産年齢人口の減少により働き手は不足傾向にあります。そこでECサイトにチャットボットを設置することで、電話やメールといった問い合わせを減らせるほか、「いつでも問い合わせに答えてくれる」という顧客満足度向上にもつながります。なおECサイトにおいて、チャットボットの設置は訪問者の離脱防止にも役立ちます。
チャットボットを使用するメリット
企業・組織がチャットボットを導入することで、以下のようなメリットが期待できます。また若い世代にとってはチャットのほうが電話やメールよりも利用ハードルが低いため、問い合わせをしてもらいやすくなるという点もメリットに挙げられます。
業務を効率化できる
簡単な内容はチャットボット、複雑な問い合わせはスタッフが対応、と役割分担を行うことで、業務効率化につながります。たとえば、従来スタッフが100%対応していた問い合わせのうち、回答が容易な40%をチャットボットが行うことで、スタッフが回答する件数を大幅に削減できます。それだけでなく、創出された時間を別の付加価値が高い業務に充てられるでしょう。
24時間対応が可能になる
チャットボットは常時対応可能なため、24時間対応が可能です。スタッフが対応する場合、夜間などの業務時間外に届いた問い合わせは翌日以降に対応していましたが、チャットボットを導入することで常時対応できるようになり、顧客満足度向上にもつながっています。
マーケティングや経営に活用できる
チャットボットへの問い合わせ内容は、すべてデジタルデータとして蓄積されます。これによりデータとして分析できるようになり、顧客のニーズを発見する、新商品開発のヒントを得る、改善すべき課題を見つけ出すといったマーケティング用途や経営用途での活用ができるようになります。
さらにルールベースでチャットボットの回答を決める際にも、蓄積したデジタルデータは役立ちます。チャットボットの種類
チャットボットは大きくシナリオ型とAI型に分類されます。ビジネスで導入する際は、比較的構築が容易で導入コストが抑えられるシナリオ型が人気です。
さらにチャットボットが回答するしくみの違いによって、以下の4種類に分類できます。
いずれのタイプを選択したとしても、利用者の質問に対して必ず適切な回答ができるとは限りません。複雑な質問はオペレーターが対応する、他の問い合わせ窓口(電話、メールなど)を案内するなど、チャットボットを補完する対応を用意する必要があります。
またAI型が必ずしも良いとは限りません。それぞれタイプごとにメリット・デメリットがあるため、自社のニーズにマッチしているかどうか比較・検討が必要です。
Eliza型
Elizaは、1966年にMITのジョセフ・ワイゼンバウムによって開発されたチャットボットの原型と呼ばれるプログラムです。パターンマッチングを用いており、利用者がテキスト入力した内容をDOCTOR(医者)というスクリプトで対応するしくみでした。
その名前を冠したEliza型は、パターンマッチングを用いて返答するタイプのチャットボットです。「Aと質問されたらBと答える」「該当するルールがない場合はCと答える」など、事前に設定したルールに沿って返答します。回答の範囲が狭く、現在はほとんど利用されていません。選択肢型
選択肢型は、事前に想定される質問と回答をデータベースに登録しておき、適切な回答を相手に返答するタイプのチャットボットです。シナリオ型とも呼ばれます。Webサイトの問い合わせやカスタマーサポート、社内ヘルプデスクなどで利用されています。
チャットで問い合わせを開始すると、「あなたの知りたいことは以下の四つのうち、どれですか?」と選択肢が表示されるのがこのタイプです。ECサイトであれば、「配送料が知りたい」「返品方法は?」など件数が多く、かつ回答が決まっている質問を選択肢として用意するのが一般的です。選択肢を多く用意すればするほど回答率は向上します。
WebサイトでのFAQ(よくある質問)は、チャットボットにすることで利用者が求める質問に短時間でたどり着きやすくなります。
メリット
選択肢から選んでもらうため、チャットボットは設定済みの質問に答えることになり、適切に回答できます。また企業側にとっても導入コストが抑えられる点がメリットです。
デメリット
事前に設定していない回答はできないため、複雑な質問や一般的でない質問には対応できません。
辞書型
辞書型は、あらかじめ登録された言葉と、対応する回答のセットを登録しておき、質問と合致する内容を返すタイプです。ハッシュタイプと呼ばれることもあります。選択肢を提示して質問内容を限定していく選択肢型とは異なり、質問者が自由に入力した内容から辞書を引き、回答の候補を提示します。質問を解析する部分では自然言語処理を利用しています。選択肢型と同様、Webサイトの問い合わせ対応などに利用されています。
ある企業では、顧客から電話での問い合わせが多く対応がしきれないという課題がありました。そこで安価で導入ハードルが低い辞書型のチャットボットを導入したところ、問い合わせ電話数を大幅に削減できました。回答として登録するデータは過去の問い合わせ情報をデジタルデータ化して活用したためゼロから作るより負担が少なく、また回答精度も高くなりました。
なお、選択肢型と辞書型を組み合わせたタイプもあります。
メリット
質問者は自由に質問内容を入力できるため、チャットに対するストレスが少なくなります。また導入コストが比較的安価に済む点もメリットです。
デメリット
質問に対して辞書上に該当がないと回答ができないケースが発生します。
AI型
AI型は、蓄積した人間の会話データからAIが学習し、質問に対して自動で回答するタイプです。質問に対して、AIは過去の会話履歴から適した回答を生成して返します。複雑な質問にも対応できるカスタマーサポートのほか、予約代行やECサイトでの接客などにも利用されています。
具体的には、テキストや音声で入力された質問内容を自然言語処理技術によって解析し、何についての問い合わせなのか、意図を判別します。それから機械学習によって分析し、質問の意図に最適な内容を見つけ出して回答します。メリット
AIがあいまいな表現や難解な表現も理解できるため、質問者は、人間と会話をしているように自然なやりとりができます。また幅広い問い合わせに対応可能です。
デメリット
実運用前にAIを学習させる必要があります。学習量が不足すると適切な回答ができず顧客満足度を下げる可能性があります。また他のタイプと比較するとコストが高い傾向があります。
チャットボット導入のポイント
自社でチャットボットを導入する場合、「設置場所・ターゲットを決める」、「適切な製品を選定する」、「シナリオ/辞書を作成する/AIに学習させる」、「実運用を開始する」といった流れになります。
特にシナリオ作成には一定の手間と時間がかかるため、十分な準備期間を確保しておくことが必要です。コールセンターなどの問い合わせ窓口を持っている企業であれば、過去の問い合わせ履歴をデータとして活用すると効率化できます。
チャットボットで適切な効果をあげるためには、以下のポイントに注意する必要があります。
導入の目的を明確にする
はじめに、どのような課題を解決する目的でチャットボットを導入するのか、導入目的を明確にすることが重要です。
たとえば問い合わせ件数が多く、限られたスタッフでは対応しきれず翌日に対応がもちこされてしまうという課題があるならば、チャットボット導入の主目的はスタッフの工数削減・作業負担軽減になるでしょう。
新規顧客獲得、既存顧客の利便性向上、既存顧客の囲い込みによる解約防止など、企業と後に目的はさまざまです。目的を明確にすることで自社に必要な機能がはっきりするため、適切な製品を選定しやすくなります。
逆に目的が明確でないと、なんとなくコストが安い、知名度が高いといった基準で製品を選定し、自社の課題解決につながるような運用ができなくなる可能性があります。その後の運用をスムーズに進めるためにも、目的は明確にしましょう。
運用体制を整える
チャットボットを導入後、どのように社内で運用していくか体制づくりをすることが重要です。たとえばコールセンターで導入し、オペレーターと連携させるのであれば、スムーズに引き継げるよう業務フローの見直しなども必要でしょう。メーカー側のサポート体制も確認しておきます。
またチャットボットで成果をあげるためには、導入後も継続的にチューニングを行っていく必要があります。特にルールベースの場合は、回答精度や顧客満足度を高めるために、過去の対応履歴を確認しながらチャットボットが回答できなかった問い合わせに対する回答をデータベースに追加したり、より適切な内容へ修正したりといった対応が不可欠です。
PDCAを回しながら、よりよい成果をあげられるようチャットボットの改善や運用ルールの整備など、改善していくことが重要です。
まとめ
チャットボットは、WebサイトやSNS上で動作し、人間の代わりに顧客からの質問を自動で回答してくれるしくみです。完全に人間の代替をできるわけではありませんが、一定の問い合わせに対応でき、業務効率化や24時間対応、マーケティングデータ活用など多様なメリットが期待できます。
選択肢型、AI型など種類はさまざまですが、導入コストや運用の手間、サポート体制などを総合的に比較・検討することが重要です。
自社で導入する際には、目的を明確にしたうえで製品選定や運用体制整備を進めていくとスムーズです。他社の導入事例なども参考にしながら検討するとよいでしょう。