工場、商業施設、病院、学校といった施設の中には様々な機械が稼働していたり、施設を支えるための設備が備わっています。これらの機械や設備を管理し、常に最適な状態を保つことを“保全”といいます。さらのその施設の環境を総合的に管理することを“ファシリティ・マネジメント(FM)”と呼びます。
ファシリティ・マネジメントは、経営管理方式の一つであり公益社団法人日本ファシリティマネジメント推進協会では「業務用不動産(土地、建物、構築物、設備等)すべてを経営にとって最適な状態(コスト最小、効果最大)で保有し、運営し、維持するための総合的な管理手法」と定義しています。
本稿でご紹介するのは、予防保全と予知保全についてです。2つの保全の違いは何か?IoTとの関係は?等を明確にしていきます。
保全の基本は“予防保全”と“事後保全”
予防保全は、保全の基本であり、もう1つの基本を事後保全といいます。まずはこれらの違いを説明しましょう。
予防保全
予防保全は機械や設備を継続的かつ安定して稼働させるために、点検、修理、部品交換などの保全計画を立てて定期的にメンテナンスを施していくものです。部品交換の目安については一定期間で交換する「時間基準保全」と、部品の劣化具合に応じて交換する「状態基準保全」の2通りがあります。
定期的にメンテナンスを施すことでトラブルの予兆に気づくきっかけになったり、あるいは機械や設備を最適な状態を維持することができます。
事後保全
事後保全は機能が停止したり、パフォーマンスが低下した機械や設備に対し、その原因を究明して対処する業務です。機能が完全に停止してしまう故障を「機能停止型故障」、機械や設備の動きが悪くなったり性能が低下する故障を「機能低下型故障」と呼びます。
機械や設備に何らかのトラブルが発生すると、そこにどういった原因があるのかを究明することから始まります。機械・設備関連のドキュメントを確認しながら原因究明していくのが一般的です。
その場で対処可能なトラブルについては即座に修理し、新しい部品が必要な場合は発注してからトラブルに対処していきます。
予防保全と事後保全は、どちらか一方の保全だけを取り入れるのではなく2つの保全を組み合わせます。予防保全で大部分のトラブルを防ぐことはできますが、それも100%ではありません。いくら予防保全を徹底していてもトラブルが発生することはあるので、それには事後保全で対応します。
予知保全とは?
近年、新しい保全のアプローチとして注目されているのが予知保全です。トラブルを予防するのではなく、文字通り予知することで機械や設備に起こるトラブルを防ぎます。ではどのようにして予知するのか?そこに関係しているのがIoTです。
IoTという言葉を聞いたことがある方は多いでしょう。“Internet of Things”の略であり、日本語では「モノのインターネット」と訳されます。訳だけではその概要が分からないので、少し解説します。
IoTとは「モノとネットワークを繋げて、モノが持つ利便性を高め、新しい機能やサービスを提供する技術、またはそうしたモノ自体」を指します。1番身近な例はスマートフォンです。携帯電話にインターネットという要素を加えることで、従来のガラケーよりも圧倒的な利便性を手にすることができますね。
すでに製品化されているものでいえば冷蔵庫などの家電製品や住宅の鍵も、IoT化が進んでいます。付属されたモニターからネットスーパーで注文できる冷蔵庫。ドアに近づくだけでセンサーが察知して開錠される鍵。こうしたIoTこそが、予知保全を可能にします。
たとえば工場の生産ラインで稼働してる機械をIoT化するとどうなるでしょうか?機械に取り付けた複数のセンサーからは、機械の稼働時間、微振動、アームの角度、温度などあらゆるデータを収集し、ネットワークを通じて1ヵ所に送信されます。そのデータを分析した機械の稼働状況を明らかにすれば、機械の健康診断をリアルタイムに行うことができますね。このIoTにより集められたビッグデータを機械学習で解析することにより過去の傾向からトラブルが発生するタイミングがわかるようになります。
そうすれば機械に起こり得るトラブルの予兆を未然にキャッチして、状況に応じて対処することでトラブルを防ぐことができます。これが予知保全です。
予防保全と合わせて保全に取り組めば、手間の多い事後保全を無くすことも可能でしょう。
予知保全のメリット
では、予知保全を行うことで企業が得るメリットとは何でしょうか?
1. 無駄な部品交換費用を削減する
予防保全や事後保全を中心として保全業務に取り組んでいる環境では、機械や設備にトラブルが発生した際に、迅速な対処ができるようにするために交換用部品を在庫として抱えておく必要があります。しかし、その在庫を適切に管理できているところは少なく、在庫があるにもかかわらず新しい部品を発注したり、あるいは在庫があると思っていたのに在庫切れだったといった諸問題が発生します。
予知保全に取り組んでいる環境では、常に機械や設備の状態をモニタリングしていますので、トラブルの予兆を察知した段階で保全計画を立てて部品を発注したり、人員を配置します。そのため交換用部品に無駄な費用をかけずに、コスト削減につながります。
2. 保全人員の人件費削減
予知保全では必要以上に人員確保をすることはありません。いつも最低限の人員だけを確保していれば、機械や設備の状況をモニタリングできますし状況に応じて人員配置を変化させることもできます。これによって人件費は削減され、余ったリソースを他の業務に回すことも可能です。
3. ダウンタイムの回避による生産性向上
予防保全を徹底していてもトラブルが発生することはあります。その際に事後保全を行っても、機械や設備に少なからずダウンタイムが発生します。たった1分ダウンタイムが発生すると、業務停止に及ぶ影響はその10倍以上になるでしょう。従って極力ダウンタイムを少なくすることが生産性アップの秘訣です。予知保全ではそれが可能なので、機械や設備全体の生産性が大幅にアップします。
4. 保全担当者の後継者問題を回避
予知保全に取り組んでいる環境では特別な経験や勘は不要です。IoT化された機械や設備から送られてくるデータを自動的に分析し、それが可視可能な状態にされるので、データをもとに機械や設備の状況を判断できます。トラブルを予知できれば対処手順も明確になるため、最小限の教育で即戦力になり、保全担当者の後継者問題を回避できます。
5. フィールドサービスのマネタイズ
顧客先での機械や設備の管理を行うフィールドサービスでは、予防保全と事後保全をアフターサービスとして組み込むのが一般的です。そのためフィールドサービスはコストセンターとして、常にコスト削減や工数削減が要求されています。
ただし予知保全がある環境では、フィールドサービスはコストセンターではなく利益を生み出すプロフィットセンターに変化します。顧客は費用を投じてでも機械や設備のダウンタイムやトラブルを回避したいと考えているので、予知保全とサービスとして提供することで、フィールドサービスからマネタイズ(収益化)が可能になります。
予知保全を実現するためには?
予知保全は機械や設備をIoT化するための技術やセンサーの他に、そこから生成されるデータを収集し、自動的に分析してダッシュボードに稼働状況を可視化する環境が必要です。その環境としてDynamics 365を利用する企業が増えています。Dynamics 365は統合的な業務アプリケーション環境であり、IoTからのデータを取り込んでそれをBIツールやAIで分析することで、機械や設備の稼働状況を簡単にモニタリングできます。そこから生まれるインパクトは自社ビジネスを変えるだけでなく、高い競合優位性を手にするきっかけにもなるでしょう。