中小企業経営を最適化させるために欠かせない管理会計。しかし、この管理会計に取り組んでいる中小企業はそう多くありません。そこで本記事では、ERP(Enterprise Resource Planning)による管理会計の実践について紹介します。ERPがあることで管理会計がずっと楽になりますし、経営状況をリアルタイムに把握することや、財務会計の効率化にも繋がります。成長企業としての体質を手に入れたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
管理会計とは?
経営にかかわる会計業務は2つに大別されます。管理会計と、財務会計です。財務会計とは株主や投資家、銀行など組織外の利害関係者(ステークホルダー)に対して客観的な情報開示を行うことを目的としています。株主の多くは自分が出資している企業の経営状況を確認したいと考えており、企業に融資している銀行や投資家などの債権者は、これからの融資・投資判断のために企業の収益性や将来性を確認したいと考えています。
そうした利害関係者に対して「経営の今」を情報として開示するのが財務会計です。報告形式に関しては商法や証券取引法などの法律で定められており、制度会計とも呼ばれています。
一方、管理会計とは企業内部、主に経営者や役員に情報提供を行い、業績評価や経営判断に用いる材料とする会計業務のことです。財務会計と異なり法的規定は存在せず、企業内部への情報提供を目的としていることから管理会計の内容は企業によって違います。
ERPの多くには管理会計機能が搭載されており、複数システムが相互連携している環境から会計業務がスムーズに行える特徴があります。
管理会計に欠かせない指標
管理会計は自由形式の会計業務なので、財務会計ほど難しくないと考えられがちです。しかし、経営者や役員が経営判断を下すために用いる重要な情報なので、決して甘く見てはいけません。管理会計は主に、以下のような経営指標が必要とされます。
会計管理に用いられる経営指標
- インタレスト・カバレッジレシオ
- キャッシュ・コンバージョン・サイクル
- 限界利益率
- 固定長期適合比率
- 固定比率
- 在庫回転率
- 自己資本比率
- 自己資本利益率(ROE)
- 総資本回転率
- 総資本利益率(ROA)
- 損益分岐点売上高
- 当座比率
- 売上高利益率
- 売上債権回転率
- 流動比率
- 労働生産性
- 労働分配率
中でも重要なのが「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」「限界利益率」「損益分岐点」労働分配率」です。
CCCは会社が商品や原材料などを仕入れることによって発生した支払債務を支払ってから、その後の売上により発生した売上債権が回収されるまでにかかる日数を表します。限界利益率は売上高から変動費を引いた数値を指します。限界利益率の動きを月次で確認し、それらが想定外に変化しているケースでは売上単価の下落や変動経費単価の上昇などの問題が起きている可能性があります。
損益分岐点は、営業利益がゼロになる地点を表しています。有名な指標なので、知っている方も多いでしょう。損益分岐点を計算するための式は「固定費÷限界利益率」となります。損益分岐点とはつまり、会社が利益を出していくために最低限必要な売上高です。
そして労働分配率は、ビジネスで生じた付加価値に占める人件費の割合を示したものです。会社の生産性を測るには、会社が生み出した付加価値がどこで使われているかを見ることが大切です。そこで活用されるのが労働分配率であり、付加価値の何%が人件費に分配されるかを分析することができます。
管理会計が中小企業にもたらす経営効果
企業ごとに合った会計情報を作成して、それを確実に活用していくことで的確な経営判断や、業務効率向上のための取り組みを促進できるのが管理会計最大の経営効果です。
会計情報は実績値をベースにした指標以外にも、将来的な売上見込みや原価見込みなどの予測値を指標として取り入れることで、先々を見据えて中長期的な経営計画を立てることができます。また、予測値を取り入れた管理会計では成長が予測される分野に早期投資を行うことで事業成長を促せます。あるいは、問題のある分野を早期発見して、問題が深刻化する前に対策を講じることも可能です。
中小企業の強みは「スピード感ある経営」です。株主が存在しない中小企業では経営者や役員の独断で経営活動を進めていけることから、大企業とは違ったスピードでビジネスを展開していくことに強みがあります。そこに管理会計が加わると、さらに発展した経営活動によってより素早く、より正確なビジネスを促進できます。
さらに、銀行から融資を受けやすくなる効果もあるでしょう。実施した管理会計情報を、融資相談の際に資料として提出することで銀行からの信頼を受けやすく、融資できる可能性が高くなります。また、定期的に経営状況を報告すれば、好条件で融資が受けられるかもしれません。
管理会計は経営層だけにとってメリットがあるのではなく、マネージャーや現場従業員にとっても有益なものになります。現場従業員に正しい会計情報が提供されることで、従業員が自発的に分析や経営改善に向けた施策を考案するケースがよく見られます。また、部門別の業績管理を行う場合に、マネージャークラスの経営意識が強化されます。
このような観点から、会計管理を取り入れた中小企業の多くは成長体質となり、継続的に成長する企業へと変貌するケースが多々あります。
管理会計はなぜERPで行うのか?
本記事のテーマは『中小企業こそERPの導入で管理会計を実践しよう!』ですが、管理会計を実施するためにERPなんて大規模なシステム製品は必要か?と疑問を抱いた方も多いかもしれません。実際に、管理会計機能が備わっている会計ソフトもありますし、一見するとあえてERPで管理会計を実施せずともよい気がします。
しかし、前述のように管理会計に欠かせない指標は多岐に渡ります。企業ごとに最適な指標を組み合わせて経営者や役員へ報告する必要があるため、管理会計実施のために収集する情報はかなり多く、種類も豊富です。そのため、情報収集だけでも多大な時間がかかってしまい、管理会計が完了した情報を提供した時には1ヵ月以上過ぎているというケースが少なくありません。
これでは、リアルタイムな会計情報が供給されないため、有効的な経営判断を下したり中長期的な経営戦略を立てることが難しくなります。
一方、ERPは各部門に分断されていた基幹系システムが統合されていることから、システムが相互連携してデータのやり取りをスムーズに行います。つまり、管理会計に必要なデータをわざわざ収集しなくても、すでにERPに一元化されているため管理会計業務へ素早く取り掛かり、リアルタイムに近い状態で経営情報の供給が行えます。
さらに、管理会計で得た情報を財務会計に反映させて決算作業を素早く完了させることも可能なので、実はERPで管理会計に取り組むことでさまざまな効率化効果が生まれ、波及効果も広がります。
今ではクラウドERPの台頭によって導入のハードルもグンと下がったため、中小企業でもERPを活用した管理会計が可能です。管理会計を実践して成長する企業体質へと変貌させたいという場合は、ERPによる管理会計をご検討ください。