従来、個々人が持っている暗黙知を形式知化し、組織全体で共有することで全社的な生産性を向上させ、さらにスキルの底上げを行うことを「ナレッジ管理」や「ナレッジマネジメント」と言います。
これまでナレッジは「言葉では言い表せないもの」として、日々の業務の中で経験を積むことで身に付けるものとされてきました。しかし、近年になりITソリューションが進歩したことで、ナレッジを具体化し共有することが可能となっています。
従ってナレッジ管理は多くの企業にとって現実味のある経営戦略として存在し、また多くの先進企業がナレッジ管理に取り組んでいます。中小企業やスタートアップでもナレッジ管理を実現できれば、組織に新たなイノベーションを起こし、今までにないビジネス的価値を創出していくことができます。
今回はこのナレッジ管理の基礎について紹介していきましょう。
暗黙知を形式知へと変換する
暗黙知とは言葉で表したり明文化できる知識に対して、言葉では言い表せない、説明できない身体の動作を指します。つまりビジネスに置き換えるならば、ベテラン特有の勘に頼った業務が暗黙知になります。
たとえば自転車に乗る場合、人は一度乗り方を覚えると年月を経ても乗り方を忘れない。自転車を乗りこなすには数々の難しい技術があるのにもかかわらず、である。そしてその乗りかたを人に言葉で説明するのは困難である[1]。つまり人の身体には、明示的には意識化されないものの、暗黙のうちに複雑な制御を実行する過程が常に作動しており、自転車の制御を可能にしている。
ナレッジ管理の根幹は、いわば暗黙知を形式知(言葉で言い表したり明文化できる知識)へと変換し、組織全体で共有することにあります。
暗黙知を形式知化して共有することができれば、組織全体のパフォーマンスを向上させ、結果的に収益性のアップや顧客満足度の向上へとつながり、さらにイノベーションを生み出すといった相乗効果が期待できるのです。
日本企業の暗黙知は継承されない
かつての日本企業では暗黙知が継承されることで組織のパフォーマンスを保っていました。終身雇用がまだ当たり前だった時代では、上司が自身の持つ暗黙知を部下に伝えるという時間が膨大にあったのです。
しかし終身雇用が崩壊した現代では、暗黙知を継承するには時間が足りず、企業にとっても社員にとっても不利な状況にあるのです(もちろん、終身雇用が崩壊したことで発生したメリットもあります)。
だからこそナレッジ管理を実現し、ベテランやハイパフォーマーの経験や勘を組織全体で共有する必要性が生じています。
ナレッジ管理に成功した事例:酒造りの常識を覆した旭酒造
酒造りの歴史と繁栄を支えてきたのは、杜氏と呼ばれる酒造の職人文化です。酒の状態や食材の鮮度、酒造を行う上で重要なタイミングなどは、すべて杜氏の経験と勘によって保たれていました。
しかしそんな酒造界にイノベーションを起こし、酒造りの常識を覆した企業が存在します。それが、モンドセレクションを始め数々の受賞歴を持つ「獺祭(だっさい)」を製造する旭酒造です。
旭酒造には経営危機に陥っている際に「杜氏に逃げられた」という苦いエピソードがありますが、それが此度のイノベーションを生むきっかけになったとも言えます。
社員だけで酒造を行わなければならない状況に陥った旭酒造では、酒造工程における全データを取得した上で、酒造りの最適解を見つけ出しました。これにより杜氏がいなくとも最適な酒造を行い、社員のみで最高の大吟醸酒を作ることに成功したのです。
これこそナレッジ管理であり、杜氏のみが持っていた暗黙知を形式知化して、全社最適化に貢献しました。
ナレッジ管理を実施するポイント
旭酒造のようにナレッジ管理を成功させるためのポイントを紹介していきます。
ERPで企業資源を集約する
旭酒造ではまず、酒造工程のデータ収集から始めましたが、ナレッジ管理の基礎はこのデータ収集にあります。各業務のデータを詳細にまとめ、ベテランやハイパフォーマーが持つ経験や勘を数値化するのです。
そのために、ERP導入が必要になるケース少なくありません。
ナレッジ管理を全社的に進めていくためには、各部署が利用する業務システムのデータを一元的に管理する必要があります。しかし、各業務システムが単体稼働しているシステム環境では、データ収集や加工だけで膨大な時間を有してしまい、分析する頃には1ヵ月前のデータを参照にしていることも珍しくありません。
従って統合的なシステム環境を提供するERPを導入して、各業務システムから生成されるデータを一元管理してリアルタイムな分析環境を整える必要があります。
マニュアル化、動画化、録音化
データ分析によって知り得た暗黙知は、形式知としてマニュアル化などの作業を行う必要があります。この時、単に明文化するだけでなく動画や音声として残しておくことで、より深いナレッジ管理を行えるようになるのです。
さらに、形式知化した情報を全社員に配信したり、Eラーニングのように閲覧できる環境を整えておくとナレッジ管理が加速します。
受け手を明確に想定するとして
ナレッジとして蓄積する情報は、単に蓄積していくだけでは全社的に浸透していくことはできません。このため、蓄積したナレッジの受け手を想定することが重要になります。
受け手のことを考えることで「最適な伝え方」は変わってきます。また、どういったナレッジ管理ならば受け手が吸収しやすいかを考え、管理環境を整えていくことも大切です。
ナレッジ管理を成功させるERPの特徴とは
ナレッジ管理のポイントでERP導入について触れましたが、ここで重要なことはナレッジ管理を成功させられるERPを選ぶことです。単に統合的なシステム環境を提供するようなERPでは、ナレッジ管理を成功させることは難しくなってしまいます。
ナレッジ管理を成功させるERPの特徴はまず、クラウドベースで提供されていることです。
インターネット経由で統合的なシステム環境を提供するクラウド型ERPは、場所やデバイスを問わず情報共有を可能とします。さらに、コミュニケーションまで取れるソリューションであれば、ナレッジ管理はさらに最適化されるでしょう。
また、BIツールと容易に連携できるという点も重要なポイントです。ERPが統合するデータを迅速に分析できれば、リアルタイムかつ確実なナレッジ管理が実現します。予めBIツールを内包していたり、同ベンダーから提供されているBIツールを連携できるかなどを確認してみましょう。
まとめ
いかがでしょうか?本稿によりナレッジ管理の重要性をご理解いただけたのであれば幸いです。企業規模を問わず、ナレッジ管理は組織全体の底上げと生産性向上が期待できます。ですので、うちは小規模企業だからといってナレッジ管理を諦めないでください。
ナレッジ管理を実現するクラウド型ERPは、今や中小企業を中心に導入されているソリューションです。インフラ調達やシステム運用が不要なことから、導入コストと運用コストを抑えて導入することができます。
将来的な企業成長を実現するために、ナレッジ管理とERP導入をぜひご検討ください。