「ERP?うち中小企業だよ?そんな大規模なシステムにかけるお金も人材もないよ。」
10年前の中小企業経営者ならば、ERPベンダーから営業を持ちかけられても、こんなフレーズで対応した経験が誰にもあるのではないでしょうか?確かに、当時のERPとは大規模かつ高価なもので、大企業が導入するIT製品というイメージが非常に強かったのではないかと思います。
実際に、当時主流だった海外製品のERPを導入すると、必ずといってよいほど大量のアドオン開発によって構築費用は膨れ上がっていました。何より、そのシステムを維持することにお金と人材がかかるので、ERPに価値を見出す中小企業は極めて稀だったでしょう。
ところが、最近ではその事情が一変し、「中小企業こそERPを導入すべきだ」という考え方が急速に拡大しています。本稿では、中小企業でERPが必要になったその背景と、ERPを導入することで得られるメリットとデメリットを両方紹介していきます。
ERPはやっぱり高価なものではないのか?
ERP導入にあたって一番の障壁になるのがやはり「初期費用」と「維持費用」です。第一回目のERPブームが起こった1990年代後半から2000年にかけての時代では、ERP導入にあたって初期投資だけで数億円もかけるような大企業が続出しました。もっと大変なのがその維持コストです。ベンダー保守や開発したアドオンの運用、定期的なアップデート対応などを含めると年間数千万円はくだらないとされています。
こうした多大な投資をしてまで、ERPを導入する価値はあったのかと問われると、残念ながらその価値を引き出せた企業の方が少なかったでしょう。多くのERP導入企業では海外製品の仕様と日本の商習慣のギャップに苦しみ、膨れ上がったアドオン開発によってバージョンロックが起こり、ERPの「塩漬け状態」に陥りました。いつしかERPが企業経営を支えるものから経営を圧迫するなんていう本末転倒なことまで起こっています。
こうした状況を目の当たりにした中小企業経営者としては、ERPに対してあまり良い印象は持っていないかもしれません。
現代ERPの費用感
では、現代のERPは導入に如何ほどの費用がかかるのでしょうか?
まず、パッケージ製品のERPを導入する場合、導入にかかる主な費用項目は「ハードウェア費用」「ソフトウェアライセンス費用」「導入サポート費用」「アドオン開発費用」「トレーニング費用」です。このうち、算出が一番容易なのが「ソフトウェアライセンス費用」です。主に基本ライセンスとユーザーライセンスに分けられているので、導入する製品と利用するユーザーが明確になっていれば、ベンダーホームページの情報からでも算出できます。
ソフトウェアライセンス費用の合計が「100」だとすると、導入サポート費用は「250」、ハードウェア費用は「50」、アドオン開発費用はその必要性にもよりますがおおよそ「75」、トレーニング費用は「18」程かかると考えるのが一般的です。この費用構成には、50ユーザーライセンスを購入した場合、2,500万~3,500万円程度の導入費用がかかります。もちろん導入するソリューションや要件によって異なりますのでご注意ください。
従来のERP導入に比べるとかなり低費用になっている理由は、各ERPベンダーでの度重なるアップデートにより、日本の商習慣にもマッチしたシステム構築が可能になり、アドオン開発の必要性が大幅に減少したからです。実は、ソフトウェアライセンス費用や導入サポート費用などに大きな変化はなく、ERP導入に莫大な投資が必要だったのは往々にしてアドオン開発が膨れ上がっていたからです。
現代では、クラウドERPの台頭によりERP導入費用が安価になったのに加えて、設定や運用が驚くほど簡単になってきているため従来に比べてERP導入の障壁が大きく下がっているのです。
中小企業がERPを導入するメリットとデメリット
肝心なのは、ERP導入にどれくらいの費用がかかるかというよりも、初期費用と維持費用を上回る価値が得られるかどうかです。中小企業がERPを導入することでどんなメリットがあるのか?また、どんなデメリットがあるのでしょうか?併せて紹介します。
中小企業がERPを導入するメリット
1.迅速な経営判断で中小企業ならではの機動力が活かせる
大企業に匹敵するほどの利益率を誇る中小企業の大半が持っている武器は「高い機動力」です。これは、株主等の影響を受けず、経営者のリーダーシップでビジネスを推進できる中小企業ならではの強みです。ERPは、会社全体の情報を一ヵ所に集約し、経営者はそれをリアルタイムに監視することができます。従って、迅速な経営判断によって中小企業ならではの機動力を活かし、非常に素早いビジネスを展開できます。
2.経営資源を効率良く運用し「ヒト・モノ・カネ」の無駄をなくせる
ERPが可視化するのは企業の経営資源である「ヒト・モノ・カネ」です。これらの流れを会社全体で捉えることで、経営資源を効率良く運用することができます。経営資源が限られている中小企業では、適切な場所に資源を集中投下することが成長の秘訣です。
3.財務情報の「今」を把握して大企業並みの管理会計体制が取れる
資金繰りや財務体質に課題を抱えている中小企業は多く、日々の業務に忙殺されてしまいキャッシュフローがどんぶり勘定になり、財務情報がブラックボックス化していないでしょうか?いつ、どんな支払いが発生し、どんな資金が必要になるのか、財務体質の「今」を把握せねば、ビジネスチャンスを簡単に逃してしまいます。ERPによって財務体質を強化すれば、財務情報を素早くデータ化して大企業並みの管理会計体制を整え、資金繰りや財務体質の課題を浮き彫りにできます。
4.統合的な運用・保守費用の削減とTCOを削減できる
ERPを導入していない中小企業でも、各部署に分散しているシステムを運用・保守するためにかかっている費用に課題を持っているはずです。これは、ERPによって統合的なシステム環境を構築することで、運用・保守費用を削減し、TCO(総保有コスト)まで削減できます。
5.海外進出にあたって統合的なシステム環境を構築できる
近年では、海外進出を目指す中小企業が増えています。しかしながら、海外進出のスピードにシステム面での対応が追い付かず、グローバル規模での情報共有がままならない状態です。海外製のERPならば、海外拠点と共有可能なシステム環境を構築でき、情報共有を強化して海外進出スピードをより高めることが可能です。
中小企業がERPを導入するデメリット
1.以前に比べて導入費用・維持費用が高額になるケースがある
統合的なシステム環境を構築するため、安価なパッケージ製品を活用していた企業にとってはERPの導入費用や維持費用が以前よりも高額になるケースもあります。ただし、費用対効果に大きな違いがあるため、コストバランスを考慮しましょう。
2.従来よりも徹底したデータ管理が必要になる
ERPは組織全体が適切に利用し、正しいデータ入力をしてこそ効果を発揮するシステムです。そうすることでプロセスを単純化したり生産性が向上します。ただしデータ入力あってものですのでデータ管理にかかる体制はより強化する必要があります。
3.ベンダーロックインのリスクがある
ERPによって統合的なシステム環境を構築すると、ベンダーの単一化によってベンダー都合の料金アップやアップデートに振り回されてしまう企業もあります。ベンダーロックインに陥らないよう、ERPベンダーごとの特性を捉えたり、導入パートナーと積極的に協業・相談することが大切です。
中小企業にこそERPを
以上のように、中小企業のERP導入にはさまざまなメリットがあり、デメリットもあります。大切なのはメリットを最大限に引き出しつつ、デメリットに有効な対策は何かを考え、最適なERP導入方法を探ることです。ぜひ、自社に合ったERP導入方法を見つけ出し、ビジネスをもう一歩先のステージへと持っていきましょう。