日本と海外における商習慣の違いに驚いた経験はないでしょうか?日本は世界的に見ても独自の文化を築いていますし、ビジネスにおいても同じです。特に、IT業界での日本と海外のギャップは非常に大きく、海外から日本企業に赴任したエンジニアの中には、そのギャップに驚くことが珍しくないそうです。
本稿では、日本のERP導入はなぜ難しいのか?という点について解説します。IT活用に関してはやはり海外の方が先進的ですし、海外事例から見習うべきところはたくさんあります。今後、ERP導入を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
日本企業がERP導入に失敗する理由
まずは、ERP導入に失敗する日本企業の多くに共通する理由について解説していきます。
プロジェクトを丸投げ状態で、ほとんど関与していない
実は、SIer(システムインテグレータ)は日本のIT業界によく見られる独自の文化であり、海外ではほとんどがIT部門を内製化しています。そのため、日本企業の多くはERP導入にあたり、「SIerに任せておけば大丈夫」と考えてしまい、プロジェクトが丸投げ状態になりがちです。もちろん、10割に近い確率で失敗します。
ERP導入自体が目的になり、導入後の運用計画がない
ERP導入でなくても、目的と手段をはき違えてしまうことがよくあります。とりわけ長期プロジェクトになるERP導入では、目的と手段が逆転してしまい、ERPを導入したはいいものの、その後の運用計画が立っていないため、システムを有効活用できません。
IT部門や経営者の利己的な考えで導入している
ERPは誰のためのシステムなのか?これは企業によってさまざまですが、決してIT部門のシステム運用負担を軽減するため、経営者が経営情報を可視化するためだけが目的ではありません。システムを利用するユーザーのことを考えないでいると、導入後に思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。
ERPを活かすためのコミュニケーション基盤ができていない
ERPによって社内の基幹系システムが連携し、複数部門での情報共有が実現し、データ分析のための基盤も整います。しかしながら、それらの基盤を活かすためのコミュニケーションが不足していれば、宝の持ち腐れというものです。たとえるなら、ポーカーのチーム大会で互いの手札は確認できるのに、まったくコミュニケーションが取れずにちぐはぐなゲームをしてしまうのに似ています。
導入スケジュールがタイトすぎる
日本企業の中には、タイトで無理のある導入スケジュールをあえて計画する場合が少なくありません。SIerの負担が増えれば、そのツケは必ず自分に返ってきます。余裕のある導入スケジュールを設定することが大切です。
海外のERP導入の特徴を日本と比較
次に、日本と海外とでERP導入にどのような違いがあるのかを、具体的に解説していきます。
海外企業は意外と要件定義に時間をかける
日本人は繊細で、海外(特に欧米)は大胆、といったイメージを持っている方は多いでしょう。ただし、ERP導入という点においては海外の方が繊細に事を進めるケースが多いかもしれません。
それは、要件定義1つ取っても良くわかることです。海外企業は要件定義を徹底して行います。ERP導入の指針になる要件がしっかりしていなければ、どんなプロジェクトも失敗すると考えているからです。しかも、1つ1つの要件に期待する効果を数値化するなど、かなり具体性を持たせます。
一方、日本企業は繊細でありながら要件定義にあまり時間をかけません。というより、導入スケジュール的にあまり時間がかけられない傾向にあります。SIerに依頼するか、IT部門の内製化を進めているかの違いも大きいでしょう。
100%を目指さないことが成功のポイント
日本には世界に誇れる製造業があり、常に完璧を目指す職人気質は世界からも高い評価を行っています。ただし、ことIT活用に関しては、その完璧主義が仇になることが多いです。
ITはものづくりと違い、完成品にどんどん修正を加えて常に新しい状態を保つことができます。ポジティブに言い換えれば、「問題があればいつでも修正できる」「追加機能が必要であればいつでも追加できる」ということです。
また、綿密に要件定義を行っても実際に導入してみないと想定した効果とどれくらいのギャップが生じるかが分かりません。ならば、100%を目指すのではなく、70~80%を常に目標にしながら、必要に応じて修正を加えていく方が、より早く完璧に近づけます。
海外企業はこの繊細さと大胆さのバランスがよく取れているので、日本よりもIT活用が先進的なのだと考えます。
非エンジニア企業でもIT活用ノウハウを積極的に吸収する
これからの時代、IT活用をどれくらいものにするかでビジネスの明暗が分かれることは、誰もが理解しています。しかし、日本の非エンジニア企業はIT活用に取り組んでも、そのノウハウを積極的に吸収しようとはしません。
前述のようにSIer文化が根付いているからか、「IT活用の主軸はSIerに任せるもの」と考えているのです。一方、会議では非エンジニア企業でもIT活用や導入に関するノウハウを積極的に吸収します。
どんなに些細なことでも、内製化を進めれば必ず業務効率アップとコストダウンが図れるからです。また、そのための投資を惜しみません。
アドオン開発を極力少なく、BPRを実践する
昨今のERP導入では、ゼロから開発するケースは稀中の稀です。ほとんどはパッケージ製品やクラウドサービスから自社にマッチしたERPを選択します。導入速度とコストバランスを考慮すれば、フルスクラッチにメリットはありません。
では、パッケージ製品やクラウドサービスを導入するにあたり、注意すべき点は何か?それは、業務プロセスを適宜システムに合わせることです。
日本企業は業務要件を100%満たそうと、アドオン開発に力を入れます。一方、海外企業は要件を満たすために、BPR(ビジネスプロセス再設計)を実施してシステム側に業務プロセスを合わせます。
この違いは非常に大きく、アドオン開発が膨らむほどシステムは複雑になり、修正やアップデート対応が難しくなります。これも日本と海外におけるERP導入の大きな違いです。
海外企業のERP導入を参考に、日本独自のERP導入を!
ERP導入は海外企業のそれが最適解とは限りません。しかし、日本と海外のプロジェクト成功率の違いを考慮すれば、海外企業を参考すべき点はたくさんあります。何より、昨今のERPは標準化が進み、海外および日本のシステム差はなくなりつつあります。となれば、海外企業のERP導入事例を参考にしても問題はないはずです。
その上で、日本の商習慣を鑑みながら日本独自のERP導入を目指していくことで、ERP導入を成功させる秘訣になります。今後、ERP導入を検討する場合は、海外企業の成功事例を参考にしながら、自社独自のERP導入についても考えていきましょう。もちろん、本稿で解説した内容がすべてではないので、あらゆる情報を収集しながら、ERP導入の道を模索してください。