ERPはもはや「大企業のための経営システム」ではありません。いまでは、中堅・中小企業こそ積極的に導入すべき経営システムとして広く認知されるようになりました。
というのも、中小企業では大企業ほど事業の多角化を行っていないため、ほぼERPの初期デフォルト設定で業務に適用できるケースが珍しくなく、故に「ERPの導入効果」という視点で見ると大きい可能性が高いからと言えます。
大企業でERPの導入事例が先行しているのは、潤沢な資産によって従来高額だったシステムを導入できるのが大企業だけだったこと、ERP導入専用のシステムの扱いに長けた人材が多いこと、そしてデータを活用するノウハウを持っていることなどが理由として挙げられます。しかし、クラウド化の波が大きくなった今日、中小企業も競争力強化や業務の効率化は必要不可欠であり「中小企業こそERPを導入すべきだ」という声は日ごと大きくなっているのです。
本記事でご紹介するのは、そんな中堅・中小企業がERP導入時に留意すべき要件についてです。特に、初めてERPを導入する際は何に着目し製品を選べば良いのか?その点を詳しく解説したいと思います。
要件1.中堅・中小企業だからこそ「クラウドファースト」
「クラウドファースト」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?クラウドサービス普及期とも言える2010年頃から聞こえ始めた言葉で、何かシステムを導入する時はクラウドサービスを優先的に検討しようという思想です。
クラウドサービス(として提供されているERP)というのは、ソフトウェアライセンスを購入して社内サーバーに設置するのではなく、インターネット経由でERPをサービスとして利用します。皆さんの多くがOutlook.comやGmailなどのウェブメールサービス、あるいはDropboxやBoxなどのクラウドストレージサービスを利用したことがあるかと思います。要するに、クラウドサービスとはそれらのサービスを利用するのと同じようにERPが利用できるというわけです。
すでにお気づきですね。クラウドサービスならば「保守運用」に関わる作業が不要になります。システムを動かすためのサーバーやそれに伴う運用は事業者がおこなうため、利用者は利用のみに集中できます。つまり、そのことはIT人材が限られている、あるいはIT人材が在籍していない中堅・中小企業でも業務全体をカバーするERPを導入・運用ができてしまうわけです。また、昨今のクラウドERPは、比較的安価であるだけでなく利用料金として価格が明確化されているため導入しやすい特徴があります。
そのため、中堅・中小企業がERPを導入する際の第一要件として、まずはクラウドファーストを意識してみましょう。
要件2. 既存の業務プロセスを可能な限り崩さずに導入できるもの
ERP導入では良くも悪くも既存の業務プロセスを大きく変革するケースが多いことも事実です。
以前、大企業において自社の業務プロセスに合わせてERPを導入するケースが頻発していました。既存業務プロセスに合わせると言うことは、製品としてのERPにカスタマイズやアドオン開発を多く加えることを意味します。その結果、最新のERPにアップグレードする際にテストなど膨大な作業が発生しコストを圧迫するために「塩漬け状態(システムが複雑化しバージョンアップできない状態)」に陥ったケースが相次ぎました。戦略的に導入したERPが、自社の事業に追いつかないと言う悪循環が生まれてしまったのです。
中小企業の場合には、大企業よりも比較的柔軟に業務プロセスを変更できたりします。また、最新のクラウドERPにおいては洗練されたビジネスプロセスが既に標準で備わっていることが多くなっています。そのような状況を踏まえると可能な限りアドオン開発やカスタマイズを加えないで導入することがERPの効果を最大限発揮できると理解すべきかと思います。
要件3. ビジネスアプリケーションの開発環境が整っている
1つ目の要件としてクラウドファーストを推奨しました。ただし、これには問題点が1つあります。クラウドサービスというのはつまりERP提供事業者が作り上げたシステムなので、企業独自にカスタマイズすることが難しい、という点です。つまり、クラウドサービスでは要件2であげた「既存の業務プロセスを可能な限り崩さない導入」が場合によっては至難だということです。
そこで新たに要件として加えていただきたいのが、「ビジネスアプリケーションの開発環境」が整っているクラウドサービス型のERPに目を向けることです。これはどういうことなのか?数あるERPの中には、クラウドサービスであっても柔軟性を確保できるように新しいビジネスアプリケーションが開発可能な独自の環境を整えている製品があります。
その開発環境上で作られたビジネスアプリケーションは、システムに複雑化を極力抑えることになるため、ERPがアップデートされても正常に動作するケースが非常に多いです。アップデートの際も動作検証に時間を割くことがないので、「塩漬け状態」に陥らずにERPを既存の業務プロセスへと合わせることができます。
既存の業務プロセスとERPの標準機能とで合致している部分は積極的に採用し、足りない部分を簡単に開発可能なビジネスアプリケーションで補うことにより中堅・中小企業にとって非常に現状の即した実用的なERP導入が実現します。また、自由にワークフローを整えられたり、分析環境を提供できている、AIやIoTといった最新トレンドにも対応できていることも重要なポイントになりますので忘れずにご確認ください。
目的に応じた製品・パートナー選びを
いかがでしょうか?本記事では中堅・中小企業のERP導入で留意していただきたい3つの要件をご紹介しました。最後にお伝えしたいのは、ERPを導入する際はまずその目的を明確にして、それに応じた製品やパートナーを選ぶことです。製品・パートナーによって導入スタイルの違いと、精通しているビジネスが異なります。自社はなぜERPが必要なのか?自社ビジネスにマッチした製品は何か?協業すべきパートナーはどこか?これらを慎重に選ぶことが、ERP導入成功の第一歩となります。また、現時点でERPを導入する予定はないという場合は、この機会に自社ビジネスにおけるERP導入の効果をぜひ検討してみてください。