本記事では、知っているようで意外と知らない「保全」「保守」「メンテナンス」の違いを解説します。製造業やソフトウェア業では、設備やシステムを持続的に稼働させるための活動が欠かせません。それが「保全」であり「保守」であり、「メンテナンス」となります。ただし、それぞれにはどのような意味合いの違いがあるのでしょうか?
「保全」「保守」「メンテナンス」を整理
まずはそれぞれの言葉の意味から、「保全」「保守」「メンテナンス」の分類を整理します。
保全
⇒[名](スル)保護して安全であるようにすること。「財産を保全する」「環境保全」
保守
⇒[名](スル)
- 正常な状態を保つこと。「休業時も機械を保守する」「線路の保守点検」
- 旧来の風習・伝統・考え方などを重んじて守っていこうとすること。また、その立場。「保守派」⇔革新。
メンテナンス
⇒ネットワークやシステム、ハードディスクなどの保守・点検作業のこと。メンテナンスの必要がないことを、「メンテナンスフリー」という。
以上から、言葉の分類として「保守」と「メンテナンス」はほとんど同じ意味で使われることが分かります。実際に現場では「保守=メンテナンス」の意味で使われることが多いため、この2つの言葉は同義と考えてよいでしょう。
「保全」とは何か?
「保全」「保守」「メンテナンス」の中で最も理解が難しいのが保全です。ここではその保全について掘り下げて解説していきます。
保全には「事後保全」「予防保全」「予知保全」という3つのプロセスがあります。それぞれの意味を以下に説明します。
事後保全
機能が停止したり、パフォーマンスが低下したりした設備やシステムに対して、原因を究明して対処するのが事後保全です。設備やシステムにトラブルが発生した場合、何が原因となっているのか?を究明することに始まり、ドキュメントを確認しながら解決策を考案します。その場で対処可能なトラブルについては素早く対応し、新しい部品等が必要な場合は発注をかけてできる限り素早くトラブルを解決するためのアクションを取ります。
予防保全
予防保全は、「定期メンテナンス」と「予防メンテナンス」と呼ばれるさらに2つのプロセスに分けて考えます。
<定期メンテナンス>
設備やシステムを安定稼働させるために、点検・修理・部品交換などを保全計画としてスケジューリングし、定期的にメンテナンス(保守作業)にあたることです。部品交換の目安については一定期間で定める「時間基準保全」、部品の劣化具合に応じて交換する「状態基準保全」があります。
事後保全はトラブルが起きた際の対処なので、問題を未然に防ぐことができません。対して定期メンテナンスを行うことで、トラブルを抑止して機械やシステムの寿命を延ばすことができます。
<予防メンテナンス>
設備やシステムの安全稼働のために行う活動を予防メンテナンスといいます。部品がどれくらい劣化しているのか?などを調べ、交換が必要なタイミングで処置を行います。必要な部品だけを事前に調査してから調達するので、時間・コストを限りなく抑えることが可能です。ただし、点検ヵ所や部品寿命の見極めて大切であり、作業員の負担は決して軽くありません。
予防メンテナンスでは、修理が占める割合を最小限に抑えることが理想です。ところが、設備やシステムの保守作業が複雑になるほど、定期メンテナンスや予防メンテナンスでも見つけられない要因によって故障や障害が発生します。現場では、定期メンテナンスと予防メンテナンスをすり抜けた問題を種類ですくうとうのが一般的なプロセスです。
予知保全
定期メンテナンスでは一定期間ごとにメンテナンスを実行しますが、予知メンテナンスでは機械や設備に取りつけら得たセンサーからデータを取得し、設備やシステムの稼働状況を可視化した上でセンサーから送られてくるデータを解析し、情報として表すことで機械・設備の健康状態を確認できます。
異常個所の兆候が見られれば、素早く予防メンテナンスを実施して以上が発生する前に対処できます。予知メンテナンスを実行することにより、実質的に故障・障害ゼロを目指すことが可能です。
運用と保守を徹底するメリットとは?
製造業やソフトウェア業では、運用と保守の業務を当たり前のように実施しています。しかし、これらの業務を徹底することで具体的に得られるメリットを知る人は、案外少ないかもしれません。
メリット1. 製造品質の安定化
運用と保守を徹底することで、機械・設備が原因によって起こる不良発生を防ぐことが可能になります。これはつまり、製品品質が安定することを意味します。ひとたび不良が発生すれば、それを改善するのに多大なコストがかかり、不良品が市場に流通してしまうとリコールなど大規模な損失に発展する可能性があります。これを防ぐために抱えないのが、運用と保守の徹底です。
メリット2. 稼働能率のアップ
機会や設備の稼働能率を工場することは、運用や保守にかかわるコストを大幅に削減できます。事後対応が少なくなることで製造停止を防ぐことができますし、それによって生産性を大幅にアップします。
メリット3. 耐用年数が伸びる
設備等の定期メンテナンスを実施し、締結されているボルトやナットの締め込み、給油、周辺部品や付帯設備への損傷予防などによって設備の耐用年数がアップし、長く安定した稼働が望めます。
メリット4. 設備・システムの理解
運用と保守を日常的に実施することで、設備やシステムへの理解を深めることに繋がり。メンテナンスに関するノウハウも蓄積されていきます。
ERPで予知保全に取り組もう!
これからの製造業やソフトウェア業に欠かせない保全スタイルが予知保全です。これを実現することで、故障・障害率ゼロを目指すことが可能になり、予知保全をサービス化してビジネスモデルを確立することも可能になります。従来、保全作業はコストしかかからないと考えられてきましたが、AI・IoTを駆使した保全活動によってその状況は一変しました。
予知保全を実現することで戦略的な保全活動に取り組め、保全コストを最小限に留めながら生産性の大幅な工場を目指す企業が増えています。その中核を担っているシステムがERP(Enterprise Resource Planning)です。ERPによってあらゆるシステムとAI・IoTが繋がることで、さまざまなデータを解析して最良の結果を導き出します。予知保全導入の際は、ERPを検討してみましょう。