「顧客満足度」の向上を追いかけ、日々商品開発やサービス品質向上などに奮戦している企業がほとんどの時代です。皆さんの企業においては、どのような施策で顧客満足度を高めているでしょうか?
今回の主題であるカスタマーエクスペリエンスは顧客満足度とは似て非なる概念であり、現在多くの企業に求められるビジネススタイルでもあります。実は、顧客満足度を追うだけでは競合他社との差別化を図ったり、ロイヤルカスタマーを獲得することは難しくなっているのです。
その理由と、カスタマーエクスペリエンスの重要性とは何なのでしょうか?
カスタマーエクスペリエンスの定義
日本語で「顧客体験」「消費者体験」といった意味のあるカスタマーエクスペリエンスですが、噛み砕いて言えば、顧客が商品やサービスを通じて得られる、またはそこに至るまでのプロセルで生じた「体験価値」を指す言葉です。
顧客が新しい商品やサービスを知る経験や商品やサービスの金銭的・物質的な価値に加えて、その商品の感動や満足感、効果など心理的なもの、感覚的なものすべての価値、それがカスタマーエクスペリエンスです。
この概念を提唱したバーンド・H.シュミット(Bernd H. Schmitt)氏は、この経験価値は5つの側面があるとしています。
- 感覚的経験価値:店舗のBGM、香り、デザイン、商品陳列など、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感を通じた経験
- 情緒的経験価値:親切なサービスや話し方など顧客の感情に訴えかける経験
- 創造的・認知的経験価値:商品のコンセプトや企業理念などを顧客に伝えることで顧客の知性や好奇心に訴えかける経験
- 肉体的経験価値とライフスタイル全般:日常生活においての新しいライフスタイルの提案による行動における経営
- 準拠集団や文化との関連づけ:エコ、ボランティア活動、ブランドを身に着ける喜びなど、特定の文化やグループの一員であるという帰属意識感覚
カスタマーエクスペリエンスの例
この体験について理解しづらい部分もあるので、カスタマーエクスペリエンスのある例を次に示します。
あなたは次の連休を使って、家族と旅行に出かけていることを考えています。
まずはGoogleなどの検索エンジンで子供が喜びそうなテーマパークを探し、いくつかピックアップ。各テーマパークの周辺施設も調査し、宿泊するホテルもピックアップする。
自宅からのアクセスも考慮して、旅行先は体験型のアトラクションが多いテーマパークがあるA市に決定。
次にホテルの予約を行うために、ホテルのホームページや楽天トラベルなどでプラン内容を確認し、最終的には「予約画面が分かりやすい」ホテルのホームページから予約。また、事前にGoogleマップで目的地へのアクセスも確認。
旅行当日、「天気は晴天」であり予定通りの時間に出発。目的地へ至るまでの高速道路では「渋滞もなく」予定よりも早く到着した。
まずは旅行のメインでもあるテーマパークに入場し、夕方ごろまで遊ぶ。想像していたよりも空いていたためアトラクションも多く利用でき、「子供も満足そうにしている」様子。
宿泊先のホテルに着くと清潔に保たれた館内に「居心地の良さを感じる」。部屋も綺麗に清掃されており、「嫌な匂いなどもない」。
夕食は宿泊プランに含まれているコースディナーで、自宅周辺ではあまり口にしない新鮮な野菜やお肉を使用した「料理に満足し」、食後部屋に戻る。
部屋に戻ると子供が今日は楽しかったと話しており「来て良かった」と感じた。
上記の例をホテルのスタッフ視点で考えてみると、ホテルには関係のない所でも旅行者はカスタマーエクスペリエンスを感じていることになります。事実、カスタマーエクスペリエンスとはホテルのサービスに顧客が触れた時だけに発生するのではなく、そこに至るまでの道のりにも関連するものなのです。
つまり、旅行当日が悪天候であったり、渋滞にハマってしまったり、テーマパークが思っているよりつまらなかったりすると、どんなにホテルのサービスが良質なものでも、評価に限界があるのです。
理不尽ではありますがこれがカスタマーエクスペリエンスの実情です。逆に言えば、カスタマーエクスペリエンスを上手くマネジメントできれば、ロイヤルカスタマーの獲得や顧客生涯価値(LTV)の向上を大いに望めるということでもあります。
カスタマーエクスペリエンスとはこうした顧客体験全体を捉え、それらを最適化していくことで、自社商品やサービスの価値を向上し、顧客が自社と関わる上での価値を創造していくことなのです。
関連記事:Microsoft HoloLensとDynamics 365で実現する小売業のカスタマーエクスペリエンス戦略
カスタマーエクスペリエンスに取り組むメリット
カスタマーエクスペリエンスへ取り組むことで競合他社との差別化、ロイヤルカスタマーの獲得、顧客生涯価値や顧客満足度の向上など様々なメリットがあります。
例えば性能、価格、デザインともにほぼ同等な商品Aと商品Bがあるとします。
違うことは商品購入までに至るプロセスです。商品Aでは電話での購入あるいは実店舗での購入のみしか行えないのに対し、商品Bではオンラインショップでの購入が可能でTポイントを使用することも可能です。
商品Bを購入した顧客は「面倒なく購入できた」「使いどころが分からなかったポイントでお得になった」といった良質な体験を得ることができます。
カスタマーエクスペリエンスでこうした顧客体験を提供することで、上記のような様々なメリットを得ることができるのです。
また、カスタマーエクスペリエンスに取り組むことで得られるメリットは対外的なものだけではありません。
対内的に見ると、カスタマーエクスペリエンスへの取り組みの際は組織内情報を統合的に管理する必要があるため、組織全体が多様なデータへアクセスできるというメリットがあります。
これにより各部門が今までアクセスできなかったデータを参照することができるので、各業務での効率性が非常にアップします。また、横断的な組織体制を取ることで組織全体が企業理念やメッセージを理解しやすくない、スタッフ同士の助け合いなども増えます。
他にも顧客体験を主眼に置くことで自社商品やサービスを見える視点が変わったり、様々なメリットを得ることができるのです。
カスタマーエクスペリエンス向上のためのKPI定義
KPIとは、カスタマーエクスペリエンス向上の最終的な目標を達成するための中間目標のようなものであり、「Kye Performance Indicator(重要業績評価指標)」の略となります。
例えば「3ヵ月で100万円貯めるぞ」という目標を立てた場合、このままの漠然としてものでは目標を達成することは困難です。そこで「3カ月で100万円」という最終目標に到達するまでの、プロセスを細分化して考えます。
- 1ヵ月の目標金額は33.4万円
- 1週間の目標金額は8.35万円
- 1日の目標金額は1.19万円
- 1日の目標金額を達成するために必要な稼働時間
- 1日の目標金額に到達するために必要な作業数
このように、最終目標を細かく砕き、中間目標を具体的に設定することで今やるべきことを明確にしたり、最終目標へと近づけているかを評価することができます。
カスタマーエクスペリエンスにおいてこのKPIの設定は欠かせません。そしてKPIは、「人を動かすため」に存在します。
漠然として最終目標ではなく、明確な指標が見えていれば指針が決まり動くことができます。視点を変えて言えば、KPIさえ追っていれば最終的な目標は達成できるということでもあるのです。
カスタマーエクスペリエンスにおけるKPIは主にSNSマーケティングでのエンゲージメント率や、アクセス解析で判る自社サイトへのPV数、商品やサービスへのリピート率などを指標とする場合が大半です。
しかし前述の通り、顧客が感じるカスタマーエクスペリエンスは商品やサービスに関係のないところでも発生しているので、固定的な概念にとらわれず、柔軟にKPIを設定していくことが大切です。
まとめ
商品やサービスの種類によってカスタマーエクスペリエンは異なります。まずは自社が提供できるカスタマーエクスペリエンスの整理から始めてみましょう。タッチポイントごとの顧客体験を考えることで、まったく違った視点で自社を見つめ直す機会にもなります。
カスタマーエクスペリエンスを上手にマネジメントしていくことは、今後さらに重要な経営課題として全ての企業で浮上していくでしょう。