「カスタマーエクスペリエンス(Customer Experience:CX)」は今や広く知られる概念であり、中堅/大企業のほとんどはその向上に努めていますし、中小企業でもカスタマーエクスペリエンスに着目している企業は多いでしょう。
本稿では、BtoB企業においてこのカスタマーエクスペリエンスを向上するためのポイントについて解説していきます。
カスタマーエクスペリエンス(CX)とは?
カスタマーエクスペリエンスについて簡単に説明すると、それは「商品やサービスを通じて、顧客に提供する特別な体験」です。そして、カスタマーエクスペリエンスによって顧客が得る価値は下記5つの要素に分類されます。
- Sense:感覚的体験価値
互換を通じて得られる体験的価値。たとえばお洒落なカフェの空間や、家具およびレイアウト、そこで流れているBGMや感じる香など。
- Feel:情緒的体験価値
スタッフの丁寧な接客や気配りなどで消費者の感情に働きかけて生まれる体験的価値。す。
- Think:創造的体験価値
商品やサービスが持つコンセプトや、企業ブランドを全面的に押し出すことで消費者の知的好奇心や探求心を刺激し、生まれる体験的価値。
- Act:ライフスタイル的体験価値
日々のライフスタイルに変化を起こすことで生まれる体験価値。
- Relate:準拠集団や文化との関連付け
集団に対する帰属意識に関連し生み出される体験的価値。たとえばファンクラブやグッズ等が典型的なパターン。
誤解してはいけないカスタマーエクスペリエンスのポイント3つ
まずは、カスタマーエクスペリエンスのよくある誤解を正していきたいと思います。
誤解1.カスタマーエクスペリエンス向上は「おもてなし強化」ではない
一番多い誤解が「カスタマーエクスペリエンス向上=おもてなし強化」だと考えていることでしょう。さらに「おもてなし」という言葉からスタッフ1人1人の心のこもった接客を連想することが多く、それが大きな誤解と間違った取り組みを生んでいます。
カスタマーエクスペリエンス向上をおもてなし強化としてしまうと、現場スタッフに対する接客教育が施策の中心になり、「お客様がより気持ちよく過ごせるように心がける」といったコンセプトが現場に浸透します。
確かに、お客様が気持ちよく過ごせることはカスタマーエクスペリエンス向上に向けた重要な一部ではあります。しかしながら、カスタマーエクスペリエンスとは「商品やサービスを通じて、顧客に提供する特別な体験」が生む価値であり、それはあくまで顧客の主観で決まるものです。
なので、お客様が気持ちよく過ごせるかどうか以前に、「お客様は価値を感じているか?」という考えを優先しなければ、顧客の心情をくみ取ることは難しく、ひいてはカスタマーエクスペリエンス向上も難しくなってしまいます。
誤解2.カスタマーエクスペリエンス向上は「個別接点のブラッシュアップ」ではない
カスタマーエクスペリエンス向上に取り組む企業の中には、顧客とのタッチポイント(接点)を個別に改善することに注力している企業が多く存在します。顧客アンケートや顧客インタビューを通じ、接客/配送/製品/Webサイト/サポートなど各接点を評価して担当部署ごとに改善策を実行します。
一見効率良くカスタマーエクスペリエンス向上へ取り組んでいるように見えますが、実はカスタマーエクスペリエンスの課題の多くはタッチポイント同士のつなぎの部分で発生します。
たとえばある企業では、顧客は個々のやり取りには高い満足度を示しているものの、顧客の購買行動が進捗するにつれて主要顧客の平均満足度は半数近く低下していたそうです。個別のタッチポインでの品質に満足はしていても、Webサイトから店舗、店舗からコールセンターといった異なるチャネル間のギャップが、顧客の不満を少しずつ蓄積していきます。
企業側ではタッチポイントが複数あっても、顧客側から見れば1つの組織なので「部署が違うから対応できない、情報伝達ができていない」は通用しません。
誤解3.カスタマーエクスペリエンス向上は「顧客の不満解消」ではない
従来の顧客満足度向上ではVOC(Voice of Customer)をベースに、顧客の不満の発見と解消に努めることが主な活動でした。カスタマーエクスペリエンス向上においても、現時点で発生している課題を早期発見し、その原因を追究し、改善策を実行するという方法で臨もうとしている企業が多いのではないでしょうか?
もちろん、そうした活動は重要である一方、カスタマーエクスペリエンス向上のゴールとしてはかなり不十分になってしまうのが現実です。従来通りのアプローチは取り組むべき課題がはっきりしている分、改善が比較的容易で、競合他社も追随しやすい特徴があります。しかし競合優位性を手にするためにはマイナスをゼロにするのではなく、ゼロからプラスを生み出していく活動が重用です。
従ってカスタマーエクスペリエンス向上が単なる「顧客の不満解消」になってしまうと、実のところカスタマーエクスペリエンスは向上されず、単に企業のマイナス面が減少したに過ぎないのです。
BtoB企業におけるカスタマーエクスペリエンス向上のポイント
上記の内容を踏まえてBtoB企業におけるカスタマーエクスペリエンス向上のポイントを整理していきます。
Point 1.BtoB顧客はBtoC顧客に比べて期待値が高い
BtoB商品およびサービスは、BtoCのそれに比べると企業の顧客との接点が多く長期的になることが多いでしょう。従ってBtoB顧客の期待値はBtoC顧客に比べて高くなる傾向があります。中でも「コミュニケーション」「サポート」「ニーズ把握」は重要度の高いポイントであり、この点の向上に努めることでカスタマーエクスペリエンス向上に繋がることが多くなっています。
Point 2.MOT(Moments of Truth)を見極める
MOTは米ガートナーが唱えるスタマーエクスペリエンスの概念で、顧客には企業の価値を判断する「真実の瞬間」という契機があると考えています。言い換えれば顧客のニーズが顕著に表れる瞬間のことです。このMOTに間違ったカスタマーエクスペリエンスを提供してしまうと顧客が離れていく可能性が高くなるため、MOTを見極めることがとても大切です。顧客サポートでは使い方を説明するドキュメント、営業ならば顧客企業の経営層との関係や四半期レビュー、マーケティングならでも動画などがMOTに該当します。
Point 3.営業プロセスマップを作る
MOTを明確にするのは営業プロセスを図示したマップを作成し、顧客対応の現状を内部から把握することが大切です。マーケティングによって生まれたリードが営業の見込み客となり、顧客になっていくプロセスをマップにします。
Point 4.MOTを分類して対応優先順位を付ける
MOTを洗い出すことに成功したらカテゴリごとに分類して対応の優先順位を付けます。これによって効率良くカスタマーエクスペリエンス向上に取り組みます。
Point 5.タッチポイント同士のつなぎの質を上げる
タッチポイント同士のつなぎの質を上げるためには、担当部署間で情報共有可能な基盤が必要になります。ERP(Enterprise Resource Planning)等を積極的に検討して基盤を作っていきましょう。
まずはカスタマーエクスペリエンスによくある誤解を理解した上で、これらのポイントを押さえてカスタマーエクスペリエンス向上に取り組んでいただきたいと思います。