国内では、保全作業の怠りやミスによってさまざまな事故が発生しています。これらは定期的な保全と適切な作業がされていれば、起きなかった問題です。
もし企業が所有する設備によって大きな事故が発生した場合、その責任が追求される可能性もあります。そのため、適切な整備作業を行うために、設備保全管理システムの導入を考えましょう。
設備保全とは?
設備保全とは、企業などが所有している設備を安定稼働させるために行うメンテナンス作業のことです。設備の状態に合わせて、以下の3種類があります。
1.予防保全
設備が故障しないように、予防として定期的に行うメンテナンス作業です。設備に異常がないので、以下の2つの基準を元にメンテナンス箇所を決定します。
時間基準保全
設備の時間経過や使用頻度に合わせて、定期的に部品を交換するメンテナンス方法です。交換時期は、同機種や過去事例を元に判断します。
設備の異常は、「経年劣化」「腐食」「摩耗」といった時間経過で起こります。たとえば、「5年で故障することが多い」「10万回起動したら壊れる」など、それぞれの部品によって寿命があります。こうした寿命が来る前に、交換してしまうのが時間基準保全です。交換タイミングは、早すぎてもコストがかかりますし、遅すぎても故障してしまう可能性があるため、適切なタイミングを設定しなくてはいけません。
状態基準保全
状態基準保全は、設備の劣化具合に合わせて対応する手法です。状態の把握には測定器が用いられますが、近年ではAIやIoTも利用します。設備状態の適切なデータが取得できれば、時間基準保全よりも「コスト」「時期」の両面で最適なタイミングでメンテナンスが可能です。
2.事後保全
設備に異常が見られた際にメンテナンス作業を実施する手法です。以下のいずれかの問題が確認されたときに、事後保全を行います。
機能停止型故障
設備の停止によって保全作業が実施されます。緊急保全とも呼ばれており、企業にとっては大きな問題のため迅速に修理を行わなければいけません。
機能低下型故障
設備の機能が低下しているような症状が見られたときに行うメンテナンス作業です。「圧力が弱い」「ラインの動きが悪い」など、通常の状態から見て機能が悪化していると判断された場合に作業を実施します。設備本来の性能が発揮できないだけでなく、機能停止の可能性もあるため素早く保全を行わなければいけません。
3.予知保全
予知保全では、故障の兆候が確認された時に作業を実施します。判断基準が機能低下型故障と似ていますが、こちらは人間の目には異常が発見されていない状態です。状態の判断は、IoTなどの監視システムによって行い、「設備温度が通常よりも高い」「回転数が低くなっている」など、「故障に繋がりそうな事象」が発現した時にメンテナンスします。状態基準保全よりも、より正確なタイミングで修理が可能です。
設備保全の課題
設備保全の課題には、ヒューマンエラーの軽減や環境変化への対応があります。このうちヒューマンエラーに関わる問題では、毎年発生しているさまざまな業種での事故が挙げられます。たとえば、国土交通省では、平成14年4月〜令和3年3月末までに925件の車輪脱落事故が発生していると発表しています。これはタイヤ交換時・交換後の作業不備によるものとされており、整備の問題が指摘されています。
その他にも、航空機、列車、バス、船舶など、乗り物に関わるヒューマンエラーは多く、死亡事故につながることもあるのです。また、工場やインフラでも問題は発生しています。工場の設備には、人が巻き込まれてしまうと危険なものが多く、インフラの老朽化によって死亡事故につながるケースも散見されます。
そして、こうしたさまざまな問題は、これからも増えてくる可能性があるのです。日本は少子高齢化が叫ばれており、人材不足が深刻化しています。人手が足りなければ、「時間がかかる」「全ての作業に手が回らない」「セミナーなどの時間がなく若手の育成ができない」といったさまざまな問題が生じるのです。
これら環境の変化への対応もしなければ、問題はどんどんと大きくなるでしょう。
設備保全管理システム(CMMS)とは?
設備保全管理システム(CMMS)は、設備保全をICTシステム化したものです。「Computerized Maintenance Management System」の頭文字をとったもので、「予防保全に関わるスケジューリングの自動化」「実施工程の最適化」「在庫最適化」「IoTデータの管理・統合」など、保全業務に関わる作業を効率化します。現在では、製造業、運輸業、建設業、原油・ガス鉱業、電気業など、幅広い業種で導入されています。
このシステムを企業が導入する際には、CMMSソリューションとして提供されているサービスか、IoTやAIの機能を活用して独自で構築する方法があります。ソリューションとして提供されているものは、導入後そのまま利用できるのがメリットです。しかし、汎用的なサービスなので、柔軟性がないというデメリットがあります。
一方、IoTやAI機能を使用して自前でCMMSを構築する場合は、柔軟性が高くさまざまな業種や業務プロセスに対応できます。システムの構築が多少必要ですが、多くの機能と連携ができるためメリットが大きいのです。
設備保全管理システムの基本機能
設備保全管理システムは、以下のような基本機能を備え付けています。
予防保守
設定した保全の方式に基づいて、作業サイクルを自動で設定します。そして、作業順序の順位付けやスケジューリングを自動で行います。
リソースと労務管理
作業員と機材の空きを確認して、タスクの割り当てを行います。さらにシフトや賃金率も管理します。
作業指示管理
「作業指示番号」「概要・優先順位」「注文タイプ」「原因・対処法」「実施に当たる作業員と機材」といった情報を管理します。また、「作業指示書の自動作成」「保全関連の文書添付」「コスト記録」といった機能もあります。
資産情報管理
「メーカー・モデル・シリアル番号・クラス・タイプ」「コスト・コード」「ロケーション」「パフォーマンス・ダウンタイム統計」「関連資料」「保全に使用する機材(センサー、IoTなど)」といった情報を管理します。ユーザーはこれらの情報に常時アクセスできて、保存や共有も可能です。
保全パーツの管理
「保管場所」「配送センター」「在庫」「サプライヤー」などを管理します。また、在庫コストの状況に合わせて、供給を自動で行います。
レポート、分析
保守に関わるレポートを自動で生成可能です。データ分析を自動で行ってレポート化することで、意思決定に役立てられます。
設備保全管理システムを導入するメリット
CMMSの導入により、前述した「ヒューマンエラー」「環境の変化」といった課題の解決を促せます。たとえば、これまで人力で行っていた「スケジューリング」「人事の割り当て・機材の確認」「在庫確認」「在庫に基づいた定期的な供給」など、さまざまな作業が自動化されます。これにより従業員は、保守作業だけに集中できるのです。
さらにワークフローは全体で可視化されており、実施内容がすぐにわかります。そのため、現場に行って問題箇所の発見に時間を費やしたり、作業員によって対応が変わったりするのを防げます。作業レベルの振り分けもできるので、最適な作業員に適切な業務の振り分けが可能です。
また、IoTやAIを導入すれば、人の目ではわからない異常をセンサーが検知します。さらにコンプライアンス管理に関わるレポートも自動で作成されるため、現場の状況が適正に保たれます。これらによりヒューマンエラーを防ぐことが可能です。
まとめ
設備保全管理システム(CMMS)では、保全に関わる作業の自動化・管理などを行います。これにより従業員は、適切なタイミングで最適な保全作業を行うことが可能です。ヒューマンエラーや保全の怠りによる事故を防ぐだけでなく、人手不足の解消にも繋がります。
CMMSの導入には専用のソリューションを導入するのもよいですが、MicrosoftのAzureのIoT関連サービスを利用するのも手です。IoTとAIにより、設備不良の予兆を掴んで最適なタイミングで保全ができる他、自社独自のサービス構築も可能です。設備保全が必須な企業では、こうしたシステムを導入して安定的な業務運営を実現しましょう。