現在、業界を問わず「クラウドファースト」という概念が浸透しています。クラウドファーストとは、ITシステム導入やインフラ調達時に、クラウドでの導入を優先して検討するという考えです。IT市場専門のリサーチ会社であるMM総研の調べによれば、約8割の企業がクラウドファーストの考えのもと、クラウドによるITシステム導入やインフラ調達を検討しています。
統合されたシステム環境を提供する、ERP市場においてもこの動向は顕著であり、多くの企業がクラウドERPの導入や移行を行っています。今回は、そんなクラウドERP導入のメリットとデメリットについて紹介していきたいと思います。
クラウドERP導入10のメリット
1.低コストかつ短期間での導入ができる
オンプレミスで構築する大規模ERPに比べて、クラウドERPは低コストかつ短期間で導入できるというメリットがあります。なぜなら、クラウドERPは「導入する」ではなく、「利用する」統合システム環境であるためです。
通常、ERP導入といえばサーバを設置し、ソフトウェアをインストールし、細かいパラメータ設定などを行ってから運用をスタートします。そのため、導入からカットオーバー(本格稼働)まで1年以上の時間がかかることも少なくありません。
一方クラウドERPは、インターネット経由でERPを利用します。このためコストのかかるインフラ調達などが不要で、導入コストと導入期間を抑えることができます。
2.システム運用・管理業務が少なくITリソースを有効活用できる
インターネット経由でERPを「利用する」クラウドERPは、システム運用や管理業務が少ないのが特徴です。クラウドERPのシステム運用・管理は基本、提供事業者が行うため、導入企業での負担が少ないのです。
これにより、ITリソースを有効活用し、企業のIT戦略に注力することができます。
3.都度のバージョンアップ対応が不要になる
オンプレミスで導入したERPの場合、定期的に行われるバージョンアップへの対応負担が問題になることも少なくありません。業務をストップすることはできないので、バージョンアップは夜中になり、手間もコストもかかります。
クラウドERPでは、バージョンアップ対応がありません。提供事業者がシステム運用を行うので、日々最新のバージョンを利用することになります。
4.外出先からでも簡単にシステムを利用できる
クラウドERPを導入すると、業務システム利用の幅が広がります。インターネット経由でシステムを利用するため、社内にいなくとも、インターネット接続環境にあればクラウドERPにアクセスし、利用することができます。
これにより、時間や場所を問わない業務スタイルを提供することができ、リモートワークなど、新しいワークスタイル実現にも役立ちます。
5.グループ子会社との連携が容易になる
導入時にインフラ調達が必要なく、かつインターネット経由でシステムを利用するということは、グループ子会社との連携も容易になるということです。従来の大規模ERPでは、グループ全体で統合されたシステム環境を構築しようにも、本社ERPがグループ子会社に適用しないという問題がありました。
大規模ERPではコスト面でも運用面でも、グループ子会社にとって負担が大きすぎるのです。このため、低コストかつ少ない運用負担で利用できクラウドERPは、グループ子会社にも適用しやすいクラウドERPなのです。
6.固定された費用で費用対効果が分かりやすい
クラウドERPのランニングコストは、ユーザー数などに応じた月額費用です。従って、毎月のコストが固定化するため、クラウドERP導入の費用対効果が分かりやすいというメリットがあります。ERPを導入しても、効果が出ているのかいないのか、はっきりと分からないという悩み実は多かったのです。
7.セキュリティ対策やBCP対策に繋がる
クラウドERPのインフラは社内になり、インターネットの向こう側、提供事業者が運用するデータセンターなどにあります。データセンターでは最新のセキュリティ対策によって、導入企業のデータを堅牢に守っています。そのため、クラウドERPを導入することはセキュリティ対策の強化になり、災害時のBCP対策にも繋がります。
8.データ連携により二重の入力作業が無くなる
営業システム、会計システム、販売システムなど、クラウドERPでは各業務システムでデータ連携が取れています。このため、二重のデータ入力作業が無くなり、作業ミスが少なくなることで業務効率アップになります。
9.情報管理の一元化でリアルタイムなデータ分析が可能になる
統合された業務システムを提供するクラウドERPでは、一元化された情報管理が実現できます。各業務システムから生成されるデータは、一つのデータベースで管理されます。このため、リアルタイムなデータ分析が可能になります。
10.経営ダッシュボードで組織全体の情報を可視化できる
経営ダッシュボードとは、組織全体の情報の中でも、経営者が欲しい情報のみを表示する画面です。自動車のダッシュボードのように直感で理解できるよう情報が整理されているので、経営者は経営ダッシュボードを確認しつつ、スピーディな意思決定が下せます。
クラウドERPが持つ4つのデメリット
1.月額費用というランニングコストがかかる
クラウドERPのデメリットとして真っ先にあがるのが、月額費用というランニングコストです。しかし、オンプレミスのERPでも、年間保守費用などがかかります。加えてシステム運用・管理業務を内製化しなければならないので、こうした業務にかかる人件費は立派なランニングコストです。
オンプレミスのERPに比べて圧倒的に低コストなクラウドERPですが、ランニングコストは発生するということです。
2.基本カスタマイズがしずらい
オンプレミスの場合には自社の業務に合わせて自由にカスタマイズができますが、クラウドERPでは、ソフトウェア提供事業者が行うため、基本カスタマイズがしずらくなりがちです。
しかし、Microsoft Dynamics 365のように、オープンなAPIやツールを使い柔軟にカスタマイズに対応したクラウドERPも提供されていますので、クラウドERP選定時には注意しましょう。
3.オフライン環境ではシステムにアクセスできない
インターネット経由で利用するという特性上、オフライン環境下ではシステムにアクセスすることができません。従って、社内のインターネット接続環境を強化し、通信障害が発生した時を想定する必要があります。
4.システム運用が提供事業者のサービスレベルに左右される
クラウドERPでは、システム運用を提供事業者が行うため、事業者のサービスレベルに大きく左右されるというデメリットがあります。このため、クラウドERP導入時にはサービスレベルの確認を忘れないようにすると良いでしょう。
まとめ
クラウドERP導入はメリットの方が多く、企業の統合システム環境を支援してくれます。しかし、デメリットも確かにあるので、メリット、ばかりでなく、デメリットも考慮した上での導入を目指しましょう。
大切なのは、将来の事業拡大や海外進出などを想定して、自社にとって最適なクラウドERPを選ぶことです。今回紹介したクラウドERPのメリットとデメリットが、クラウドERPを導入する企業の参考になれば幸いです。