経済産業省では、2025年に集中する諸問題を指して「2025年の崖」と呼んでいます。また、さまざまな問題を乗り越えるためには“デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation:DX)”の実現が重要と考えており、多くの企業に警鐘を鳴らしています。
しかし、デジタルトランスフォーメーションを実現するにはそれを阻む課題を解決する必要があり、多くの企業はその課題に苦慮しています。本稿ではデジタルトランスフォーメーションの課題を整理していきます。
デジタルトランスフォーメーションとは?
2016年頃から存在感を増しているデジタルトランスフォーメーション。当時はマーケティング分野でのトレンドのように考えられていましたが、今ではすべての産業において対応が重要だと考えられています。そんなデジタルトランスフォーメーションについて、経済産業省ではIDC Japan株式会社の定義を引用し、次のように説明しています。
“企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること”
昨今ではあらゆる産業で“ディスラプター”が台頭しています。これは、一見無関係の産業から、別の産業のシェアを急激に獲得していく現象です。身近な事例を挙げると、「スマートフォンに搭載されているカメラ」が分かりやすいでしょう。スマートフォン・カメラが高性能化したことで、一眼レフカメラの需要は急激に下がりました。iPhoneではポートレート機能を使用するとプロ顔負けの写真を撮影することができますし、同じスマートフォン上で写真の編集もできます。高性能なカメラを搭載している高額なスマートフォンを、「携帯とカメラを同時に入手できる」と考えて購入する人も多いようです。
こうしたビジネスの劇的な変化に対応し、かつその市場において継続的に成長するためには①クラウド②モビリティ③ビッグデータ・アナリティクス④ソーシャル技術を用いて、新しい商品やサービスの開発、ビジネス・モデルの変革を実行する必要に迫られているのです。
第3のプラットフォームとは?
デジタルトランスフォーメーションへ取り組むにあたって重要なキーワードが「第3のプラットフォーム」です。これはメインフレームとサーバー・クライアント・システムに続く第3の情報産業革命と言われており、前述の①クラウド②モビリティ③ビッグデータ・アナリティクス④ソーシャル技術をプラットフォームとして新しい商品やサービスの開発をしたりすることを指します。
①クラウド
インターネット上で提供されるサービスの総称。2006年から急速に存在感を増し、今では企業インフラを支える上で欠かせない技術。
②モビリティ
スマートフォン及びタブレットなど、世界中で爆発的に普及した小型携帯用端末。
③ビッグデータ・アナリティクス
これまで不要なものとして蓄積してきたあらゆる経営データを統合・解析することにより、ビジネスに有用な新しい知見を見出す。
④ソーシャル技術
既に世界中で数十億人ものユーザーが使用しているSNSをビジネスプラットフォームとして活用する。
クラウド(クラウド・コンピューティング)がITシステムの中心になっていることは、幅広く認知されています。必要なモノを必要な時に調達し、時にはシステムそのものをクラウドで利用します。
モビリティを活用した様々なサービスは消費者や企業の購買行動に強い影響を与えました。また、近年重視されている“オムニチャネル戦略(各チャネルを統合するための戦略)”など、チャネルをまたいだ顧客エクスペリエンスを提供する上で欠かせない存在です。
ビッグデータ・アナリティクスにおいては、膨大なデータの統合・加工・分析・レポートを簡易的に行うためのITツールが充実しており、データ分析に関する専門的な知識と技術がなくても、ビジネスに有用な知見を導き出せます。
ソーシャル技術に関してはもはや説明するまでもなく、SNSがネットユーザーの生活の中心にあり、企業とユーザーの関係を深めるためのツールとして活用されています。さらに、デジタル・マーケティングを展開するためのプラットフォームとしても注目されています。
デジタルトランスフォーメーションを阻む課題
それでは、デジタルトランスフォーメーションを阻む課題について整理していきます。
- ITシステムが技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化。ブラックボックス化等の問題により、経営・事業戦略上の足かせになっている
- IT関連費用の8割が現行ビジネスの維持・運営に割り当てられており、戦略的なIT投資に資金・人材を振り向けられていない
- デジタルトランスフォーメーションを実現するために、新しい技術を活用できるように既存システムを刷新するという判断をしている企業が少ない
- 事業部ごとに個別最適されたバラバラなシステムを利用しており、全体最適化を試みても事業部が抵抗勢力になって進まない
- CIO(最高技術責任者)や情報システム部門が、複数のベンダー企業の提案を受けて自身のビジネスに適したベンダーを企業自身で判断するよりも、これまでの付き合いのあるベンダー企業からの提案をそのまま受けがちである
- 事業部内がプロジェクトのオーナーシップを持っており、仕様決定、受け入れテストを実施する仕組みになっておらず、事業部と情報システム部門でコミュニケーションが十分にとられていない
- デジタルトランスフォーメーションを進めていく上で、ユーザー企業におけるIT人材不足が深刻な課題となり、ベンダー企業の経験や知見を含めて頼らざるを得ない状況である
- 老朽化したシステムの仕様を把握している人材が退職していくため、そのメンテナンススキルを持つ人材が枯渇していく
- 先進的技術を学んだ人材を、メインフレームを含む老朽化したシステムのメンテナンスに充てようとして、高い能力を活かしきれていない
- 日本ではIT人材の7割以上がベンダー企業に偏在しており、ユーザー企業としてITエンジニアの確保と教育が課題になっている
このように、デジタルトランスフォーメーションを阻む課題はたくさんあります。実現のためには、企業は1つ1つの課題と向き合い、解決していくことが大切です。ぜひこの機会に、デジタルトランスフォーメーションについてご検討ください。