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老舗メーカーがDynamicsとIoTで実現したサービタイゼーション

本記事は2018年11月に行われたMicrosoft TechSummit 2018で紹介された講演「老舗メーカー企業が明かす!IoTとSNS活用の製造業のサービタイゼーション実現について」のセッションレポートです。

講演者:古野電気株式会社システム機器事業部 事業管理部企画課 担当課長永田靖徳氏、日本マイクロソフト株式会社Dynamicsビジネスアプリケーション本部 プロダクトマーケティングマネージャー兼城ハナ氏
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ビジネスと市場を変えるサービス型モデルへの転換

 デジタル革命の時代が到来しました。ITは、ビジネスを支えるモノから、ビジネスを変えるモノへと進化しています。日本マイクロソフト Dynamics ビジネスアプリケーション本部 プロダクトマーケティングマネージャーの兼城ハナ氏は、これを「真のデジタルの到来」と表現します。

 いまや、あらゆるモノから膨大なビッグデータが生まれ、クラウドという強大なコンピューティングパワーを基にして分析されています。現在何が起きているのかを把握することはもちろん、次に何が起きるのかを予測し、その予測から対応まで実現できるようになりました。第4次産業革命はこうしたIoTの活用によって進み、既存の産業構造が破壊されようとしています。

 特に製造業は、すでにデジタル化へ積極的に取り組んでいる分野です。兼城氏は、研究・開発だけでなく、製造現場や物流、セールスやマーケティングなど、すべての領域でデジタル化が進んでいると指摘しています。

 これからの製造業は、戦略的にデジタル化を推進し、ビジネスモデルを変えていかなければなりません。従来のモノづくりから、サービス型のコトづくりへの変革です。さまざまな調査から、その変革が市場そのものにも大きな影響を与えていることが判明しています。

 トップクラスのフィールドサービス企業は、IoTの活用によって従業員の生産性を12%向上させています。予兆保全プログラムを導入した企業は、平均12%以上のコストを削減できました。そして、83%の企業が、サービス型のビジネスモデルが売上拡大に効果があると回答しているとのことです。

 日本の製造業においても、こうした先進的な取り組みで成功を収めている企業があります。その1社が、古野電気です。

古野電気の成長を促すサービタイゼーション

 古野電気の創業者兄弟は、1948年に世界で初めて魚群探知機の実用化に成功した人物です。その独自の超音波技術と電子技術を基に、船用電子機器分野において世界初・日本発の商品を数多く算出してきました。現在は、世界80以上の国・地域に販売拠点を設置して、世界規模の船用電子機器総合メーカーとして知られています。

 同社の製品は、船用の魚群探知機・ソナー、衛星通信装置、レーダー、VDR(公開情報記録装置)のほか、ETC車載器や生化学自動分析装置、GPSチップなど多岐にわたっています。上述したように、これらの多くは同社が培ってきた超音波技術・電子技術のうえに成り立っています。例えば、超音波技術を応用すると骨密度を測定できることに気づき、超音波骨密度測定装置が誕生しました。

フルノサービス領域

 古野電気 システム機器事業部 事業管理部企画課 担当課長の永田靖徳氏によれば「海8割、陸2割」と、売上高の多くが船用事業に偏っているそうです。いかに陸の売上を増やすか、すなわち産業用事業を拡大するかという大きな課題を抱えていました。そこでポイントとなったのが、「サービタイゼーション」の実現です。

 現代の製造業には、製品に付随するサービスをパッケージングして、トータルソリューションとして提供することが求められています。永田氏はそのポイントとして「モノからコト売り」「保守情報の一元化」「フィールド作業支援」「遠隔監視」といったキーワードを挙げています。

 2018年8月に古野電気は、IoTインテグレーションを行う会社と協業することを発表しました。するとすぐに協業先の株価は急激な伸びを見せました。すでに投資家は、サービタイゼーションが企業成長に効果があるものとして捉えており、企業価値を向上させるものと強く認識しているのです。

Dynamicsを中核に据えてサービタイゼーションを実現

 古野電気は、積極的にサービタイゼーションへ取り組み、いくつかの革新的な結果を生み出しました。

 まず同社は組織を変革しました。営業・開発・製造を組織横断的にOEM事業・インフラ事業・ETC事業・ソリューション事業といった単位で「仮想分割」する「セグメント制」を確立しました。これにより、事業部を実際に分割すると生じるセクショナリズムを解決したうえ、各セグメントの責任者が、それぞれのセグメントに特化した戦略立案やP/L管理を行うようになり、意志決定・環境適応を迅速化することに成功しました。

 セグメント制により、OEM文化が根付いていた事業部は、ソリューションプロバイダーに進化するセグメントが誕生し、顧客の戦略的パートナーを目指す文化に変革しました。またサービタイゼーションをより具体化することができたうえ、永田氏は、組織が活性化したこと、社員に当事者意識が生まれたことなどを付随効果として挙げています。同社はサービタイゼーションのプラットフォームとして「Microsoft Dynamics 365」を採用したのですが、その効果として営業スキルが向上したことも挙げています。

 サービタイゼーションの実例として、ヘルスケア事業における血液自動分析装置を取り上げましょう。これらの装置には、さまざまなセンサーが組み込まれており、検査項目や検査実施数、装置の使用頻度や異常値アラートなどを取得できるようになっています。これらを「Microsoft Dynamics 365」に取り込みます。

「Microsoft Dynamics 365概要」についてはこちらをご覧ください。

 Dynamics 365では、案件情報や活動情報、販売・納入といった実績情報のほか、装置情報や試薬情報、試薬入出庫情報を管理します。これらの情報は、PowerBIを用いて集計・分析を行っています。もしアラートなどが発せられたときには、SNSを通じて上長や現場と緊急情報を共有し、迅速に対応できるように設定されています。

 「血液検査に用いる試薬の在庫が減ったことを検知すると、自動的に試薬のバーコードを発行して試薬の入出庫業務をサポートします。またこの情報を基に、顧客へ試薬の補充を促せるようになりました。つまり私たち自身が、消耗品ビジネスに参入できるようになったということです」(永田氏)

フルノサービタイゼーション例

 別の事例として、マンションなどの駐車場向けに、ETC車両識別機能を活用し、利用者の入出庫をETCで管理するというサービタイゼーションの例もあります。ETCであれば、利用のたびにいちいち駐車券を取る必要もなく、駐車券をなくすトラブルもありません。このサービスは、「CaoThrough」として展開されています。

フルノサービタイゼーション例2

事業戦略の手段としてサービタイゼーションを捉える

 永田氏は、サービタイゼーションは目的ではなく、事業戦略の「手段」として用いるべきだと強調します。

 例えば古野電気は、これまでグローバル化にチャレンジし、数多くの失敗を重ねてきたそうです。今後は特定の地域で製造した製品をサービス化して別の地域のニーズに合わせて販売する“戦略的グローバリゼーション”を図りたいとしています。

 また同社は、IoTで得られたビッグデータは、その他のサービスにも役立てることができると考えています。定量・定性分析を積極的に行い、新規事業企画・戦略立案にも活用していきたいとのことです。

 「今後の数年で、今まで考えもしなかったものがネットワークにつながるようになるのでしょう。しかしその一方で、遠隔監視やフィールド作業支援、保守情報の一元化、モノからコト売りといったキーワードは当分変わらないと考えます。これらを基に、自社しか提供できないような製品を作り上げることで、サービタイゼーションが進んでいくと考えています」(永田氏)

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