予防保全とは、事前に耐用年数や耐用時間を決めておき、故障前に安全のために交換を行う保全手法を意味します。部品ごとに耐用期間を設定することで、突然の故障やトラブルの発生を防ぎ、イレギュラーな対応を回避可能です。特に近年はAI(人工知能)を活用した最新のシステムが普及していて、耐用期間の分析や作業の自動化などさまざまなメリットをもたらしています。この記事では予防保全の基本と、AIを導入する際のメリットや注意点を解説します。
予防保全とは何か
予防保全とは、機械を駆動させている部品に対して耐用年数や耐用時間を設定し、故障が発生する前に交換を行う保全方法です。決めた期間に達したら例え使える状態でも交換を行うため、突然機械が止まったり破損したりといったトラブルを未然に防ぎやすい手法となっています。予防保全の類義語に「時間基準保全」や「定期保全」があり、それぞれ時間を基準にしてメンテナンスや交換を行う保全方法を意味します。
予防保全の種類
予防保全には基本的に2種類の分類方法があり、それぞれで基準とする情報が異なっています。具体的には先ほども紹介した「時間基準保全」と「状態基準保全」の2種類があり、それぞれ以下のような基準を持っているのが特徴です。
- 時間基準保全:定められた期間内でメンテナンスや交換を行う手法で、特別に部品に不具合や劣化、もしくはそれらの兆候がみられなくても実施されるのが特徴です。
- 状態基準保全:部品の劣化具合や実際の状態を参考にして、交換のタイミングを決める保全方法です。比較的コスト面を抑えることができる一方で、突然の故障が起きるリスクは高まります。
予防保全と予知保全・事後保全の違い
事前に部品の交換を実施する予防保全は、「設備保全」と呼ばれる保全方法のひとつとして認知されています。設備保全とは、駆動している機械の安全を確保・継続するために、メンテナンスや修理、交換などの対応を行う業務のことです。設備保全にはほかにも、「予知保全」「事後保全」といった種類があり、それぞれ予防保全に対して類似点と相違点があります。
予知保全とは、「故障する前に部品の交換を行って安全を守る」手法で、予防保全と同様にトラブルを未然に防ぐ目的で実行されるのが特徴です。一方で、作業のタイミングに関しては、以下のように異なっています。
予防保全:時間をきっかけにして定期的に交換作業を行う
予知保全:故障やトラブルの兆候をきっかけにして交換作業を行う
時間と兆候をそれぞれ基準にしている点が、各保全方法の違いです。
事後保全とは、機械に何かしらのトラブルが発生してから対処する保全方法です。故障による業務のストップ、部品の劣化による生産性の低下、生産する商品から不良品が発生する確率が増えるなど、問題が顕在化してから対応を行います。事前にトラブルを防ぐ方法とは、目的や対処法が大きく異なるのが特徴です。
予防保全にAIを導入するメリットとは
近年はAI(人工知能)の発展によって、予防保全にもIoTをはじめとした最新システムが導入されるケースが増えています。AIシステムの導入を進めれば、人間の目では判断できない部品状態の診断や予兆の把握などが可能となります。それは事業の生産性向上や業務の効率化、運用コスト削減などのさまざまなメリットにつながっていくでしょう。
既に予防保全を実施している企業も、改めてAIを導入して環境を最新のものに整えることで、現代に合わせた最適な保全業務が実施できます。
2018年には国内大手IT企業が診断や予兆の検知だけでなく、保全計画全体の立案や保守業務の実行に至る業務プロセスの作成などもAIに任せたことで話題となりました。設備保全業務の高度化がAIによって進行しつつあるので、今後もAI+保全業務の組み合わせによって新しい保全スタイルが誕生するかもしれません。
予防保全の現状
予防安全にAIなどの最新技術が取り入れられているなか、世の中の工場や機械の多くにはいまだに前時代的なプログラムが使われているのが現状です。IBMの調査によれば、「保守作業全体の45%が非効率な内容である」とされていて、いかに無駄な業務が定着しているのかが分かります。
また、「予防保全にかかるコストの40%は無駄遣いされている」「予防保全作業の30%が過剰に行われている不要なものである」というデータもあるため、効率化やコスト削減が急務であると判断できるでしょう。
このように、現状では非効率的かつ高コストを助長する環境や手法がスタンダードになっています。そのためAIなどの最新技術を取り入れて、上記のような問題を解決することに大きなメリットがあるのです。
AIを予防保全に導入する理由
予防保全にAI技術の導入をおすすめする理由として、以下の4点があります。
- 検査作業の自動化
- 検知精度の向上
- コストの削減
- ダウンタイムの削減
AIの導入は検査作業を自動化するため、人の手に頼った手法から脱却できます。これまでの検査業務は、分析されたデータだけでなく、技術者の直感や感覚に頼っていた面もあり、イレギュラーな事態には対応できないこともありました。その点、AIによる検査の自動化が行われれば、個人の裁量に依存した属人化を防ぎ、長期的にも安定した保全作業を定着させられます。
また、AIによって細かな部分も分析・検査できるようになれば、これまで見落としていた故障の予兆や不具合の発生を正確に把握できます。人の目では捉えきれない微細な数値の変化なども計測できるので、検知精度が飛躍的に向上するでしょう。
さらに予防保全のAI導入は、コスト削減にもつながります。これまでの手法では部品がまだ使える状態でも、定められたタイミングがきたら交換を実行してきました。そのため、まだ使用できる部品を廃棄する機会も多く、無駄な交換作業が発生することも珍しくありませんでした。
しかし、AIを導入すれば部品の劣化具合をより詳細に把握したり、過去のデータを参考に分析して交換時期を割り出したりといったことが可能です。結果的に交換する部品の数を減らしたり、検査や判断を行う人材の人件費を削減したりできるので、全体のコストが低下するでしょう。
予防保全へのAI導入は、ダウンタイムの削減につながるというメリットもあります。ダウンタイムとは、いわゆる機械が止まっている中断時間や休止時間のことです。予防保全を行っていても、突発的な事故などによる機械の故障は起こり得ます。人力による手法の場合、その原因究明や対処法の立案などに時間がかかり、ダウンタイムが長期化する恐れがありました。
その点、AIを導入すれば常時機械の状態を監視できるので、突発的な事故が発生する確率を下げることができます。仮にトラブルが発生したとしても、蓄積されたデータを参考に原因を速やかに特定できるので、ダウンタイムを最小限に抑えられるのです。
上記のような4つのメリットを得られるため、AIの導入は今後も推奨されるでしょう。
予防保全にAIを導入する際の注意点
予防保全へのAI導入にはメリットがある一方で、いくつかの注意点もあります。
ときにはデメリットになる事例もあるので、以下を参考にAI導入における注意点を確認しておきましょう。
高品質な学習アルゴリズムが必要
AIを導入して保全活動に活かすには、高品質な学習アルゴリズムが必要となります。現場におけるデータを理解させ、それを活かせる下地を作ることが、導入時には求められるです。
例えば上下限の閾値を決めて判断するような単純なアルゴリズムでは、正確な保全業務は難しいです。通常時の状態を認知させ、その上で異常性を検知する特徴量を抽出して判断できるレベルのアルゴリズムが最低でも必要になるでしょう。AIの教育およびデータの活用方法を考えなければならない点は、デメリットのひとつです。
データ量の分析にかかるコスト
AIを活用するには、データの分析にかかるコストを考慮しておかなければなりません。AIの能力を正しく利用するには、大量のデータを分析して処理する必要があります。例えば工場、生産ライン、機械、部品の情報や、音や振動といった異常を確認するためのデータも分析しなければなりません。
分析にかかるコストが膨大なものになると、AI導入のメリットであるコスト削減が実感できなくなります。そのためAI導入で新たに発生するコストと削減されるコストを計算し、マイナスの結果にならないように調整する必要があります。
AIのブラックボックス問題
AIは膨大なデータを分析して学習(ディープラーニング)を進めていくため、人間では理解できない判断を下すケースがあります。このようにAIの思考がブラックボックス化されてしまうことも、デメリットのひとつです。根拠が分からない状態では、AIの判断を認めることは難しく、業務を混乱させる可能性があります。
また、AIの判断だけに頼っていると作業のノウハウを蓄積できないため、いざ現場の担当者による判断が求められる機会がきた場合、正しい選択が難しくなるでしょう。AIによる独断の判断や思考への対処法を考えておくことも、導入時の注意点です。
まとめ
予防保全は事業の安全性と継続性を確保し、予定通りのスケジュールで事業展開するために欠かせない作業です。この機会に改めて予防保全の重要性を確認し、自社の環境やシステムの見直しを検討してみましょう。
Microsoft Dynamics 365では一般的なEPRの機能に加え、AI活用の基盤が整っています。さまざまなアプリケーションとのシームレスな連携により、より包括的で堅実な予防保全に役立てられるでしょう。
予防保全にAI導入を考えるなら、Dynamics 365のサービスを検討してみてはいかがでしょうか。