VMは「Virtual Machine」の略で、日本語に訳すと「仮想マシン」です。仮想マシンは、ひとつのハードウェア上で仮想化という技術により、まるで別のCPUやOSを搭載した複数のマシンを起動したかのように動作します。そして、それぞれの仮想マシン上でアプリケーションを操作できます。「Azure Virtual Machines(以降VM)」は簡単な操作により仮想マシンを構築し、CPUやRAM、ストレージの容量を柔軟に変更できる仮想マシンです。
ここでは、Azure VMの利用メリットと、目的に合わせたAzure VMの選び方について解説します。
Azureの概要やメリットについては、下記の記事で解説しています。ぜひ本記事と併せてご覧ください。
Microsoft Azureとは|何ができる?入門内容からわかりやすく解説
Azure VMの概要とメリット
Azure VMのOSは、WindowsまたはLinuxから選択可能です。仮想マシンのカスタマイズはもちろん、Azure Marketplaceからダウンロードしたイメージによっても構築できます。
Azure VMには以下のメリットがあります。
最大で80%のコスト削減、利用状況の監視
Azure VMでは事前に仮想マシンを予約して1年または3年の前払いによる「Azure Reserved VM Instances(RIs)」を利用すると、従量課金制の料金と比べて最大72%予算を抑えられます。さらに、Azureハイブリッド特典を加えると、最大で80%のコストを削減できます。「Azure Cost Management」で、クラウドの使用量を監視しながら投資収益率を効率化できることもメリットです。
パフォーマンスを最適化、柔軟なスケーリング
Azureを最大限に活用するために「Azure Advisor」によって、仮想マシンのパフォーマンス、セキュリティの推奨情報を1か所で管理できます。「Azure Stack」は、オンプレミスとクラウドの境界を越えたハイブリッドクラウドを実現します。また、大規模なコンピューティングでは「Virtual Machine Scale Sets」によって、負荷分散と自動化されたスケーリングのソリューションを備えています。
セキュアな環境、コンプライアンスの強化
「Azure Confidential Computing」によって、パブリッククラウドでデータやコードを処理しているときにも、機密性と整合性を保護できます。「Azure Security Center」は脆弱性を検出して修正します。連邦情報セキュリティマネジメント法(FISMA)、Federal Risk and Authorization Management Program (FedRAMP)、医療保険の携行性と責任に関する法律(HIPAA)、PCIデータセキュリティスタンダード(PCI DSS) レベル1など、主要なコンプライアンスプログラムで認定されています。
Azure VMの種類
Azure VMは柔軟に拡張可能ですが、以下のようなシリーズがあります。
Aシリーズ
開発とテストに最適なエントリモデルです。CPUとメモリの構成は、コストパフォーマンスを重視しています。最新世代のAv2 Standardでは、以前と比べてvCPUあたりのRAMが増加し、より高速のディスクを搭載しました。
Bsシリーズ
経済効率の高い仮想マシンです。低~中程度のCPUを中心に、利用が増加した場合には低コストでありながら、高性能のアプリケーション実行環境にも対応します。
Dシリーズ
汎用コンピューター向けのシリーズで、あらゆる環境における仮想マシンのアプリケーション実行に適したシリーズです。Azure Premium SSDをサポートしています。Dv2シリーズはCPUを強化しました。高速CPU、高性能のローカルディスク、大容量のメモリを必要とするアプリケーションに最適化されています。
DCシリーズ
顧客のコードやデータを保護する仮想マシンが求められるような、機密性の高いビジネスに対応します。安全なエンクレーブにより、処理中のデータやコードの機密性と整合性を守ります。既存の組み込みの暗号化に加えて、待機中および転送中も保護されます。Intel Xeon E-2176G 3.7 GHzプロセッサとSGXテクノロジを採用し、インテルターボブーストテクノロジで4.7 GHzのハイパフォーマンスを実現します。
Eシリーズ
SAP HANAは一般的にインメモリデータベースと呼ばれ、従来のデータベースよりも処理が高速です。しかし、メモリの負荷が大きくなります。このようにメモリで実行するアプリケーションに対応したシリーズです。コアに対するメモリ比率を高く設定し、リレーショナルデータベースのサーバー、中規模から大規模のキャッシュ、メモリ内分析にフォーカスされています。vCPU は2~64 個、RAMは16~432 GiBを使用可能です。Azure Premium SSDをサポートしています。
Fシリーズ
コンピューティングの能力を最大に発揮するために最先端のCPUが採用されています。CPU対メモリ比に優れ、CPUコアあたり2GBのRAMと16 GBのSSDを搭載しました。Fsv2シリーズのローカル一時ストレージは、vCPUあたり2 GiBのRAM、8 GBのSSDです。
Gシリーズ
負荷の高いアプリケーションの運用に最適なシリーズです。Intel XeonプロセッサE5 v3ファミリ、最大0.5TBのRAM、CPUコア32が搭載されています。汎用向けDシリーズと比較してメモリは2倍、SSDは4倍のスペックです。
Hシリーズ
科学技術計算など、膨大な計算と処理を必要とするハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)における利用を想定したハイエンドのシリーズです。HBとHC の2つのシリーズがあります。
HBシリーズは、メモリ帯域幅が重要なHPCアプリケーションの利用に最適です。AMD EPYC 7551プロセッサでコア数60、CPUコアあたりRAMは4 GB で、ハイパースレッディングなしの仕様です。AMD EPYC プラットフォームは、260 GB/秒以上のメモリの帯域幅になります。
HC シリーズは、集約型の計算を行うHPC アプリケーション向けの仕様です。Intel Xeon Platinum 8168プロセッサ、コア数44、CPU コアあたりのRAMは8 GB、ハイパースレッディングなしです。Intel Xeon Platinumプラットフォームは、豊富なソフトウェアツール群をサポートし、全コアのクロック速度3 GHzを実現します。
Lsシリーズ
ストレージを最大限活用するための構成です。最新のLsv2 シリーズでは、NVMe(Non-Volatile Memory Express)のプロトコルでローカルストレージに直接マッピングされます。LSv2シリーズはAMD EPYC 7551の2.55 GHzプロセッサで、全コアをブーストして最大3.0 GHzのシングルコアブーストができます。ハイパースレッドにより最大80ものvCPUを稼働させ、vCPU1つに対して8 GiBのメモリと最大19.2TBを利用できます。
Mシリーズ
高性能の並列処理ができるように、メモリを重視した環境を実装したシリーズです。SAP HANAをメインとして、メモリで負荷の大きな処理を高速で処理する場合に適しています。SAP HANA OLTPとOLAPワークロードのSAPによって認定されています。1台のVMあたり最大4 TBのRAM、最大128のvCPUまでの仮想CPU数を提供します。
Nシリーズ
GPUに高い負荷が要求される視覚化、深層学習、予測分析などにおける利用を想定したシリーズで3つに分かれます。
NCシリーズは、ハイエンドのコンピューティングと機械学習における利用をターゲットとしています。最新のNCsv3にはNVIDIA Tesla V100 GPUを採用しました。NDsシリーズは、人工知能の分野でディープラーニングと推論などの領域の活用に向けた構成です。最新のNDv2にはNVIDIA Tesla V100 GPUが搭載されています。NVシリーズは、NVIDIA Tesla M60 GPUによりリモート視覚化や高度なグラフィック処理に対応します。
Azure VMを用途から選ぶ
Azure VMを用途から選ぶと下記の表のようになります。ただし、あくまでもスペックから適したモデルです。
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A |
Bs |
D |
DC |
E |
F |
G |
HB |
HC |
Ls |
M |
N |
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開発用サーバー、テストサーバー |
◯ |
◯ |
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概念実証向けサーバー |
◯ |
◯ |
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ビルドサーバー |
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◯ |
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コード リポジトリ |
◯ |
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マイクロサービス |
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◯ |
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Webサーバー(トラフィックが低い) |
◯ |
◯ |
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Webサーバー |
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◯ |
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小規模のデータベース |
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◯ |
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小中規模のデータベース |
◯ |
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データベースによる機密照会 |
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◯ |
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大規模なSQLデータベース、NoSQL データベースの構築 |
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◯ |
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Cassandra、MongoDB、Cloudera、RedisなどのNoSQLデータベースの利用 |
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◯ |
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大規模なトランザクションデータベースの利用 |
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◯ |
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エンタープライズレベルのアプリケーション |
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◯ |
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リレーショナルデータベース、メモリ内キャッシュ、分析 |
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◯ |
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スケーラブルな機密コンソーシアムネットワーク構築 |
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◯ |
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SAP HANA、SAP S/4 HANA |
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◯ |
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◯ |
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SAPなどのERP運用 |
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◯ |
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SQL Hekatonの利用 |
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◯ |
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◯ |
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高負荷のメモリ内ワークロード |
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◯ |
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超並列コンピューティング能力が必要な高負荷のメモリ内ワークロード |
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◯ |
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分析用 |
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◯ |
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バッチ処理 |
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◯ |
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データウェアハウス |
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◯ |
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データウェアハウスアプリケーション |
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◯ |
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気象モデリング |
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◯ |
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流体動力学 |
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◯ |
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陽的有限要素解析 |
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◯ |
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陰解法有限要素の分析 |
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◯ |
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貯留層シミュレーション |
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◯ |
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シミュレーション |
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◯ |
計算化学 |
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◯ |
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セキュアなマルチパーティによる機械学習 |
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◯ |
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ディープラーニング |
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◯ |
グラフィックレンダリング |
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◯ |
ビデオ編集 |
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◯ |
ゲーム |
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◯ |
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◯ |
リモート視覚化 |
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◯ |
まとめ
仮想マシンは柔軟にスペックを拡張できます。しかしながら、用途とコストを考慮して基本的な仕様を決めておくことがポイントです。