ブロックチェーンや仮想通貨などの技術によって、消費者および企業を取り巻くデジタル環境は大きく変わりつつあります。このような変化は「デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)」と呼ばれています。DXは「進化し続けるテクノロジーが人々の生活を豊かにしていく」ものであると、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱されたことを発端としているといわれます。
身近に感じられるDXの一例として、コンビニエンスストアのモバイル決済が浸透し始めました。単に決済がデジタル化しただけでなく、モバイル決済が進展するとコンビニエンスストアが無人化するなど、社会の構造や人々の生活習慣、企業間のやりとりまで変貌させます。それがDXによる革新です。
EC(Electronic Commerce:電子商取引)も大きく様変わりしつつあります。企業から消費者に販売するだけでなく、オークションサイトのような消費者間の売買(C to C)、企業間の売買のような双方向の売買が行われています。買手であると同時に売手、売手であると同時に買手というように、流動的な場として機能するようになりました。
このように売手と買手が自由に取引をしてマッチングや見積りの提示、受発注、決済を行うプラットフォームが「マーケットプレイス」です。
Microsoftには、企業向けのアプリケーションやサービスのマーケットプレイスとして「AppSource」と「Azure Marketplace」があります。
ここでは、「Azure Marketplace」に焦点をあてて、マーケットプレイスの概要とメリット、登録と使い方、アプリやサービスを公開する意義について解説します。
Azure Marketplaceの概要
まず、Microsoftが展開する2つのマーケットプレイスの違いを説明することによって、Azure Marketplaceの位置づけを明確にします。
AppSource
「AppSource」は、財務会計システムなど基幹業務の管理者やビジネスの専門家を対象にしています。財務会計、人事、営業、業務効率化などの「カテゴリ」、教育、金融/保険、製造、サービスなどの「業種」、Web Apps、Dynamics 365、Office 365などの「製品」の項目をチェックして、求めているソリューションを絞り込んで探すことができます。
Azure Marketplace
「Azure Marketplace」の対象は、ITの専門家やクラウドの開発者です。データベース管理者、セキュリティの運用担当者、DevOpsの専門家などが対象になります。このようなIT管理、サポート、開発向けに優れたツールを提供します。
マーケットプレイスの検索メニューには、仕様版の状態(All/Free Software Trial/Test Drive)、OS(ALL/Linux/Windows)、発行元(All/Microsoft/Partners)、価格モデル(All/Bring your own license/Free/Pay as you go)、製品型(All/Virtual Machine Images/Solution templates/SaaS)があります。それぞれをプルダウンメニューから選択して、対象を絞り込むことができます。
ちなみに、価格モデルの「Bring your own license」は頭文字をとって「BYOL」とも呼ばれ、ソフトウェア本体はすぐに利用する状態で用意され、ライセンスキーやアクティベーションコードなどを購入してソフトウェアを利用する仕組みです。「Pay as you go」は従量課金制で、利用した分を課金します。
このようにAppSourceはビジネス向けであるのに対して、Azure MarketplaceはAzureの管理者や開発者にとって便利なツールを提供しています。
Azure Marketplaceのメリット
Azure Marketplaceでツールを公開することにより、まず「Azure開発企業としての信頼を獲得」できます。第一に自社開発のツールを公開することによって何百人ものユーザーにアピールし、需要のある企業を発掘するチャンスが得られます。試用から販売につながれば、それが実績となります。
第二に「Go-To-Market Services」があります。これは同じ目的を持ったパートナー間の連携を促進するもので、すべてのパートナー、シルバーコンピテンシー、ゴールドコンピテンシーとしてパートナーどうしによる機会創出をMicrosoftが支援しています。目的が同じパートナーどうしで開発を行い、共創によるソリューションの開発を促します。
Azure Marketplaceに登録する特典には、主に以下の3つがあります。
- 技術支援:アプリケーションやアーキテクチャの設計、開発やテストの支援
- プロモーション支援:マーケティングキャンペーンの参加資格などの提供
- 共同販売の支援:Microsoftの共同販売を推進するプログラムの提供
数千社ものMicrosoftの販売店や、60,000 以上のパートナーのエコシステムにアプリやサービスが検索され、試用と購入、デプロイされることによって、潜在市場の開拓やアプリやサービスのターゲット層を拡大できます。また、パートナーセンターから分析情報を入手してイノベーションを加速し、ビジネスを成長させる可能性が拡がっています。
Azure Marketplaceにおける有効性と制限
具体的には、Azure Marketplaceの利用にあたって以下のような有効性と制限があります。
使用量またはサブスクリプションによる柔軟な課金
無料版、試用版、BYOLのほかの取引では、使用量またはサブスクリプションのいずれかで課金します。 使用量を基準とした場合、初期無料期間を提供後は1 時間ごとの使用量で課金されます。 サブスクリプションの場合は、シート単位または定額で毎月または毎年の課金です。
パートナーとのリンクは無効
現状では、サービスプロバイダー、配信パートナーをマーケットプレイスのプランにリンクできません。
自動化はSaaSベース
Azure アプリのソリューションテンプレートの公開オプションによって、SaaSによるデータ収集とデプロイのシナリオを自動化できます。しかし現状では、サービスプロバイダー、配信パートナーをプランにリンクできません。
パブリッククラウドとオンプレミスでソリューションを公開
Azure Stack、Azure Government、リージョンクラウド (中国およびドイツを含む)でソリューションが公開されます。
コンテキスト検索のためのプレゼンテーション
Azure portal内でソリューションを利用可能にします。 仮想マシンとAzureアプリのソリューションテンプレートの公開オプションを使用してアピールできます。
Azure Marketplaceで公開するには
繰り返しになりますが、Microsoftの企業向けマーケットプレイスには2つあり、「アプリやサービスを利用する対象者は誰か?」を明確にする必要があります。Azureの管理者や開発者であればAzure Marketplaceです。しかし、基幹業務の管理者やビジネスの専門家の場合はAppSourceで公開すべきであり、Azure Marketplaceではありません。
その条件を踏まえた上で、公開手続きの概略は以下のようになります。
公開オプションの選択
公開オプションを設定することで、見込み客の購買行動を喚起できます。また、報酬に基づいて特典が得られるメリットもあります。オプションの設定をまとめました。
リストへの掲載 |
アプリケーションやサービスのシンプルな一覧表示に、登録したアプリやサービスを掲載します。この一覧を見た見込み客から問い合わせを得られます。 |
仕様版の提供 |
見込み客はソリューションをみつけやすくなり、必要なリソースを自動的に準備できます。購入前に一定期間だけ無償で仕様版もしくは体験版を利用してもらうと、ユーザーメリットを理解した上で見込み客の購入意欲を高められます。 |
BYOLの設定 |
見込み客はソリューションをみつけやすくなり、必要なリソースを自動的に準備できます。オンプレミスからクラウドへの移行に最適なオプションで「いますぐ購入する」という言葉で購買行動を喚起できます。 |
トランザクションの設定 |
「いますぐ入手する」を選択して、見込み客のサブスクリプションにリソースをすぐに準備できます。オプションとしてライセンスを購入し、選択した支払い方法と条件で料金の請求が可能です。期間限定で無償の試用版へのアクセス権の提供もできます。 |
Azure Marketplaceに 公開した後でやるべきこと
マーケットプレイスに登録したからといって、すぐにアプリケーションやサービスの試用版が利用されたり、販売できたりするわけではありません。多くの商品のマーケティングやセリングと同様です。
マーケティングや営業の手法では「リードジェネレーション」や「リードナーチャリング」という活動を重視しますが、試用した見込み客に対して購買に至る導入の道筋をつくり、段階的なコミュニケーションと顧客への育成が重要になります。
まとめ:Azure Marketplaceは機会創出の場
Azure Marketplaceは、管理者と開発者ともに「機会を創出」する場といえます。β版であっても公開して使ってもらうことにより、評価やバグの報告をもとにプロトタイプをより完全なアプリケーションやサービスにアップデートすることが可能です。また、この場からパートナーとの協業が生まれる可能性も秘めています。