パブリッククラウドが企業のさまざまな用途で活用されています。しかし、完全にクラウドシフトしている企業より、オンプレミス(社内のサーバールームに設置する物理的なサーバー環境)とクラウドを併用している企業が多いのではないでしょうか。特に予測保全などの目的でIoT(Internet of Things:モノのインターネット)を導入する製造業では、不安定な通信環境やタイムラグを回避するために、専用のプライベートクラウドを利用する場合があります。
「Azure Stack」はオンプレミスで、Azureのクラウド環境を実現する製品です。Azure Stackを使うことによって、社内のプライベートクラウドや、ホスティング型のパブリッククラウドの構築が可能です。
仮想化したオンプレミスでプライベートクラウドを構築および運営することは、HCI(Hyper-Converged Infrastructure)とも呼ばれます。HCIによって、プライベートクラウドとパブリッククラウドを連携させたハイブリッドクラウドの構築も可能です。
ここでは、Azure Stackの機能、Azure Stackの製品構成とメリットを中心に解説します。
Azure Stackの特長と構築できるクラウド
Azure Stackには以下の4つの特長があります。
- Active Directoryと統合したシングルサインオン(SSO)
- インフラ全体を可視化する管理機能とセキュリティ
- データベースのシームレスな連携によるデータプラットフォーム構築
- クラウドとオンプレミスを統合したDevOpsの実現
Azure Stackでは、以下のようなクラウドをオンプレミスで構築可能です。
Azure Stackによるオンプレミスのクラウド
Azureのサービスと機能をオンプレミスクラウド環境で実現する拡張機能です。AzureのPaaSとIaaS、ネットワークやストレージのコントローラー、ロードバランサーのほかAzure Portalなど管理ツールをオンプレミスで利用できます。
さらにハイブリッドクラウドのアプリケーション開発はもちろん、IoTの時代に重視されている「エッジコンピューティング」に対応します。エッジコンピューティングは、クラウドと端末の間に分散配置したエッジアプリケーションを搭載した端末を配置し、ネットワークの処理速度のタイムラグを数ミリから数十ミリ秒に短縮します。このようなハイブリッドならびにエッジアプリケーションのビルド、デプロイ、運用を可能にします。
Azure Stack HCIによるクラウド
パブリッククラウドを利用せずに、独自に構築した自律型のクラウドを運用するシステムです。インターネットやパブリッククラウドから完全に切り離された状態で、社内だけの利用ができます。あるいは、一部はパブリッククラウドと共有して、その他は断絶させた状態の利用も可能です。
このことにより、インターネット接続がない企業においても、オフラインでAzureベースのプライベートクラウドを使えるようになります。政府や行政、製造業、医療、金融サービスの需要が想定されています。
Azure Stackの開発者に対するメリット
Azure Stackの需要が想定される業界を挙げましたが、開発者にとってもAzure Stackは大きなメリットがあります。
隔離された部門でPaaSによる最先端の開発環境を提供
機密性の高い重要なアプリケーション開発部門では、セキュリティの面からインターネット接続を禁止している場合があります。このような社内においても、Azure Stackのプライベートクラウドによって、Azureのサービスを利用できます。Azure Stackは、ハードウェアベンダーから物理的なアプライアンスとともに提供されます。そこで社内のポリシーにしたがって、管理者がOSのバージョン、リソースを詳細に制限することが可能です。
また、Azure Webサービス、コンテナー、サーバーレスコンピューティング、マイクロサービスアーキテクチャなどの最新のクラウドテクノロジーを使い、これまで利用したレガシーなアプリケーションの更新と拡張も可能になります。
開発者はAzureの最新機能で開発に専念、インフラ整備から解放
Azure Stackは社内設置型ですが、毎月のアップデートによりAzureの最新機能を利用できます。PaaSとしてはもちろん「FaaS(Function as a Service)」の活用が可能です。FaaSとは、開発者が仮想化されたサーバー管理やセキュリティ対策を考える必要がなく「コードを書くことに専念できる」状態を呼びます。従量課金制とともに、自動的に容量の増減などをスケーリングできるため、開発者の負担は大幅に減少します。
インフラのメンテナンスから開放された開発者と運用者は、DevOpsの考え方にしたがって、より開発しているアプリケーションやソリューションの品質を高めることに専念できます。実装にあたってはコードを変更することなく、オンプレミスにデプロイできます。それぞれの企業固有の条件にカスタマイズした実装を実現します。
Azureと同じインターフェースで教育コスト削減と生産性を向上
Azure Stackの利用は、Azureと同様にポータルにアクセスしてログインします。表示される画面のメニューはAzureより少なくなりますが、初心者にとっては使いやすいといえるでしょう。というのは、Azureは非常に膨大な機能を備えているため、慣れるまでは「何から始めればよいのか?」途方に暮れてしまうことがあるからです。
既にAzureの利用者であれば、同一のインターフェースであることから、学習する必要なしにAzure Stackを使い始めることができます。教育にかかるコストや時間を短縮することが可能です。パブリッククラウドのAzureとプライベートクラウドのAzure Stackは、どちらを利用する場合も同じ方法でデプロイできます。
Azure Stackの機能とメリット
Azureで提供されている機能のうち、Azure Stackでは以下の機能をオンプレミスで利用できます。
コンピューティング |
Virtual Machines |
WindowsとLinuxのマシンのプロビジョニングを実行。 |
App Service |
Webアプリ、モバイルアプリを迅速に構築、デプロイ、スケーリング。 |
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複雑なオーケストレーションの問題を解決し、サーバーレスコンピューティングで開発を効率化。 |
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コンテナー |
Azure Kubernetes Service (AKS) |
高い可用性で安全なフルマネージドサービスを提供し、コンテナー化されたアプリケーションのデプロイと管理を簡易化。 |
Service Fabric |
Windows と Linux によるマイクロサービス開発とコンテナーのオーケストレーションを実現。 |
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IoT |
Azure IoT Hub |
膨大なIoT デバイスとAzure間で、双方向の通信が可能。 |
分析 |
Azure Event Hubs |
複数のソースからデータレコードを読み込み、テーブル作成と更新。何百万ものデバイスから取得したデータから、製品の利用に関する統計情報などを分析。 |
セキュリティ |
Key Vault |
クラウドアプリとサービスの暗号化キー、その他の秘密情報に関するセキュリティを保護。 |
ストレージ アカウント |
Blob Storage |
非構造化データのオブジェクトストレージ。アクセス頻度に合わせて、4つの格納できるストレージ層を用意。 |
Queue Storage |
大容量のクラウド向けに、優れた持続性メッセージキューを提供。 |
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Managed Disks |
費用効果の高いSSDオプション。Standard SSD、Premium SSD、Ultra SSDから選択可能。 |
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Table Storage |
可用性が高い半構造化データを保存することにより、スケーラブルかつ柔軟なアプリ作成を実現。 |
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データ |
SQL Server 2019 |
高度なセキュリティとコンプライアンス機能で、データベース管理システム (ODBMS)業界のリーダー的製品。 |
SQLリソースプロバイダー |
SQLデータベースを Azure Stack サービスとして公開。 |
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MySQLリソースプロバイダー |
MySQL データベースを Azure Stack サービスとして公開。 |
このようにAzure Stackではクラウドとオンプレミスのデプロイを柔軟かつ適切に組み合わせて、企業が要求するビジネス要件と技術要件に対応します。
Azureが提供するIaaSは、従来の仮想化マシンのスペックを超えています。Virtual Machine Scale Sets を使用すれば、最新の自動スケールが可能になります。
Azureのクラウドアプリケーションで、ハイブリッドデプロイという選択肢と移植が実現します。フルマネージドPaaS、サーバーレスコンピューティング、分散マイクロサービス、コンテナー管理がオンプレミスで実行可能です。
まとめ
クラウドシフトの大きな障壁は、セキュリティに対する懸念といわれています。欧米とは異なり、日本ではクラウド3対オンプレミス7の比率であり、楽天インサイト株式会社の2019年2月の調査によると、「機密情報の取り扱いから導入できない」回答が39.4%で、クラウドシフトの阻害要因としてトップでした。
しかし、Azure Stackでオンプレミス上のプライベートクラウドを構築した後に、ハイブリッドクラウドとしてパブリッククラウドを連携させる導入方法もあります。また、スマートファクトリーを標榜する製造業では、エッジコンピューティングにプライベートクラウドを活用した需要が成長の可能性を秘めています。