近年、SDGsビジネスの市場規模は拡大傾向にあります。投資家間でもESG投資を重視する動きが広がっていることから、企業がSDGsに取り組む意義は高まる一方です。本記事では、そもそも私たちが目指す持続可能社会とはどのような社会を意味するのか、また企業はその実現に向けて何ができるのかについて解説していきます。
持続的社会(持続可能な社会)とは?
持続的(サステナブル)な社会、あるいは持続可能な社会とは、「将来の世代が損しないよう要求を満たしながら、現在の世代も満足させるような開発が行われている社会」を意味します。実現するには環境を破壊せず、資源を使いすぎないことで、未来の世代が住み続けられる美しく、平和で、豊かな地球を残すことが必要となります。
現在の地球が抱える問題
とはいえ、持続的社会を達成することは容易ではありません。今の地球は、私たち人間の社会的・経済的活動の影響を受けて様々な問題を抱えているからです。
代表的な問題のひとつが地球温暖化です。産業革命以降、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が急激に上昇しています。CO2の排出量が急増した主な要因は経済活動にあるといわれており、あらゆる産業が活性化していくにつれ、地球の平均気温の上昇も進んでいます。温暖化によって各地で気候変動が引き起こされ、各国に集中豪雨などの深刻な影響を与えているのです。
さらに、森林破壊や海洋汚染などの問題も深刻です。森林破壊は、大気中のCO2濃度が上昇する一因として地球温暖化にも関係しており、さらに土砂崩れや洪水等の災害も引き起こします。また、人間が出したごみや排水などにより海洋汚染も生じています。これらの自然破壊は、当然のことながら生物界にも影響を与え、様々な種の動物の減少・絶滅にもつながっています。
加えて、世界人口の急激な増加も重要課題です。1987年に50億人を突破した人口はいまや78億人を超え、2100年には109億人に達すると予測されています。このまま増え続けると、自然破壊などの問題はさらに深刻化してしまう可能性があります。
人類が豊かに生存し続けるための基盤である地球環境は限界に近づいています。現在の消費型の社会・経済モデルを続けていけば、地球環境や人類は、深刻な危機に瀕することになるでしょう。
持続可能な開発目標「SDGs」とは
現在、世界中の人々が立ち上がり、このような危機的状況を打開し、持続可能な社会を実現するための解決策を見出そうとしています。そのための具体的な取り組みが、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)を意味する「SDGs」です。
SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されている「2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すための国際目標」のことです。SDGsは17の目標と169のターゲットで構成されており、それぞれの目標はすべての国・企業・組織・個人が共通して取り組むべきことだと規定されています。もちろん、それは先進国である日本も例外ではなく、国をあげて実現に向けて取り組んでいます。
持続可能な社会にするための「17の目標」
SDDsでは、持続可能な社会を実現するために「17の目標」を掲げています。この目標の中には、地球温暖化などの環境問題をはじめ、貧困、教育格差、性別による不平等、労働問題など、様々な課題の解決・改善が含まれています。SDGsでは多くの課題の克服を通して持続可能な繁栄を追求し、地球を守りながら「誰一人として取り残さない」ことを強調しているのです。
日本におけるSDGsの取り組み
日本ではSDGsの実現に向けて、官民ともに様々なプロジェクトを実施しています。取り組みが奏功し、現在世界のSDGs達成度ランキングにおいて第18位にランクインしています。
日本政府は、日本社会全体にSDGsの意識を浸透させるべく、様々な法的整備や啓もう活動を行っています。そのひとつが、「ジャパンSDGsアワード」です。この賞は、SDGsに関して特に顕著に取り組んでいる組織を、日本政府が顕彰するものです。毎回企業、自治体、教育機関など様々な組織が選ばれており、日本におけるSDGs普及を促進しています。
SDGsの認知度向上には、民間企業も大いに貢献しています。認知度向上に資する取り組みとしては、「マイボトルチャレンジ」というキャンペーン活動が有名です。これはWEBマガジン「OZmall(オズモール)」とスターバックスがコラボして行ったキャンペーン企画であり、マイボトル持参を呼びかけることで、使い捨て容器の使用を削減し、SDGsの意識を消費者に根付かせることを目的に展開しました。
また、ITテクノロジーを活用した社会・都市基盤の整備などもSDGsを目指した大規模な取り組みと言えます。たとえば、内閣府は「SDGs未来都市」というプロジェクトを推進しています。これは各自治体による持続可能な都市計画を推奨・サポートする制度で、プロジェクトに参加する自治体の中には、福島県会津若松市の「スマートシティ会津若松」や千葉県柏市の「柏の葉キャンパスシティ」など、ICTをフル活用したスマートシティの実現に向けた取り組みが多く存在します。
SDGsについて、企業ができること
国や地方自治体が、環境問題など大きな枠組みの中で取り組みを進めていくことは理解できます。しかし、なぜ営利団体である企業が、SDGsに取り組まなければならないのでしょうか。また、企業はSDGsの実現のために何ができるのでしょうか。ここでは、2つの点について解説します。
SDGsに企業が取り組む理由
前述したように、自然破壊は人間の経済活動が大きく影響しています。また、SDGsのひとつである雇用や働きがいのある仕事の提供といったゴールは、企業に直接的に関係するものです。それゆえ、SDGsにおける経済に関係する目標の部分は、特に企業が率先して取り組まないと実現できないと考えられているのです。さらに環境や社会の課題も、企業ならではの施策を打ち出すことで一気に推し進められることもあるとされています。
企業は、地球環境や人間社会そのものがあってこそ成り立つものです。それゆえ、企業も社会的責任(CSR)を果たすために、SDGsに取り組むべきだという社会的風潮が非常に高まっており、方向性や施策が企業のブランドイメージを左右するまでになっています。
また、SDGsは企業にとって新たなビジネスチャンスであると捉えることもできます。たとえば2017年に開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)では、2030年までにSDGsが達成されることで12兆ドルの経済価値と、最大3億8,000万人の新規雇用が創出されるとの予測が公表されました。2017年のデロイトトーマツ社が出した報告書においても、SDGsにおける17の各目標に対応したビジネス市場の規模は、最小でも70兆円以上、最も大きなもので80兆円以上にもなると試算されています。
そして、SDGsに取り組む企業を評価する機運は投資家間でも高まっています。積極的な姿勢の企業に、優先的に資金を投じるESG投資の規模は、世界、そして日本国内でも年々拡大しています。つまり企業がSDGsに取り組むことは、社会的責任を果たすという面でも、ビジネスチャンスを獲得するという面でも非常に価値のあることなのです。
SDGs導入のために企業がすべきこと
SDGsへの取り組みを始めるにあたって、企業はまず何をすべきなのでしょうか。最初に考えるべきことは、自社の事業とSDGsの関係性を整理することです。自社の事業活動の中、あるいはその延長線上にSDGsに関係するものがある場合は、スムーズに取り組みを始めることができます。
たとえばトヨタなどの自動車メーカーは、電気自動車(EV)の開発に取り組むこことで、事業と脱炭素社会の実現というSDGsの目標をマッチさせているといえるでしょう。また、新たな事業やビジネスが創出できるのであれば、SDGsに貢献できる新しいプロジェクトを立ち上げることも効果的でしょう。環境に配慮する取り組みは、企業ならではの目線を十分に活かすことも十分に可能です。
そして、SDGsに実際に取り組む際に注意すべきなのは、目標設定も含めて無理しすぎないことです。実現不可能な目標設定や、従業員の業務に負荷がかかり過ぎるような取り組みでは、仕事へのモチベーションに悪影響を与える恐れがあります。SDGsに取り組んだ結果、自社の持続可能性を阻害したのでは本末転倒です。SDGsの実施においては中間目標を設定するなどして、長期的に取り組む姿勢を持つことが重要です。
まとめ
本記事では持続可能な社会の実現を目指すSDGsの概要について解説しました。企業がSDGsに取り組むことは社会的責任を果たし、ビジネスを発展していく上で大いに価値のあることです。それゆえ、SDGsに取り組む際は、自社の事業との関係性をきちんと精査し、長期的に取り組める施策を講じていくことが重要です。