建設・ビル管理

スマートビルディングとは? 意味や定義を基礎から解説

「スマートホーム」という言葉が浸透しつつある今日ですが、「スマートビルディング」と呼ばれる建物が建築されていることをご存知でしょうか。スマートビルディングとは、ビルのあらゆる施設にICT技術を搭載し「スマート化」した建物です。本記事では、スマートビルディングの定義や概要、得られるメリットなどについてわかりやすく解説します。

スマートビルディングとは? 意味や定義を基礎から解説

Smart Buildings & Spaces 総合カタログ

スマートビルディングの定義とは

「スマートビルディング」とは一般に、IoT技術を駆使した建物を意味します。IoTとは“Internet of Things”の略称で、翻訳すると「モノのインターネット」を示します。その名の通り、IoTとは、さまざまな「モノ」にインターネットへの接続機能を搭載し、ネット回線を通して従来よりも複雑な情報処理や多様なサービス提供を可能にする技術です。

スマートビルディングでは、電力設備、空調設備、会議室、トイレ、喫煙所など、さまざまな建築設備にIoTを搭載して、システム上で一元管理したり連携させたりすることが可能です。これによって「建物の保守管理の効率化や、利用者の利便性向上などを実現する」ことが、スマートビルディングの目的です。日本においては、民間での取り組みのほか、総務省や経済産業省が事例研究などを進めています。

BAS(ビルオートメーションシステム)の発展した姿?

スマートビルディングの先駆けとなる存在としては、「ビルオートメーションシステム(BAS)」が挙げられます。BASとは、空調・照明・セキュリティ設備など、あらゆる機器を1つのシステムに統合し、ビル内で一元管理および自動運用するシステムです。BASの活用例としては、施設に人感センサーを設置し、人が入室したときだけ照明を点灯させることなどが挙げられます。このようにセンサー類やそのほかの自動化技術と組み合わせることで、BASはさまざまなシステムを人間がコントロールする必要をなくし、エネルギー消費などを効率化できます。

BASもスマートビルディングも、建築設備の操作や管理をデジタル化して効率的にするという点は共通しています。ただし、BASにおいては基本的にビル内にシステム管理室を置くことを想定しているのに対し、スマートビルディングはIoT技術を利用することによって、ビル外からの遠隔管理や遠隔操作も可能であるという点に大きな違いがあります。BASの発展形、進化系に当たるのがスマートビルディングであると捉えていいでしょう。

スマートビルディングに注目が集まる理由

近年スマートビルディングが注目を集めている背景にはさまざまな事情が隠れています。しかし、根底にあるのはやはり、「スマート化」を可能にするIoTやAIなどのテクノロジーの発展です。現在の社会は、これらの技術革新に牽引されるような形で、急激にDXを進めています。機械、家、ビル、あるいは都市などの「スマート化」もその潮流の一側面と言えるでしょう。

また、企業がさまざまな理由からセキュリティ面の強化に取り組んでいるのも大きな理由です。スマートビルにおいては、監視カメラや各種センサー類を相互連携させることによって高度なセキュリティ基盤を構築できます。重要な情報や資源を扱う企業にとって、スマートビルディングのこうしたセキュアな環境は魅力的なものです。

さらに、オフィスビルを単なる「箱物」として見るのではなく、「そこを行き来する人々の快適性を向上し、働きやすい職場を作るための大切な環境要因」として捉える向きが増えてきたことも、スマートビルディングの普及を後押ししています。

スマートビルディングが社会にもたらすメリット

スマートビルディングがもたらすメリットは実に多面的です。第一に、ビルをスマート化することで、ビル管理者はIoTネットワーク上にある各施設の情報を収集し、システム上で統合的に管理・活用できるようになります。そして、これによって施設の利用状況、電力などのエネルギーの稼働状況、セキュリティリスクなどさまざまな情報を可視化し、最適化することが容易になります。その結果、ビルの省エネ化の実現、セキュリティの強化、利用者の満足度向上、管理コストのカットなどさまざまなメリットが期待できます。

とりわけ電力や空調設備の省エネ化・最適化は、経済的なコストを節減できるだけではなく、「環境に優しいエコなビル」であるという付加価値ももたらします。また、今後ますます加速していくであろうDXへの第一歩としてもスマートビルディングは有効です。職場そのものにIoTが搭載され、それが業務と連携することで、従業員はICT技術の効果を日頃から肌身で感じ、大きな変革を伴うDXにも前向きに取り組んでくれることが期待できます。IoT環境を今から盤石に整えておくことで、将来的により便利なデバイスやロボットが登場した際も、職場へのスムーズな導入が見込めるでしょう。

スマートビルディングの課題

他方で、スマートビルディングには懸念すべき課題もいくつかあります。スマートビルディングは、本質的にビルのあらゆるモノをインターネットにつなげ、システム化します。したがって、そこには常に一定の情報セキュリティリスクが付きまとってしまうのです。また、制御システムや通信関連でのトラブルに見舞われる可能性も否定できません。さらに、導入コストが高くつくのも難しい点です。膨大な数のIoT機器や、そのデータを収集・管理するための通信環境、管理システムなどを導入するには、どうしても相応のコストが欠かせません。

スマートビルを支えるBEMS(ビルエネルギー管理システム)とは

スマートビルは省エネ化を可能にすると既に紹介しましたが、それを実現するのが「ビルエネルギー管理システム(BEMS)」です。BEMSは空調施設をはじめとする各種機器の稼働状態をセンサー類で監視し、ビル内のエネルギー消費状況などをデータ化します。そして、各種データに基づいて施設の稼働状態を自動調節し、ビル内の環境を快適かつ効率的に保つのです。BEMSはスマートビルを支える中核的なシステムであると言えます。

最先端を走るスマートビルディングの事例

スマートビルディングはまだ新しい取り組みですが、日本においても徐々に増え始めており、いずれ大きな市場規模を生み出すとも予想されています。そこで以下では、最先端を走るスマートビルディングの具体的事例として「東京ポートシティ竹芝」と「東京建物日本橋ビル」について紹介します。

東京ポートシティ竹芝

東京ポートシティ竹芝は2020年9月に開業しました。同ビルは東急不動産とソフトバンクの協力によって建設が進められ、館内には1,000台以上のIoTセンサーやカメラが設置されています。これらのセンサー類から得られたデータは「スマートシティプラットフォーム」上で一元管理され、空調設備などの稼働状況を最適化したり、建物内の混雑状況を可視化したり、不審者を検知したりすることに使われます。

そうして収集された情報は、館内のデジタルサイネージやWebサイトなどを通して、来館者やオフィスワーカーに適宜配信され、快適な施設利用に活用可能です。ビル内の混雑状況を事前に把握できるため、店舗まで行って落胆したり予定を変更したりすることを避けられます。

東京ポートシティ竹芝は、「スマートシティ竹芝」構想の先駆けとして位置づけられ、街全体が今後スマートシティ化を目指す上でのシンボルとなっています。

東京建物日本橋ビル

東京建物日本橋ビルは総合不動産会社の東京建物が所有するビルで、「スマートビル管理システムDBM」を日本で初めて導入した建物です。同ビルには約400箇所にQRコードやNFCタグが設置され、スマートフォンで読み取りをすると自動で情報がシステムに送信されるようになっています。「廊下が汚れている」、「器物が損壊している」などの異常を見つけた場合、巡回員はスマートフォンで撮影し、近くのQRコードからその情報をシステム管理している本部に送信できます。

そして、その情報をシステム上で確認した担当者は、QRコードの位置情報などに基づいて、清掃スタッフなどの人員をそこに派遣します。

従来、巡回作業と言えば、記録板を持って歩き回り、後でそこにメモした情報をシステムに入力し直すという非効率なやり方をするのが常でした。しかし、同社はスマートビル管理システムを導入することによって点検作業のデジタル化を実施し、施設管理の効率的運用を可能にしたのです。

まとめ

スマートビルディングとは、IoT技術を駆使することで、ビル内のさまざまな機器・データの一元管理や相互連携を可能にする建物です。その主な効果としては、建物の施設管理業務の効率化や省エネ化、利用者の満足度向上などが挙げられます。今後日本でもスマートシティ構想が推進されていく中、スマートビルディングも普及していくことが予想されます。

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