デジタル技術の発展や価値観の変化により、現代の社会は将来を見通すことが困難になってきています。そんな中で、「パーパス」の新たな策定や見直しに取り組む企業が増えつつあります。
この記事では、パーパスの概要から、なぜ必要とされてきているのか、背景を解説します。また、パーパス経営を実践するメリットやデメリット、時代に合わせて経営を成功させるポイントについてもご紹介します。
パーパス(purpose)とは
英語の「パーパス(purpose)」は直訳すると「目的」や「意図」といった意味があります。ビジネスにおいては、パーパスといえば一般的に、「何のためにこの会社があるのか」といった企業の存在意義を指します。企業が自社のブランディングを考えるうえで、パーパスを策定することは非常に重要であり、近年注目を浴びるようになってきました。
同じような意味として「経営理念」もありますが、パーパスは、社会的な意義をより重視している点で異なります。また、パーパスを明確に策定し、社会への貢献活動を積極的に行う経営のことを「パーパス経営」と呼びます。
パーパスの策定は、単に社内へ経営方針を浸透させるだけでなく、広く社会へ発信することで顧客からのイメージを高められるため、ブランド構築にも役立つのです。
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)との違い
「経営理念」と同様に、「企業理念:MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」という用語もあります。
パーパスは社会における自社の立ち位置を確認し、なぜ(Why)存在しているのかを突き詰めることで答えを出せます。一方、企業理念とは、「自社が最も大切にしている価値観や考え方」のことで、パーパスの土台になる部分と捉えられるでしょう。
企業理念では、さらに「ミッション(What:目標達成のために何をすべきか)」、「ビジョン(Where:どこを理想とするのか)」、「バリュー(How:どのように進めていくのか)」の3要素が必要とされます。これらはパーパスと共通する点もありますが、前述した経営理念と同様に、必ずしも「社会とのつながり」を追求しないのが特徴です。
また、企業理念は「未来に向けてこうなりたい(だからこうする)」といった強いメッセージが根底にあるのに対し、パーパスはあくまで「今あるべき姿」にフォーカスされているなど、視点の違いもあります。
パーパスが注目を集める理由
ではなぜ昨今、様々な企業がパーパスに注目するようになったのでしょうか。
現代は「VUCA」の時代とされます。これは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の略語で、ビジネスにおいて先行きの予測が困難であることを意味します。
日々、目まぐるしく変化する市場においては、既存のビジネスモデルや価値観に固執していても勝ち残ることはできません。そのため、投資家や顧客など、様々なステークホルダーに自社の価値を認めてもらう必要があるのです。また、市場の変化の内容・度合いによっては、思い切った構造改革に取り組まなければならない可能性もあります。そのために、自社の存在価値を改めて問い直すことでパーパスを明確にするとともに、それを全社員に浸透させることが重要です。
また、新型コロナウイルス感染症の流行は社会全体の価値観を大きく変化させました。社会が不安定になる中、「企業としてどうあるべきか」、「どう社会へ貢献できるか」といったパーパスを見直す動きが広まっています。一見して無関係の業界が、医療を支える取り組みを行うなど、パーパスに則った取り組みが評価された例もあります。
さらに現在、あらゆる企業がDX(デジタル・トランス・フォーメーション)を推進しているという背景も挙げられます。リモートワークに代表されるDX化を成功させるためには、「ペーパーレス」など表面上の取り組みだけでなく、企業の意思決定プロセスそのものを、根底から変革させることが大切です。そのためには、原点に立ち戻って「なぜ自社がそのような大きな取り組みをするのか」について、全社員が納得、共感できることが求められます。このようにして、現在はパーパスを見直し、社内へ浸透させる動きが高まっています。
パーパス経営のメリット・デメリット
企業がパーパスを重視する経営に取り組むようになると、どのような効果やメリットが期待できるのでしょうか。懸念されるデメリットや注意点とともに、それぞれの主なポイントについて、詳しくご紹介します。
パーパス経営のメリット
近年、投資家が投資先を選ぶ基準が従来から変わりつつあります。以前は利益など財務的な情報のみで評価されることが主流でした。昨今では、リーマンショック以降、短期的な利益主義の経営による弊害が認知されたことなどを理由に、ESGなどの社会への貢献性も含めて判断されるようになっています。
そのため、企業が長期的な成長の目標をもち、明確にパーパスを策定すると、投資家や消費者といった様々なステークホルダーからの支持拡大につながるでしょう。結果として、企業はブランディングの強化とともに、投資対象としての評価が高まるメリットも生まれます。市場での優位性を確保でき、利益の増加も見込めるようになるため、経営に良い影響を与えられるでしょう。
また、社内の従業員にとってのメリットも見込めます。「自社がなぜこの事業を行っているのか」がクリアになれば、自身の業務への納得感も高まります。すると、従業員エンゲージメントや定着率の向上につながり、各従業員がいきいきと働けるようになるでしょう。これにより、新しいアイデアやビジネスモデルが創出されやすくなり、それに伴って企業価値も上がっていきます。
パーパス経営のデメリット
環境への配慮をうたっていながら実際は異なる「グリーンウォッシュ」のように、パーパス経営において実体がないことを「パーパスウォッシュ」と呼ばれます。根拠がなく、高すぎる理想をもとに設定されたパーパスは、逆に信用をなくすきっかけになりえるため、確実に実践できる体制を整えなければなりません。
また、短期的な効果を見込めないこともデメリットです。パーパスを実現し、実績を重ねていくことで高い効果を発揮するため、長期的な視点をもって一定のコストを支払い続ける必要があります。コストはパーパスの内容によって大きく変化するため、あらかじめ理解し、自社で行える適切な取り組みを検討しましょう。
パーパス経営を実施する際のポイント
パーパス経営の成功に向けて、実際にパーパスを策定し、経営に取り込んでいく際にどのようなポイントに気を付ければよいのでしょうか。とくに大切とされるポイントについてご紹介します。
社会問題の解決につながるかを確認する
パーパス経営を実現するには、まず自社が求められている意義を明確にすることが何よりも重要です。前述の通り、パーパスは社会とのつながりや関係性を重視します。まずは社会的な課題となっていることについて、把握することに努めるとよいでしょう。
そして、その課題を解決するために自社が事業としてできることを検討します。長期的に取り組みを持続していくために、コストを検討して最終的に見込める利益とのバランスを考慮することがポイントです。
パーパスステートメントを作成する
自社にとって明確なパーパスを認識したうえで、さらにそれを社内外に周知、浸透させていかなければなりません。パーパスを発信する際には「パーパスステートメント」と呼ばれる、誰でもわかりやすい、具体的な言葉にする必要があります。
パーパスステートメントを作成する際には、簡潔に、また一度聞いただけでイメージができるよう工夫するとよいでしょう。全ての従業員や顧客が理解しやすく、共感を得られるパーパスであれば、結果としてパーパス経営が成功する可能性が高まります。
バックキャスティングで経営を考える
パーパス策定の際によく使われるのが「バックキャスティング」という手法です。これは「未来の姿から現在の課題を考える思考法」とされ、現在から未来を予想する「フォアキャスティング」と対になります。
VUCAの概念に挙げられる通り、変化が激しく、将来を予測することが難しい現代においては、まず達成したい目的を先に描き、そのために何ができるかを考えることが重要です。未来に向けた斬新なアイデアを創出し、またアイデアを形にするために行動していくことがパーパス経営の実現につながります。
バックキャスティングについては以下の記事も参考にしてください。
バックキャスティングとは? フォアキャスティングとの違いや実施手順を紹介!
まとめ
「パーパス」は企業の存在意義を指し、近年重視されるようになってきました。社会における価値観の変化やDXの推進、新型コロナウイルスの影響などを背景に、パーパスを策定し、経営に取り込む企業が増えているのです。
そのためには、社会とつながった、自社のあるべき姿に近付けるように、適切なパーパスステートメントを作成することが大切です。バックキャスティングの方法も取り入れながら、パーパス経営の実現を目指しましょう。