近年、最新のテクノロジーを用いて法律業務を効率化するリーガルテックが注目されています。弁護士や企業法務部門をメインユーザーとし、契約レビューや訴訟データ分析など、様々な業務を効率化するものです。
この記事では、リーガルテックの歴史やサービスの種類、メリット・デメリットや導入のポイントについて、ご説明いたします。
法律と技術を組み合わせた「リーガルテック」
リーガルテックとは、最新技術を用いて法律分野の業務を支援するシステムやサービスなどを指します。
リーガルテックの発祥
アメリカは、有名な訴訟大国です。訴訟手続きなどでは、大量の文書を分析する必要があります。このような、弁護士を始めとした法務業務支援のために、昔からコンピューターが用いられてきました。近年の人工知能の発展によりサービス範囲が広がり、2010年代からリーガルテックと呼ばれて注目を集め始めています。
国内におけるリーガルテックの市場規模
全世界的にもリーガルテックは盛り上がりつつありますが、日本の市場規模はどのように増えているのでしょうか?市場調査で有名な矢野経済研究所によると、2022年には約330億円、さらに2023年には約350億円 との予測です。対象となる業務が訴訟だけでなく契約支援などにも広がっているため、急成長しています。
どうして今リーガルテックが注目されているのか?
日本は人口減少する中、働き方改革を推進中です。その一環で、リーガルテックが注目され盛り上がってきています。以下で具体的に見ていきましょう。
ビジネスのIT化
働き方改革の一つとして、様々な業務のIT化の加速が挙げられます。特にコロナ禍においてはリモートワークが定着しつつありますが、契約手続きなどをオフィスではなく自宅でできるようにするために、リーガルテックが用いられているのです。例えば、実押印でなく電子押印による電子契約サービスなどがあります。
企業の法務部門強化の必要性
また、法務部門そのものの進化も求められています。ビジネスがますます加速する中で、戦略的な契約業務の重要性は増している状況です。法務部門がより価値の高い業務に集中するためにも、リーガルテックによる効率化が必要となっています。単なる事務手続きの仕事はAIの力を借りることで、契約相手との交渉戦略に専念できるでしょう。
リーガルテックの主なサービスの種類と概要
リーガルテックには、多くの種類があります。想定ユーザーも、弁護士や法務部門だけでなく、法律関係の研究者向けなど多岐にわたります。
電子契約
これまでの契約手続きでは、印刷された紙への押印が常識となっていました。紙の受け取り、そして押印してまた送付するなど、大変な手間がかかっていたのです。しかし、電子契約の導入により、大きく変わりつつあります。サービスを導入するだけで、送付や押印の手続きコストを大きく減らすことができます。
契約書のレビュー
契約のレビューも簡単に行えるようになります。過去からの変更履歴の管理が容易になり、また条文間の関係を補助的に示してくれる機能などもあります。それにより、不足している契約条件の発見や、互いに整合しない条文の特定が簡易化されました。これまでは、人が目で見て確認していたことを考えると、確かな進歩と効果を感じることでしょう。
文書管理サービス
契約書の管理は、原本をファイリングして棚に置いておくのが普通でした。しかし、今はリーガルテックにより、デジタルで管理されており検索なども容易になっています。また、紙の契約書をOCRスキャンしてデジタル化することも可能です。さらに、近年は契約保管義務についての法律も新しくなり、対応するリーガルテックサービスも登場しています。
文書作成
法律文書のレビューだけでなく、ゼロからの作成を支援するサービスもあります。様々な契約条件に対応したテンプレートを選ぶだけで最初の素案がすぐに生成されるものや、条件を可視化しつつ文書を作成するものなどです。また、履歴管理が行いやすいものもありますし、条文番号の自動入力や補正を行ってくれるサービスもあります。
申請・出願
法律文書のなかには、行政組織に申請するものも少なくありません。例えば、特許庁へ提出する特許や商標などの書類が検討します。主要な部分を入力しさえすれば、その他の必要な定型箇所についてはシステムが補助してくれるものなどです。特許と言えば技術的で創造的な文章が必要と思われるかもしれませんがAI発達に伴い、過去の膨大な特許文章を学習して補助してくれるものもあります。
リーガルリサーチ
法律の研究をする際、これまでは大量の文献を紙の本から探していました。近年は、そのようなリサーチに役立つためのデジタルデータベースも準備されています。条文単位、争点単位で訴訟データを検索できるなど、仕事のスピードアップに大変役立つでしょう。訴訟や法律分野を横断的に調査し、比較検討を容易にする機能などもあります。
フォレンジック
もともとフォレンジックとは、訴訟における証拠の保全や調査、分析を意味した言葉です。これまでは、大量の文書記録を収集し調査されていました。近年ではリーガルテックにより、メールやデジタルファイルなどに関し、たとえ一旦消去されていても復元することなどが可能になったのです。さらに、改ざんして上書き保存されたデータであっても、過去の履歴をたどることができます。
紛争解決
紛争解決とは、例えば離婚や金銭的な事件など民事的な裁判所での手続きを必要とするものです。これらの手続きは、盆雑で時間がかかるものと思われていることも少なくありません。しかしリーガルテックにより、裁判所外での紛争解決に関するデジタルサービスが可能になっています。すべての手続きをオンライン上で済ませることができ、中立的な調停者の選定も行いやすくなりました。
リーガルテックを導入するメリット
上述のように多くのサービスが開発・導入されています。背景には、次のような共通するメリットがあります。
書類業務が効率化できる
これまでは印刷された紙をつかっていた書類業務が、AIによって簡単になります。デジタルになることで検索が容易になり、自動チェックや修正候補の提案などが行われ、これまで必要だった作業が効率化されるでしょう。他にも、これまで膨大な法律データ処理を人手でやりきることは大変な苦労を伴いましたが、AIによってビッグデータ分析を行うことができ、例えば何万件と言う訴訟データや特許を自動で解析して新しい示唆を見出すこともできます。
時間とコストの削減ができる
リーガルテックにより、多くの時間を必要としていた法律業務がより短い期間で行えるようになりました。それに伴い人件費も圧縮できたり、印刷代も削減できたりします。さらに、例えば国会図書館などに外出する必要もなくなりました。このようにして、法律実務家はより高度で付加価値の高い業務に集中することができるようになります。法務関係者においても1人当たりの生産性が増し、働き方改革の推進に貢献できるでしょう。
情報の管理・共有の一元化ができる
紙からデジタルへの移行によって、誰でも簡単に情報にアクセスできるようになります。組織のなかで、誰がいつ文書を変更したのかなどのバージョン管理や確認ができることは大きなメリットの一つです。仕事を1人で抱えさせると、進捗管理が難しくなったり、業務ノウハウが共有されなかったりする弊害が生じる場合もあります。これらの課題は、リーガルテックにより情報の一元化を行うことで解決しやすくなるでしょう。
リーガルテックを導入するデメリット
リーガルテックは比較的新しいサービスであり、気を付けるべきデメリットがあります。主要なものについて、以下に記載しました。
電子契約が認められていないケースもある
現在のリーガルテックは、全ての種類の契約に対応しているわけではありません。今の法律業務で取り扱っている契約について整理し、サービスのカバー範囲との関係をよく確認することが望まれます。電子契約に関する関連法案も、年を追って改善しつつありますが、まだ万全ではありません。
また、電子契約は契約する相手側も同じ種類のサービスを導入していなければ成立しないことにも要注意です。業務にて契約を取り交わしている顧客に、利用しているリーガルテックについて確認してみるとよいでしょう。
トラブルが起こった場合の責任の所在が不明確
リーガルテックはあくまで法律業務の支援を行うもので、業務そのものの責任を持つことはありません。例えば契約レビューのサービスであれば、あくまで修正提案を出してくれるだけで、契約の成否や生じた不利益に関し、その責任は人間にあります。また、クラウド一元管理であっても、急なサーバーダウンの可能性は否定できないので、バックアップ体制を構築しておくなど、デメリットに対する適切な処置が必要なこともあります。
リーガルテック導入時のポイント
これまでメリットとデメリットについて述べてきました。次からは、実際に導入を検討する際に重視すべきポイントについて触れていきます。
目的の明確化
リーガルテックを導入することによって解決したい課題を、しっかりと検討しましょう。流行りのサービスという理由だけでは、実際に利用しても効果は得られにくいです。現在、業務に従事している人に丁寧にヒアリングして、組織的に解消すべき問題点を洗い出すことが推奨されます。同時に、検討しているリーガルテックがその問題点に対応しているかも綿密に分析しましょう。
無料トライアルの利用
実際に試すことなく有料サービスを導入することは、あまりおすすめめできません。多くのリーガルテックサービスは、無料トライアルを準備しています。機能はフルに使える一方、アカウント数や利用期間が制限されているものが多いです。どの問題解決に対して試したいのかなど、事前に検討し、サービスベンダーに問い合わせて確認の上、無料トライアルを実施することが推奨されます。
段階的な導入
導入を決めた場合であっても、最初から多くのアカウント数を購入したり、フル機能版を利用するのはやめておきましょう。重要度が高い業務課題から、一つずつ順番に解いていくことをおすすめします。特定の部署で少人数のアカウントから始め、効果を測定しつつ、順々に組織として拡大していくのが好ましいです。
これからのリーガルテック
働き方改革やテレワークの推進に伴い、リーガルテックはますます発展していくでしょう。ユーザーも、弁護士や法務部門だけでなく、民事裁判や裁判外紛争などで一般市民にも広がっていくことが予想されます。人工知能を始めとした技術開発も発展し、多くのベンダーが増えていくなかで競争も進み、無料トライアルを試せる機会も増えていきます。
つまり、魅力的な将来がリーガルテックには待っていると言えます。ベンダーの株価上昇も期待されるため、ユーザーの利便性の向上も予想されます。
まとめ
本記事ではリーガルテックについて幅広く触れてきました。訴訟支援だけでなく、契約レビューや契約書管理などサービスは多岐にわたり、今後の発展が期待されています。なかには無料トライアルもあるため、主な想定ユーザーである弁護士や法務部門の方々は、比較検討しながら試してみるとよいでしょう。