近年、国内のあらゆる産業において、DXの実現が喫緊の経営課題となっています。DXとは最先端テクノロジーを活用し、新たな市場価値を創出することであり、実現の要となるのがエンジニアリングチェーンです。本記事ではエンジニアリングチェーンの概要や課題について詳しく解説します。
エンジニアリングチェーンとは
製造業は受注から販売へと至るまでに、「企画」→「設計」→「調達」→「製造」→「出荷」という業務フローが存在します。エンジニアリングチェーンとは、設計部門を中心とした製造プロセスの一連の流れを指す用語です。「Engineering Chain Management」の頭文字をとった略称として「ECM」とも呼ばれます。具体的には市場分析から企画構想に始まり、製品の設計や工程の設計、そして生産準備に至るまでの業務プロセスを指します。設計部門が製造プロセスの流れをどのように構築するのかによって、企業価値が大きく関わるため、製造業において非常に重要な要素です。
企業は製品やサービスという価値を提供し、対価として利益を得るサイクルを維持して成長していく組織です。この価値創造から価値提供のサイクルは複数のプロセスチェーンによって構成されています。たとえば、マーケティングや営業戦略を構築する「デマンドチェーン」、製品の供給プロセスを構成する「サプライチェーン」、アフターサービスを提供する「サービスチェーン」などが挙げられます。そして、価値創造から価値提供へと至るプロセスチェーンの間にある、製品開発における一連の流れがエンジニアリングチェーンです。
このエンジニアチェーンをどのように繋げ、活用するかにより、ものづくりを行う企業の価値が変わってきます。
デジタルエンジニアリングチェーンが期待される
近年、第4次産業革命が提唱され、製造業はこれまでにないほど大きな転換期を迎えています。蒸気機関の誕生による第1次産業革命。電力と石油を動力とする第2次産業革命。IT技術による第3次産業革命。そして、それらに続く大きな革命が、AIやIoTの活用による第4次産業革命です。そんな第4次産業革命の実現において最も重要な課題となるのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の推進です。
DXとは最先端のデジタル技術を活用し、企業の在り方やビジネスモデルそのものに変革をもたらす概念を指します。製造業においてDX実現の要とされているのが、製造プロセスのデジタル化です。設計部門はCADのようなデジタルシステムを導入しており、デジタル技術を活用しているイメージがあります。しかし、設計図面や仕様書などはデジタル化されていても、文字や絵で構成された非構造化データであり、人の作業や感覚に依存しているのが実情です。したがって、設計部門はデジタル化されてはいるものの、デジタル技術の活用という段階に至っているとは言えません。
また、従来は製品の製造工程におけるプロセスを「PLM(Product Lifecycle Management)」で管理し、デマンドチェーンやサプライチェーン、サービスチェーンなどとは別軸で考えられていました。しかし、変化の加速する現代市場で新たな価値を創出するためには、部門間の接点を強化し、組織全体を巻き込んだ製品の製造体制が求められています。そのためには設計部門の製造に至るプロセスのデジタル化が不可欠です。デジタル化された製造工程を構築することでDX実現の一助となり、組織全体における生産性向上につながるでしょう。
エンジニアリングチェーンの課題
製造プロセスのデジタル化が注目を集めている背景には、現在の業務フローに大きな課題があるためです。その課題として挙げられる要素は主に3つあります。それが「正確な情報伝達」「情報共有と作業工程管理の整備」「成果物の管理」です。ここからは、製造業における設計部門が抱えている3つの課題について解説します。
正確な情報伝達
1つ目の課題として挙げられるのが情報伝達の正確性です。設計部門は業務が個人に依存しがちであり、なおかつデジタル化も進んでいないため、設計プロセスで挙がった課題や懸念事項が生産準備段階で共有されないという点が大きな課題となっています。正確な情報が伝達されないことによって作業の出戻りが発生し、製造プロセスの流れにおいて余分なコストが生じているのが実情です。
情報共有と作業工程管理の整備
2つ目の課題は情報共有と作業工程管理の整備です。製造に関わるワークフローはデマンドチェーンやサプライチェーンなどと別軸で構成されているため、必要な情報が他部門に伝わらないという事態が発生します。こうした不十分な部門間連携によって情報共有と作業工程が分離し、生産性や品質の低下を招いているのが現状です。したがって、設計部門の製造工程をデジタル化し、部門間を横断した情報共有と作業工程管理の整備が必要といえるでしょう。
成果物の管理
3つ目の課題となるのが成果物の管理です。各プロセスでの成果物のバージョン管理が機能しておらず、部門間連携が不十分なため情報共有にタイムラグが生じます。そして、正しい情報を探す工数や、あやまって作業を進めた場合の出戻りが発生し、結果として組織全体の業務効率の低下を招きます。ここまで見てきた3つの課題を解決するためには、企画構想から製品の設計、そして生産準備に至るフローをデジタル化し、部門間の円滑な情報共有と連携性の強化が必要です。
デジタルエンジニアリングチェーンを実現する方法
設計部門の業務フローをデジタル化するためには、具体的にどのような施策が必要なのでしょうか。重要となるポイントは設計諸元と設計成果物のデジタル化です。設計諸元と設計成果物をデジタル化することで、どのような成果につながるのか見ていきましょう。
設計諸元のデジタル化
第一に重要なポイントとして挙げられるのが、製品の寸法や重量などの諸要素となる設計諸元のデジタル化です。製造では、CADを使う詳細設計の前段階として 構想設計を実施します。構想設計では、製品に求められる要件を満たすために、主要部品の構成や実現方式などを検討し、設計諸元を決定します。この設計諸元をデジタル化することで、部門間を横断したシームレスな連携が可能になるでしょう。そして、製品に転化することで迅速なフィードバックやフィードフォワードが発生し、製造プロセス全体の最適化につながります。
設計成果物のデジタル化
日本は「ものづくり大国」と呼ばれる世界第3位の経済大国です。そんな日本の市場を牽引しているのが、自動車メーカーを筆頭とした製造業です。製造業は日本のGDPの約2割を占めており、情報通信技術の発達や経済のグローバル化も相まって、その市場は拡大の一途を辿っています。しかし、メリットの裏には必ずデメリットがあり、市場の拡大によって顧客ニーズは多様化かつ高度化し、製品ライフサイクルの短命化が進んでいるのが実情です。
同時に製品の設計や開発も複雑化しつつあるため、製造プロセスの効率化が急務となっています。そこで必要となるのが設計成果物や工程設計のデジタル化です。製品の3Dデータや製品情報、部品表や部品構成表といった成果物をデジタル化することで、部門間を横断した情報管理が可能になります。その結果、作業の出戻りを防ぎ、無駄なコストや支出の削減に貢献します。また、部門間の情報共有が可能になれば業務の属人化を防ぐことにもつながるため、製造業が抱えている人材不足という問題解消の一助となるでしょう。
まとめ
製造業においてDXの実現は喫緊の経営課題であり、そのためにはデジタル技術の活用が不可欠です。なかでも製造プロセスの連鎖となるエンジニアリングチェーンのデジタル化がDX推進の要となるでしょう。エンジニアリングチェーンの最適化を目指す企業は、日鉄ソリューションズの支援サービスを利用してみてはいかがでしょうか。