インターネットは既に私達の生活に必要不可欠なものとなり、ネットを使用しない生活は想像できないほどまでになりました。これから注目されるのは、人が使うためだけでなく、モノがインターネットを使う、モノ同士がインターネットを使うIoT(Internet of Things)です。ここではIoTの解説とその具体例を紹介します。
IIoT(Industrial Internet of Things)
様々なモノがインターネットに接続され通信することで新たな価値を生み出すIoTと呼ばれる仕組みは、既に多方面で活用されています。
IoTの中でも産業分野向けのIoTはIIoT(Industrial Internet of Things)と呼ばれ、製造業や物流、エネルギーなどのいくつもの分野で用いられています。一般的にIoTで実現可能なことは「モノを操作する」「モノの状態を知る」「モノ同士で対話をする(データを送受信する)」といった基本的なことであり、これらを実現することは難しいことではありません。
しかし、IoTは様々な分野で活用されるため、その分野に特化したカスタマイズが必要です。つまりIIoTを適切に導入するためには、柔軟な構成が可能となるIoTの動作環境(プラットフォーム)を慎重に選定する必要があります。
PTC社が採用するThingWorxとは
IoTプラットフォームとは、数多くのIoTデバイスからのデータを受信し、情報分析を可能とする動作環境のことです。分析、判断した結果を基にIoTデバイスを動作させるためにも用いられ、一般企業や個人向けに数多くのIoTプラットフォームが提供されています。
もちろん独自にIoTプラットフォームと同等の動作環境を整えることも可能ですが、IoTデバイスからデータを送信するための通信回線を携帯電話キャリアから、データを集積するためのサーバーをクラウドベンダーから、データを分析するためのツールをソフトウェアベンダーからと、動作に必要となる環境をひとつずつ準備するのは大変な労力を必要とします。
ここでは柔軟なIoTのプラットフォームのひとつとして注目されている「ThingWorx」をご紹介します。PTC社が提供するIoTプラットフォーム「ThingWorx」は、法人向けのIIoTプラットフォームとして様々なサービスを提供しています。IoTデバイスからの「ビッグデータ収集」から「データの解析」と「見える化」まで、さらには拡張現実(AR)を用いた「遠隔作業支援」や「技術伝承」まで、一気通貫のサービスを利用することで多くのメリットを享受できます。
ThingWorxの主な機能
「ThingWorx」の特徴的な機能として、プログラミングをすることなく様々なデータの「見える化」を実現するマッシュアップと呼ばれる仕組みがあります。これにより、必要に応じWebブラウザに表示されるデータをマウスのドラック&ドロップで変更できます。
また、ERPやCRMといった他システムとの接続や、C言語や.NET、Javaなどで作成されたアプリケーションとの連携を実現するSDK(ソフトウェア開発キット)が提供されているため、柔軟な運用が可能です。
また、IoTプラットフォームとしてだけでなく、製造工程管理やサービスパーツの価格管理など、産業製品のライフサイクル、製品リリース後のサービスライフサイクルを管理する様々なサービスが組み合わされています。
産業用IoT(IIoT)「ThingWorx」を導入するメリット
それでは「ThingWorx」を導入することでどのようなメリットがあるのでしょうか。主な導入メリットを解説します。
生産性の向上
稼働設備に搭載されたIoTデバイスからのデータを基に、設備の稼働状態をリアルタイムに監視することで異常発生時の即時対応が可能です。蓄積されたデータを解析することで潜在的な不具合を予測するなど、設備の稼働率向上を実現します。また「ThingWorx」で特徴的な「Vuforia」と呼ばれるARを用いたトレーニングを行うことで、短時間で作業者の習熟度を上げ、属人的になりがちな作業も特定の人材に頼ることなく、均一的に生産性の向上を図れます。
製品の品質向上
「ThingWorx」では「Kepware」と呼ばれる機能を用いると、様々な産業用デバイスと接続が可能になることから、製造ラインのセットアップ、製造プロセス、サイクル時間を収集したデータを基に追跡、監視できます。
これにより製造ライン中の品質向上に向けたボトルネックを明らかにし、無駄ややり直し作業を削減、品質向上を実現できます。また、製品の稼働中に発生した不具合についてもデータとして収集し、不備な設計があれば即時に次世代の製品に反映するなど、データから原因を特定し速やかに是正することで品質向上につなげられます。
コストの削減
収集されたデータを解析することにより、様々な面でコスト削減に貢献できます。生産ラインの不具合箇所の迅速な特定による初回修理率の向上、ボトルネックの「見える化」と対策による生産性の向上、スクラップの削減、設備の稼働状況の「見える化」と対策によるエネルギーコストの削減、製品の保守、保全中の速やかな不具合原因の特定など、IoTデバイスからのデータから得られるメリットは多岐に渡ります。
ビジネスを変革するThingWorxの活用事例
それでは、「ThingWorx」がどのように使用されているか、活用事例を見ていきましょう。
ELEKTA(医療機器メーカー)
ELEKTAは放射線治療の医療機器や昇降機、建機を製造するスウェーデンの医療機器メーカーです。近年大規模な医療機器はハードウェアによる制御は減少しており、ソフトウェアによる制御が多くを締めています。このため、機器に不具合が発生した場合もソフトウェアによる状況確認や対応ができ、「ThingWorx」のプラットフォームを利用することでリモートでのメンテナンスも可能です。不具合発生時はリモートで原因分析も済ませた上で、現地で修理ができ、現地滞在時間も短縮できます。
田端電機株式会社
田淵電機は大阪の電源機器、変圧器などを開発、製造している電気メーカーです。太陽光発電事業に力を入れており、NTTドコモのデータ通信回線と「ThingWorx」のサービスを組み合わせ、遠隔地にある太陽光発電設備の発電状況や不具合を、スマートフォンなどを使用して常時確認できるサービスを開始しました。太陽電池発電所のオーナー、発電事業者、発電機器メーカーなど様々なステークホルダーがこのサービスを介して滞りなく状況を把握できます。
株式会社堀場製作所
大病病院や検査センターなど大型の施設では多数の検体検査機器が稼働しています。最近は専用通信回線などを使用して、機器の稼働状況を遠隔で監視するシステムが普及しています。その反面、開業医などに設置されている小型の検査装置については遠隔監視するシステム導入が遅れています。
自動車、エネルギー、食品など様々な分野の分析、計測機器を世界各国に提供している京都の堀場製作所は、小型自動血球数測定装置をNTTドコモの通信回線と「ThingWorx」を組み合わせ、検査機のメンテナンスを行うフクダ電子と共に、小型検査装置のメンテナンスプログラムを提供しました。これにより、定期検査では対応できなかった不具合の事前予測と予知保全により、検査機の計画的な管理ができます。
株式会社日立製作所
がん治療に用いられる陽子線治療システムを提供する日本の日立製作所は、陽子線治療システム「PROBEAT-V」で「ThingWorx」を採用しています。陽子線治療に用いられる機材は必然的に巨大なものとなり、もはや機材と呼ぶよりも建物という呼び方が適切かもしれません。当然システムに用いられる機材、部品は膨大な数に及び、保守保全を行うことは容易なことではありません。
日立製作所では「PROBEAT-V」でIoTによる監視を行うこともあり、米国MDアンダーソンがんセンターにおいて1日16時間以上の治療を実施する中、稼働率98%以上を維持できています。
DHL
世界最大の国際輸送物流会社であるドイツのDHLでは、都市部の配送効率化を目指し「ThingWorx」を導入しています。DHLで自社開発している電気自動車がどこでどう動いているかという監視を「ThingWorx」を用いて行っています。「ThingWorx」はIoTプラットフォームとしてだけでなく、PTCが得意とする3D CAD設計、解析やCADデータの管理まで含まれているため、収集したデータを基に電気自動車を使いやすく設計変更するなど、これまで考えられなかった可能性が秘められています。
まとめ
「ThingWorx」で、収集されたビッグデータを解析し既存技術と連携することで、飛躍的な生産性向上や製品の品質向上、コスト削減が実現できます。また、これまで不可能だった製品・サービスが誕生する可能性もあります。今後、データドリブン経営を実施していくためには、自社の課題解決に合わせた適切なIoTデバイスやプラットフォーム選定が重要なポイントといえるでしょう。