政府が打ち出している働き方改革は、医療業界ではまだまだ本格化しているとは言えません。そんな医療従事者の長時間労働の問題を解消するために、近年注目されているのが「コミュニケーションロボット」です。コミュニケーションロボットの概要やその特徴から、医療現場の業務効率化・サービス向上にどう活用できるかまで解説します。
コミュニケーションロボットとは何?
コミュニケーションロボットとは、単に決められたアルゴリズムに従って働くだけでなく、人間の言葉を認識したり話したりもできるロボットのことです。音声認識などのテクノロジーの発展を背景に、日常生活にも広がりつつあります。少子高齢化が進むなか、あらゆる産業で人手不足という課題が浮き彫りとなっており、ミスがなくスピーディーに作業を行えるロボットの活用が広がっているのです。
コミュニケーションロボットの機能
まず、音声認識機能が備わっているのが大きな特徴です。そのためタッチパネルによる簡単な操作だけでなく、音声による対話でも実行したい機能を即座に起動できます。この特徴はいわゆる「スマートスピーカー」に近いイメージです。また、従来は企業の受付などでの利用を想定したコミュニケーションロボットが多かったのですが、最近は日常生活空間での利用を前提としたサイズ感で、安全性も備わったコミュニケーションロボットが増加しています。
コミュニケーションロボットは、特に高齢者の心や身体を活性化させ、健康寿命を引き延ばすための活用、いわゆる「介護予防」への効果において注目されています。さらに最近では、音声だけでなく画像を認識する機能も備わってきています。そのため人物を特定し、その人に応じたカスタマイズも可能です。あるいは、子どもや高齢者の「見守り支援」としても機能します。学習機能が備わっているため、ロボットの機能をその人物に最適化させられます。これらの便利な機能を駆使し、通信機能も掛け合わせることにより、外部サービスとの連携も可能です。
医療分野におけるコミュニケーションロボットの現状
では、こうした機能や特徴が、医療分野においてはどのように活用されているのでしょうか。
まず外部環境として、政府主導の「働き方改革」が世間的に推進されています。あらゆる業界で、残業を含む労働時間の短縮や、時間・場所にとらわれない勤務体制など、柔軟な働き方による生産性の向上が奨励されています。
しかし、医療分野においてはそもそも人手が著しく不足しており、構造的に長時間労働をせざるを得ないのが現状です。そのため、業務を効率化するツールの導入などを進め、できるところから着手しています。そのなかで注目されているもののひとつが、コミュニケーションロボットの活用です。
たとえば、初診患者の受付や必要書類の準備などをコミュニケーションロボットが行えるようにします。これにより、患者は待ち時間が短縮され、医療側は人手不足の改善につなげられます。
あるいは、長期患者の孤独感を緩和するためにコミュニケーションロボットを活用することで、患者のQOLの向上とスタッフの負担軽減にも効果的です。加えて、患者側が医師に直接質問しにくいことでもロボットになら聞ける、また病院側も直接患者に伝えにくいことをロボットを介して伝えるといった形で、トラブルの未然防止や円滑なコミュニケーションにも効果が期待できます。
病院側の負担軽減だけでなく、患者側のメリットにも視点を向けると、コミュニケーションロボットを有効活用ができるヒントがさらに見つかるでしょう。
【医療革命】コミュニケーションロボットの導入事例
病院ごとに環境は異なりますが、実際に医療現場で活用されているコミュニケーションロボットについて、参考になる事例をいくつか解説します。
高齢者福祉施設でレクリエーション
まずは、高齢者福祉施設におけるレクリエーション活用の事例です。コミュニケーションロボット「パルロ」は、特に会話が得意なロボットです。機械的なやりとりではなく、きちんと相手の目を見て話し、頷いたり愛嬌のある回答で笑わせたり。施設の利用者との話題を広げるトークで、利用者の笑顔を引き出します。パルロと利用者間のみならず、パルロを媒介とした利用者同士のコミュニケーションも増え、利用者の心の充実度が高まります。
レクリエーションにおいては、パルロが利用者と一緒に踊ったり歌ったりして場の空気を盛り上げます。インターネットとも接続されているため、今話題になっているトピックでクイズ大会をしたり、体操をしたりと楽しめる幅も広くなっています。また、施設の入り口に立って、利用者やそのご家族にも挨拶をしたり、お見送りをしたりすることも可能です。施設側も、広報宣伝活動に効果的に活用しています。
この事例では、高齢者福祉施設の利用者には「笑顔」や「癒し」を提供し、一方で施設のスタッフの負担も減らせています。
病院などで説明業務を支援
病院における労働時間短縮に向けて、ひとつの取り組みとして「タスクシフティング」という業務移管が有効とされ、これを推進する動きがあります。具体的には、医師事務作業補助者の拡充や看護補助者の活用などの推進、人工知能をはじめとした先端技術の活用です。その一環として、国立国際医療研究センターと日立製作所が共同で。コミュニケーションロボット「EMIEW(エミュー)3」を活用し、評価研究を開始しました。
具体的には、入院する際、エミューに説明業務支援を行ってもらうことで、医療従事者の負担軽減効果がどのぐらいあるのか、という研究です。
たとえば、国立国際医療研究センターへの入院の説明を、医療従事者によるもの、EMIEW3によるものでそれぞれ患者50名に対して比較し、ロボットによる効果を検証しています。効率性や負担だけでなく、ロボットによる対応への満足度も同時に測定し、患者が受け入れられるレベルを担保しながら、ロボットによって代替できるか、その実現性を評価する取り組みです。
同じような説明を行うのであれば、人間よりロボットが担えた方が効率的です。患者にとって問題ないレベルで対応でき、この事例により説明業務をロボットが代用できることがわかれば、スタッフの業務負担が軽減され、労働時間短縮に大きく寄与するでしょう。
新型コロナ感染症対策・医療従事者の感染を防ぐ
2020年に感染が拡大し、世界中に多大な影響を及ぼしている新型コロナウィルスに対する取り組みも始まっています。医療従事者への感染を防ぐ、遠隔操作ができるロボット「オムニロボ」の活用です。
「オムニロボ」は、ISO総合研究所が提供するテレプレゼンスロボット(分身ロボットまたはアバターロボット)で、医療従事者向けに無償で提供しています。新型コロナウィルスの感染拡大を受け、本体のみならず、メンテナンスコストも無償提供です。
オムニロボには、遠隔操作技術やビデオ会議といった機能が組み込まれています。これにより、場所を問わず、遠隔でPCやスマートフォンなどのデバイスからブラウザ上で操作ができます。これらの機能によって、オムニロボは病棟の感染症の患者を非接触で巡回できるのです。医療従事者は感染リスクを抑えながら、同時に巡回や患者とのコミュニケーションを取ることができるようになります。単なる「監視カメラ」ではなく、各患者の状態をしっかりと把握し、遠隔でもコミュニケーションを図ることが可能であるため、利用者の不安も軽減できるでしょう。
まとめ
医療分野は、人手不足などから働き方改革の推進が遅れているのが現状です。コミュニケーションロボットの活用は、医療従事者の業務負担軽減や効率化に繋がるでしょう。また正確で迅速な事務処理や円滑なコミュニケーション支援により、患者の満足度向上も期待できます。今後は、他システムとの連携などでさらに活用の幅が広がるはずです。