東京オリンピックに向けた建築・再開発ラッシュや、インバウンドによる経済の好調を受け、右肩上がりだった不動産業界も転機を迎えようとしています。新型コロナウイルスの問題もありビルの空室が目立つようになった中、ディベロッパーが次に目指すべきなのはどのようなことなのでしょうか。
ディベロッパー業界の動向
ディベロッパー業界は時代の影響を大きく受けます。現在の社会の状況も含めながら、業界動向について考えていきます。
東京オリンピックの開催
リーマンショック後、ディベロッパー業界も不況となり2009年には住宅着工戸数が底となるような状況がありましたが、以降はゆるやかに復活し、2012年以降は右肩上がりとなってきました。
好調の原因はいくつかありますが、一つに東京オリンピックに関連する建築ラッシュが挙げられます。施設の建設や、世界中からさまざまなゲストを迎えるためのホテル施設などの建設、インフラ整備なども行われてきました。
また、世界的なダイバーシティの流れの中で、国や自治体でも施設や店舗、住宅のユニバーサル化を後押ししています。そのため各地でリフォームや新たな建設も進められています。
さらに、旅行業界においてもインバウンドの好調が長く続きましたが、海外からの訪問客をターゲットとしたリゾート開発や、海外からの投資による開発も多くなっています。
国外開発の活性化
国内の建築ラッシュが続く一方で、海外への進出も盛んに行われています。人口が頭打ちで経済も成熟している日本に対し、海外にはまだまだ伸び盛りの国・地域が多く、インフラの整備やビル建築などが盛んに行われています。その中で、日本型不動産サービスおよび建築の技術は高く評価されています。
アジア、オセアニア、欧州、米国、インドネシア、中国などの総合ディベロッパーによって、国外開発が活発に行われ、今後もその状況が続くと考えられます。
ディベロッパー業界が抱える課題
ここまでは不動産業界の好調の理由を挙げてきました。しかし、今後は状況が変わるという懸念もあり、問題点も多く指摘されています。
オフィスビルの過剰供給
これまで多くのオフィスビルが建設されてきましたが、それらのビルの空室が目立ち始めています。原因としてオフィスビルの過剰供給が挙げられます。また、国が推進する「働き方改革」の影響もあり、オフィスのあり方が変わり始めていることが考えられます。
というのも、従来の通勤型から今後は在宅勤務のテレワーク(リモートワーク)が主流になると考えられるため、大きなオフィスを必要としない企業が増える可能性があるからです。
テレワークはIT機器を使用し、遠隔地(自宅、外出先、貸しオフィスなど)で作業を行うというものです。ネット回線の普及により自宅も立派なオフィスとなり、在宅勤務を行う人が増えています。そのため、在宅勤務が可能な企業は経費削減という目的で、オフィスの縮小を検討するようになりました。なかには新型コロナウイルスの影響による業績悪化で、早くもオフィスを手放すという会社が出てきています。
また、小売業においてもEC(Electronic Commerce=電子商取引)化により、店舗を持たない販売形式が増えています。ECにおいては実店舗をもたず在庫を置くスペースがあれば営業ができるため、結果として貸店舗などのテナントが埋まらないという状況が生まれています。
新型コロナウイルスの影響
ところで、猛威を振るっている新型コロナウイルスの影響はディベロッパー業界にあるのでしょうか。
まず、上記のようなテレワークの流れが当初の目論見よりも早く促進される可能性があります。感染症の蔓延や災害などにより社員の通勤が困難になった場合にも、テレワークなら業務を止めることなく利益を生み出すことが可能だからです。
また、家賃に関しての見直しも求められています。新型コロナウイルスの影響で業績が例年を大きく下回っている企業や店舗が多く、家賃を通常通りに支払うことが難しいという声も挙がっているからです。2020年3月31日には国土交通省よりディベロッパーも含む不動産関連業界に対して、賃料の支払いが困難なテナントについては柔軟な措置を検討してほしいとの要請がありました。これはあくまでも「お願い」のレベルの話ですが、各企業や商店の現状の厳しさを示しており、新型コロナウイルスの流行が続くほどに難しい対応に迫られることになります。
新型コロナウイルスの影響を受けた東京オリンピックの延期については、その分、不動産価格の上昇や建築ラッシュが長引くという見通しもあります。ただし、東京オリンピック終了後の動きは不透明であり注意が必要です。
国内外で異なる不動産ニーズへの対応
以上のような状況もあり、不動産業界では次の手を考えることが急務です。
例えば、少子高齢化を見据えた新しいスタイルの住宅として、介護サービスや高齢者向け住宅の開発事業に注力するディベロッパーも出てきました。よりレベルの高いユニバーサルデザインや、物件のスマート化などを行うなど、明確なターゲットを定めた建物の価値づくりに活路を見出すという方向性も、今後は重要となってくるかもしれません。
また、海外進出の流れもより促進されていくと見られています。とくに人口増加や都市化が進むベトナム、インドネシア、インド、フィリピン、カンボジアなどアジア諸国への進出の動きが加速しています。それらの国・地域では都市開発において、日本企業の活躍の場が多くあると考えられます。
マイクロソフトによる「施設に関わる人」中心のイノベーション
マイクロソフトは、2019年10月30日にスマートビルディング化をすることで、新しいビル空間の価値を創造しようとする「Smart Buildings & Spaces」の説明会を行いました。
この取り組みはマイクロソフトが実装サンプルやリファレンスアーキテクチャーを提供し、ビル管理のデータとサービスを連携させようという取り組みです。従来、ディベロッパーはファシリティを中心にビルの施工と引き渡し、テナント管理、建物の保守業務を行ってきました。これからのディベロッパーは「人」中心にシフトし、施設に関わる人のニーズに迅速かつ柔軟に応えることが重要だと位置付けています。
リモートワークなどによりオフィスの役割が変わりつつあります。ビルの空き部屋も増えるなか、人が本当に快適に使えるビルを造り上げ、物件に付加価値を付けることも今後の重要な課題と言えるでしょう。
まとめ
2012年以降、建設・不動産業界は好調を維持してきました。しかし新型コロナウイルスの影響による社会状況の変化もあり、国内の不動産業界においても、海外進出の強化やITを利用した新しいオフィスビルの構築、人にやさしいビル管理の方法など、「人」のニーズに敏感に対応できる不動産へと方向転換が求められていくでしょう。