自宅をスマートホーム化する人が増加しつつある中、ビルや商業施設を丸ごとスマート化した、「スマートビル」の開発も世界中で進んでいます。しかし、スマートビルはどのようなシステムに支えられ、またどのようなメリットがあるのかをよく知らない方も多いでしょう。そこで本記事では、スマートビルのシステムやメリットを徹底解説します。
スマートビルとは
「スマートビル」とは、IoTセンサーを各設備機器に設置し、それぞれを相互連携させて最適な管理を行う建築物のことです。「IoT(Internet of Things)」とは、モノにインターネットへの接続機能を搭載する技術です。このIoTネットワークを通して、ビル管理者は照明や空調の管理、オフィスで働く人々の行動データの収集や労務管理などを実施できます。
スマートビルでは、IoTのほかにもAI(人工知能)や自律型ロボットをはじめとする、最先端のICT技術が活用されている場合も多く、まさに未来のICT社会を先取りした空間と言えます。
スマートビルにおける管理システム「BEMS」
ICTセンサーが取得・送信したデータを取りまとめ、ビルのエネルギー管理の最適化を実現するシステムが「BEMS(Building Energy Management)」です。BEMSは、スマートビル内のすべてのエネルギー消費状況を可視化・制御・予測できるシステムです。
これによって、ビル管理者はビルのエネルギー使用量を正確に理解し、その状況を制御したり改善したりするために必要な情報を取得できます。つまり、高度に制御されたスマートビルは、必要なところに必要なだけのエネルギー共有を実施することが可能で、コスト削減や環境保護にも役立つのです。
スマートビルのメリット
スマートビルのメリットとしては、主に以下が挙げられます。
データ収集ができる
スマートビルでは、IoTセンサーを24時間365日フル稼働することで、これまで感覚的にしか把握してこなかったことや、人間が目視で確認しなければならなかったデータを詳細に自動収集し、施設の利用率や稼働状況などを可視化できます。一例としては、「ビル内の酸素・二酸化炭素濃度」や「トイレなど共有スペースの空き状況」などについて、視覚的に把握可能となります。
従業員のニーズを満たせる
ビルのスマート化によって、従業員のさまざまなニーズを満たすことも期待できます。例えば、収集したデータを基に、ビル内の利用率が低い座席などを可視化することで、オフィススペースの効率的運用を考える際の役に立ちます。また、自動で室温や照明の明度を調節できるなど、スマート化は従業員が働きやすい環境づくりにも、大いに寄与してくれるでしょう。
コスト削減につながる
オフィスのスマートビル化は、コスト削減効果も期待できます。IoTセンサーは、室内に入る自然光なども反映したうえで照度を調整するなどして、ビル内のエネルギー管理の最適化を図れます。これによって無駄なエネルギー消費を避け、コスト削減を実現していけるのです。
業務効率化が期待できる
スマートビルでは、業務効率化も期待できます。例えば、顔認証で従業員の出退勤の記録を取れれば、わざわざタイムレコーダーを使ったり、勤怠システムに自ら入力したりする手間を省くことが可能です。
また、オフィスのどこで誰が働いているのかを可視化できれば、わざわざメールで確認したり、オフィスを歩き回って探したりすることなく、目的の人とスムーズに会って打ち合わせなどを行えます。このように、IoT管理によってオフィス内の情報が可視化されることで、情報伝達に関わる従業員のストレスが軽減され、快適に過ごせるようになります。
スマートビルに用いられるシステムとは
スマートビルでは、施設の利用や管理の利便性・効率性を上げるために、さまざまなシステムが活用されます。以下では、その代表的な事例を紹介していきます。
非接触スイッチ
「非接触スイッチ」とはその名の通り、手を近づけると反応するスイッチのことです。例えば、照明と空調のON/OFFを一括で切り替えたり、部屋の使用状況をサーバーに送信したりできます。
スマートフォンでの設備操作
スマートビルでは、スマートフォンを使って設備を操作することも可能です。例えば、照明・空調の操作やエレベーターの呼び出しなどを、スマートフォンを通して行えるので、従業員の利便性向上が見込めます。
トイレの空き状況表示
スマートビルでは施設の利用状況を可視化できるので、「どこのトイレが使えるか」空き状況を表示することも可能です。スマートフォンやタブレットからトイレの空き状況をリアルタイムで確認できるため、「勤務中に席を外したところ、トイレが満室で入れなかった」といった無駄足を踏む必要がなくなります。
酸素濃度を管理
IoTセンサーを活用することで、ビル内の酸素濃度を管理することも可能です。適正値を超えたら自動で空調を操作し換気してくれるので、業務環境の快適性や安全性を保持できます。
会議室の予約・状況管理
スマートビルでは、会議室の予約や利用・予約状況の管理をシステム上で行うことが可能です。会議室の利用データはシステム上に保存・蓄積されていくので、もし問題があれば会議室を増やしたり、会議室の利用ルールを見直したりする際の役に立ちます。
スマートビルの事例
ICTの活用が世界的に進む中、スマートビルは現在も続々と増えつつあります。以下では、その代表例として2つのスマートビルを紹介します。
渋谷ソラスタ|四季を感じられるスマートビルディング
「渋谷ソラスタ」は、東急不動産株式会社が2019年に竣工したスマートビルです。同ビルには、入居する企業と従業員の快適性および利便性の向上に貢献するために、株式会社MyCityと東急不動産の共創によって開発された IoT サービスが導入されています。
このIoTサービスには、PCだけでなくスマートフォンからも接続可能で、空調などの制御ができるほか、建物内のさまざまな共用スペースの混雑状況を確認したり、一人ひとりの位置情報を把握したりできます。さらに、同ビルには屋上庭園をはじめ、各所に植物が設置されており、利用者が心地よく過ごせるように計算されているのも特徴です。
このように渋谷ソラスタは、スマートビル化によって従業員の業務効率や生産性の向上、コミュニケーションの活性化などを目指しています。
The Edge/オランダ|スケジュールから室内環境までIoTで管理
「The Edge」は、オランダのアムステルダムにあるスマートオフィスで、コンサルティング会社のDeloitteが所有しています。同ビルはIoTをフル活用することで、コーヒーメーカーが全員の味の好みを記録しているほど、各従業員に個別最適化された労働環境の提供を可能にしています。
The Edgeのシステムにはスマートフォンでアクセスでき、フリーアドレス制のオフィスの各所には充電スペースが設置されています。そして従業員はスマートフォンアプリを通して、同僚の居場所を探したり、空調や照明を操作したりすることが可能です。
またThe Edgeは、自然に優しいビルとしても有名です。The Edgeではソーラーパネルを設置して太陽光発電を行っているほか、雨水をトイレの水に活用するなど、再生可能エネルギーを積極的に利用しています。実際、英国の格付け機関「BREEAM」は、The Edgeを「世界でもっとも環境に優しいビル」と評価し、98.4%という史上最高のサステナビリティ・スコアを与えました。
まとめ
スマートビルとは、IoTセンサーによってビル内のさまざまな情報を収集・可視化し、ビル管理者や利用者の効率性や快適性を高めた最先端のビルです。BEMSなどのシステムでエネルギーを管理することで、省エネを実現し、コスト削減にも役立ちます。ICTの活用が進む中、スマートビルは今後ますます増加していくことが予想されます。