昨今の小売業界では、深刻な人材不足から店舗運営が困難になるなどの問題が発生しています。そんな人材不足を解消する対策として、各企業で導入が進んでいるのがセルフレジです。本記事では小売業の人材不足の現状や原因、その問題解決に期待が集まるセルフレジについて解説します。
小売業の人材が不足している理由
近年、各業界で深刻な人材不足が起こっており、2018年度においては有効求人倍率が上昇し失業率も低下しているという現状があります。小売業においても人手不足はかなり深刻な状態が続いており、現場で働く従業員達の負担が増え、就労環境の悪化にも繋がっています。
人手不足に対する企業の動向調査結果
農林水産省が2018年2月に「働く人も企業もいきいき食品産業の働き方改革検討会」で発表した情報によると、全産業の欠員率が2.5%なのに対して、小売業の欠員率は2.9%と、0.4ポイントも上回っています。ここ10年で最も欠員率が低かった2009年に比べると、実に5倍近くも上昇しているのです。特に、小売業の中でも「営業・販売部門」は、人手が足りていないと訴える声が多く上がっています。また「営業・販売部門」では、人の手を使って行う業務が多いことから、作業の機械化など迅速な対策が求められています。
人材不足が続く理由
日本全体として人手不足が続いている要因は、人口の減少が大きく関わっています。しかし、小売業で人材不足が続く背景には、人口の減少以外にもいくつかの要素が関わっているため、他の業界よりも人手不足解決がいっそう困難になっているのです。その要因の一つが、小売業は他の業界に比べて正規社員が少なく、多くの非正規雇用社員によって成り立っているという現状にあります。
企業全体の約50%以上が正規社員不足に悩まされている昨今では、即戦力となる有能な人材を獲得できる企業は限られています。多少の経験不足・スキル不足な人材でも、正規社員として雇用される可能性が高くなっているのです。今まで非正規社員に甘んじてきた人材が正規雇用に流れてしまい、非正規雇用が必要とされている小売業の人手不足に拍車がかかっているのです。
また、小売業の就労環境においても、人手不足に繋がる要因があります。それは労働時間が長く、休暇が少ないということです。所定の労働時間の月平均が、全産業の平均では164時間なのに対して、飲食料品小売業は171時間と、7時間も差が付いています。土日祝日が休みの企業も多い中、スーパー・コンビニ・ドラックストア・アパレルショップなどの店舗勤務の場合、年中無休という店舗も多く、労働時間に差が出てしまうのです。
休暇の日数を比べてみても、全産業の年間休日数が108.0日なのに対して、小売業は100.7日と、約7日間も差が出ており、休暇を取りづらい環境であることがわかります。近年では、残業を減らして有給休暇は極力消費するように働きかける企業が増えてきていますが、小売業界はそうした世情に逆行する環境となっています。このような厳しい就労環境が原因となり、ますます小売業での就労希望者が減っているのです。
セルフレジの利用状況
そんな深刻な人手不足が問題になっている小売業で、注目を集めているのがセルフレジです。近年ではコンビニやスーパーをはじめ、レンタルショップやアパレルショップなどでも導入が進んでいます。
2018年に「一般社団法人 全国スーパーマーケット協会」が国内にスーパーマーケットを保有する企業に対して実施したアンケート調査では、全267社のうち54.6%(「一部店舗で設置」と「ほぼ全店舗に設置」の合計割合)が、セルフレジを設置していると回答しました。保有店舗数が51店舗以上の企業においては、実に78.8%の企業がセルフレジを導入しています。特に、利用客数が多い大型中心店舗を展開している企業は、セルフレジ導入率が高い傾向にあります。
セルフレジの特徴
そもそもセルフレジとは、商品を購入する客が自分自身で商品のスキャン・会計・袋詰めを行うレジのことをいいます。また、セルフレジと似たシステムに「セミセルフレジ」というものがあります。セミセルフレジとは、商品のレジ打ちは店員が行い、会計と袋詰めは客が行うレジのことをいいます。セミセルフレジのメリットとしては、レジ打ちの際に客と直接接することができるので、客の要望などを直接聞き取る機会があるということです。
セルフレジ・セミセルフレジ共に人件費の削減効果があり、導入する企業が年々増えています。ただし、導入直後はセルフレジに慣れていない客へのレクチャーが必要となるため、レジ周辺に従業員が常駐することになります。人件費削減を実感できるようになるまでには、少なからず時間がかかるでしょう。
セルフレジの使い方
セルフレジの利用方法は、レジの仕様によって若干異なりますが、一般的には下記の流れになります。
- 購入する商品をスキャンエリアにかざして、バーコードを読み取ります。
- 購入する商品のバーコードの読み取りが完了したら、スキャン忘れの商品がないか確認します。
- 支払い方法を選択します。
- 現金払いの場合は、投入口から現金を投入します。クレジットカード払いの場合は、カードリーダーにクレジットカードを通します。電子マネーの場合は、指定の箇所に電子マネーのカードまたは端末をかざします。
- レシートを回収し、袋詰めに必要な袋や箸・スプーンなどを必要数自分で取ります。
お店によっては、全ての商品を所定の位置に置くだけで、自動的にバーコードが読み取るレジもあります。初めてのお店でセルフレジを利用する際には、手順をよく確認してから利用するようにしましょう。
小売業にセルフレジを導入するメリット
さまざまな小売業の店舗で目にするようになったセルフレジですが、企業側にとって人件費削減が期待できることはもちろん、消費者側にとっても複数のメリットがあります。小売業者側のメリット
1.人件費削減
レジ打ち・会計・袋詰めを全て客自身で行うことにより、従業員の負担を減らすことができるため、人件費の削減につながります。それと同時に、人材不足への対策としても大きな効果が期待できます。
2.衛生対策
従業員が直接金銭に触れないため、衛生面に配慮した接客が可能となります。特に食料品などを取り扱っている店舗では、衛生面が重視されるので、セルフレジは歓迎されるシステムです。
3.金銭管理の強化
従業員が受け取った金銭をPOSレジに入れ、お釣りをレジから取り出す際、お釣りの渡し間違えなどのミスが発生するリスクがあります。セルフレジであれば、そういったミスを回避することが可能です。
こういったメリットがある反面、セルフレジの導入をする場合は、万引きなどの犯罪対策も必要になってきます。具体的には防犯カメラの設置や、万引きを監視するスタッフの配置などです。また、セルフレジ導入直後は、セルフレジの利用方法がわからない客が多いため、利用手順をレクチャーする従業員の配置が必要です。操作中に札詰まりなどのトラブルが起こった場合、対応力も求められます。ご年配の方やレジ操作に抵抗がある方への配慮として、セルフレジ導入時に有人レジもある程度残している企業が多いです。
消費者側のメリット
1.会計の待ち時間の短縮
セルフレジの場合、それぞれのレジに従業員が常駐する必要性がないため、時間帯によって稼働しているレジが変動することがありません。そのため、レジの待ち時間短縮の効果が期待できます。
2.買ったものを他人に見られない
セルフレジの場合、レジ打ちを自分で行うため、店員と接することなく買い物ができます。買ったものを店員や他の客に見られたくないという方も、安心して買い物をすることができます。
会計の待ち時間短縮に関しては、セルフレジの操作経験がない場合、有人レジよりも時間がかかってしまう可能性もあります。会計をスムーズに行うためには、事前にセルフレジの利用手順を把握しておくことが得策でしょう。
人材不足でも生産性を高めるセルフレジの可能性
人材不足が問題となっている小売業では、人材不足解消のために、セルフレジを導入して生産性を高め、省人化を進めるさまざまな試みが行われています。たとえば駅中にあるコンビニでは、電子マネーやクレジットカードなど、キャッシュレス専用のセルフレジのみが設置された店舗運営が行われています。交通系ICカードへのチャージもすぐ近くでできるようになっているので、カード残高が少なくても安心して利用できます。
現時点では、セルフレジの利用方法のレクチャーが必要な客も多いため、店舗に2~3名の従業員が常駐している状態ですが、セルフレジの利用方法が浸透してくれば、品出しや清掃をする従業員1名体制で運営することも可能になるでしょう。
また、セルフレジは書店でも導入が進んでいます。ICカード専用のセルフレジが設置されている駅中の店舗もあります。駅では出発時間が迫っている場合もあり、時間に制約があることが多いため、セルフレジが買い物の時間短縮に大きく貢献しています。
例えば駅中の店舗ではレジが並んでいることも多く、待ち時間がストレスに感じる方も多いかもしれませんが、セルフレジであればそんなストレスを感じることなく書籍を購入することができます。ブックカバーや袋もレジ付近に用意されているので、有人レジを利用するのとサービスのレベルはほとんど変わりません。時間がないという理由で、ネット配送で書籍を購入する、または電子書籍を購入する方が増えていますが、セルフレジが置かれることで、時間がない方でも電車移動のついでに書店に立ち寄りやすくなります。
今後は、ご紹介した業界以外でもセルフレジ導入が進んでくる可能性があります。子供からご年配の方まで、当たり前のようにセルフレジを利用する時代が始まろうとしています。
まとめ
小売業の人材不足の救世主となる可能性を持つセルフレジは、企業側のメリットだけではなく、消費者側としてもメリットがあります。近年では、セルフレジのみの店舗も登場しているため、セルフレジが有人レジの数を上回る日もそう遠くないかもしれません。