新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、さまざまな業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが進んでいます。リテール業界においても環境の変化への対応が重要で、DXが求められます。そこで本記事では、リテール業界におけるDX成功のポイントについて解説するとともに、DXの事例をご紹介します。
リテール業界のDXを成功させるポイント
近年、日本では経済産業省の主導のもと、さまざまな業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが推進されています。
今後、企業が競争力を高め、国全体の経済力を向上させるためには、DXが欠かせないといわれています。これは、リテール業界でも同じことがいえます。競合他社よりもいち早くDXに着手し、成功させることで業界を牽引する存在となり、他社を一歩リードできるようになるのです。
しかしながら、問題は「どうやってDXを成功させるのか」という点に尽きます。他業界の企業でもいえることですが、DXに取り組んだからといって、必ずしも生産性の向上などの成果が出るわけではありません。では、リテール業界におけるDXを成功させるためには、一体どのような点に着目すればよいのでしょうか。
ニューノーマル時代の最高のおもてなし
従来では「O2O(Online to Offline)」が注目を集めていました。これはオンラインとオフラインを切り分け、ユーザー体験に関しては独立した状態にあるマーケティング施策のことです。
しかし、これからの時代は「OMO(Online Merges with Offline)」の考え方が重要になるといわれています。これはオンラインとオフラインを別個に捉えるのではなく、それらの境界線をなくした一連のサービス提供によって、顧客体験(CX)の向上を目指すことを意味します。
OMOが注目されている背景としては、スマートフォンの利用者が以前と比べて劇的に増加していることが関係しています。スマートフォンのように持ち歩ける通信デバイスが普及したことで、オフラインとオンラインが融合した体験を提供しやすくなったわけです。
今後は「店頭なら店頭での購入」「通販なら通販で完結」と捉えるのではなく、「ネットで予約したものを店頭で受け取る」「実店舗に入店することでクーポンが取得できるようにする」「店頭で試着した商品をオンライン上で購入しやすくする」といった施策が重要になってきます。
こうした新たなおもてなしを提供することは、競争の優位に立つという観点のみならず、機会損失を生まないためにも重要なことです。実際、店舗で商品を見て、その後ネットで購入するというケースも増えてきています。ただよい商品を展示するのではなく、ネット上での決済にまで繋がる流れを設けていないと、他店に売り上げを取られてしまうおそれがあるのです。
ビジネス成長を加速させる最新アーキテクチャ
OMOにより連続性のある顧客体験を提供するには、各チャネルのデータがリアルタイムかつ一元的に管理されていなければなりません。そのため、従来のように販売管理とECサイトのシステムを個別に管理していたのでは不十分です。各種チャネルのアプリをAPIで繋ぐことが、OMOの実現には欠かせません。API経由であらゆるシステムからデータを一元化し、情報を流動的に活用できることが大事です。
そのためにはスマートフォン向けアプリやECサイト、店舗管理に使うシステム、分析システムなどをAPI連携し、オンラインからオフラインまでを融合させる必要があります。
変化に素早く対応できるシステム開発の要素
今後求められるのは、激しい変化にも適合したサービス提供を維持することです。そこで、以下の事柄に着目したシステム開発に取り組むことが重要です。
- UI/UX:多様なアプリ・外部サービスとの連携で、スピード感のあるサービスの提供を実現する
- アーキテクチャ:前項の通り、各アプリをAPIで繋ぐアーキテクチャを採用して、変化に対し柔軟な対応力をつける
- クラウド:クラウドを活用して柔軟な拡張性を持ち、またPaaSを使ったローコード開発で開発スピードを高める
- 開発スタイル:従来のウォーターフォール開発から脱却し、アジャイル開発を実践する
従来の開発手法である「ウォーターフォール開発」とは、要件定義・設計・実装・テスト・運用といった各過程を、一方通行で段階的に進めていく手法のことです。
これに対し「アジャイル開発」は、機能単位で小さなサイクルを複数設け、何度も設計~開発~テストといった流れを繰り返す手法をいいます。1つのシステムを一気に開発していくのではなく、繰り返しテストを行うことで品質の向上が図れるほか、開発の俊敏性も高められます。開発過程で生じた変化にも対応しやすく、これからの開発手法として注目されています。
これからのリテール業界のDXの形とは
DX実現のためには、複数の業務アプリ・外部サービスとの連携を図り、スピード感をもったサービスの提供が大事です。また、従業員が自分たちのブランドに関して、よりよく伝えたいという気持ちを持っているかどうか、顧客のことをどれだけ考えているかといったことが、競争優位性にプラスの影響を及ぼします。
そこで、企業としてはこれを支援するため、従業員がやりがいを持てる仕事を提供しなくてはなりません。オペレーションにAIやIoTなどのテクノロジーを取り入れつつ、作業の自動化・効率化を図り、人手不足の問題を解消することも大切です。このように、従業員体験の質を向上させることが、その後の顧客体験向上にも繋がります。
現状と未来を念頭においたシナリオ設計が必須
DXに向けて企業が取り組むべき第一歩は、現状で一番困っていることとは何か、その課題を見つけることです。漠然とシステムやツールの導入に取り掛かるのでは、無駄な労力やコストを費やす結果になりかねません。
そこで、今まさに抱えている問題を取り上げ、どのようにしてそれが改善するとよいのか、シナリオ設計を構想してみましょう。さらには、将来的に業界でどのようなビジネスモデルの破壊が起こるかを想定し、自社が生き残るためにはどのような状態になっている必要があるのかを考えます。
リテール業界のDXの事例
自社で取り組むべきことや、目指すべきところをイメージするためにも、DXの事例に触れておきましょう。
事例1: 三越伊勢丹ホールディングス
「三越伊勢丹ホールディングス」では、自宅にいながらもアプリを使って販売員と繋がれるサービスを開始し、オンライン接客を実用化しました。これによりチャットでの接客が可能となり、チャット履歴が残ることで購入理由も明確化された結果、的確なおすすめ商品の情報を提供するなど、次回以降の接客の最適化が図れるようになりました。
実店舗やECサイトの購入データだけでは、顧客のリアルな声の把握は難しいという問題があったものの、このサービスを構築したことによってコミュニケーションの質の向上が実現しています。
事例2: ミニストップ
「ミニストップ」ではセルフレジユニットを開発し、販売の場を自社店舗外にも広げています。ユニット内部に商品を入れるとともに決済ができるデバイスをセットにして、小さなスペースでも販売ができる仕組みを構築しました。これをオフィスに設置すれば、お客様がふと食べたい・飲みたいと思ったとき、いつでも商品を購入できるようになります。
これは24時間利用可能で、当然ながらスタッフをその場に配備する必要もありません。1坪から設置できる利便性も話題となり、新たなコンビニとして注目されています。
まとめ
リテール業界・小売業全般のDXを成功させるには、時代に合った取り組みが欠かせません。特に、オンラインとオフラインの領域を融合させて、よりユーザーニーズに応えていくことが重要です。ビジネスの継続的な成長を目指す方は、FUJITSUが提唱する「リテール業界のDXを成功させるポイント」もご覧ください。