新しいトレンドとして持てはやされたO2Oのさらにその先を行くOMOという概念が注目され始めています。中国では一足先にOMOが浸透しており、日本でも徐々にOMOを意識したサービスが登場し始めています。この記事では、いまOMOが注目されている理由と具体的な事例について詳しく紹介します。
OMOとは?
「OMO(Online Merges with Offline)」とは「オンラインがオフラインと融合する。境目がなくなる」という意味で、顧客目線に立ってオンラインとオフラインを融合してより良い体験を提供していこうとするマーケティングの考え方を指しています。
この考え方を取り入れたサービスは2016年ごろから中国を中心に現れ始めていました。そして、中国のベンチャー投資家・李開復(リ・カイフ)氏が2017に英経済誌「The Economist」の年末特集号「2018世界はこうなる」に寄せたコラム「Meet OMO sapiens」で、この概念を「OMO」という言葉で定義して大いに注目を浴びたのです。
OMOが注目される背景には、私たちが日常生活のあらゆる場面でスマートフォンなどモバイル端末を利用するようになったことと密接な関係があります。買い物の支払いをスマホ決済で行ったり、店内にある商品の情報をスマホで閲覧したりすると私たちのあらゆる行動はデータ化されます。そのデータを集めてユーザーにひも付けることでユーザーの好みを理解し、効果的なコミュニケーションが可能になるのです。ユーザーの満足度を高める手段としてOMOが脚光を浴び始めているのはまさにこの点にあります。
O2Oとの違い
OMOと類似の言葉に「O2O(OtoO、Online to Offline)」や「オムニチャンネル(Omni-Channel Retailing)」があります。これらの間にはどのような違いがあるのでしょうか。
O2OはWebサイトなどのオンラインメディアで情報を提供してリアル店舗などのオフラインでの購買に誘導することを指した概念です。Webサイトやメールマガジンで配布したクーポンをリアル店舗で利用してもらう手法が代表的な例で、2010年代に入り新しいマーケティングの手法として提唱され普及しました。OMOは紙のチラシや屋外設置広告(OOH、Out Of Home)などのような従来型オフライン広告では集客が難しかった層にアプローチできる利点がありました。
しかし、O2Oではオンラインとオフラインを明確に分けて扱っており、オンとオフのデータを融合させるという考えはありませんでしたし、また、実店舗へユーザーを誘導する手段としての性格が強く、ユーザー側の視点に立ってよりよい体験を提供するといった観点は存在していませんでした。
オムニチャネルにも同様のことが言えます。オムニチャネルは店舗やカタログ販売、ECサイトなどなど複数の販売チャンネルを活用するマルチチャネルを一歩進めて、全ての(オムニ、Omni-)チャネルでユーザーと接点を持とうとする考え方です。ただし、オムニチャネルも購買行動を促すという企業目線に立った概念であり、ユーザー体験を中心に置くOMOとは根本的に思想が異なるといえます。
いま注目すべきは「オフラインの行動データ」
インターネットが普及し、スマホなどモバイル端末を中心に人々の生活が回るようになると、マーケティングの主流もモバイル端末を通したオンラインの世界に移行しました。O2Oが登場した時にも、商品ページの閲覧数などオフラインでは取得できないデータを取得できることが大きなメリットとして挙げられていました。
しかし、従来型のO2Oで扱えるデータはWebの閲覧履歴やSNSの情報などオンライン上で発生するデータが中心でした。これは、店舗での購買情報などオフラインのデータを既存のオンラインデータと紐づけることが当時の技術では難しかったという事情があります。
しかし、スマホの機能向上や各種センサーを備えた機器がインターネットにつながるIoT(モノのインターネット)の普及により、リアルな世界から取得したデータを手軽にオンラインに持ち込めるようになったのです。これによって、オフラインで取得したリアルな世界の行動データをオンラインデータと組み合わせて活用する動きが広がっています。
ネット×リアルの行動をもとに、新たな顧客体験の提供が可能に
ネットとリアルのデータを紐づけられるようになったことで、今までには想像できなかったような新しい体験をユーザーに提供することができるようになりました。
オフラインであるリアル店舗の情報とオンライン情報が融合したサービスの代表的な例が、Amazonが米国で展開している無人スーパーマーケット「Amazon Go」です。
Amazon Goに入る前に、専用アプリをダウンロードしてクレジットカード情報などを登録しておきます。店舗入り口ではアプリに自分のQRコードを表示してセンサーに読み取らせて入店します。店内では自由に商品を手に取って選び、購入したい商品を自分の持っているバッグに入れたらレジに並ばずにそのまま店を出ていくことができます。ユーザーが店を出た後にアプリが自動で決済を行い、レシート情報が送付されるという流れです。
Amazon Goの店内にはネットワークカメラがいたる所に設置されています。ユーザーが手に取ってバッグに入れたすべての商品の情報をこのカメラが取得して、アカウント情報とひも付け処理を行います。この仕組みにより、ユーザーはレジに並ぶ手間を省くことができますし、店舗側はユーザーの購買行動をより詳細に知ることができるのです。
オフライン行動データの活用事例
中国ではスマホによる決済やOMOが普及しています。ここではOMOで先行している中国の事例を紹介します。
アリババ集団が運営するスーパーマーケット「盒馬鮮生」
中国の大手Eコマース企業のアリババ集団が運営するスーパーマーケットに「盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)」があります。
もともとアリババは「ニューリテール(新小売)」という戦略を打ち出していました。これはスマホとデータを活用してオンラインとオフラインを融合させた新しい消費体験を提供するというものです。フーマーフレッシュはこのニューリテールを体現した複合型スーパーとして知られています。
フーマーで取り扱われる生鮮食品にはQRコードが付けられており、スマホで読み取ると産地などの詳しい情報を確認することができます。生鮮食品をオフラインで購入した場合はその場で調理してもらい飲食を楽しめるなどの特別な顧客体験を提供する試みもなされています。
決済にはすべてアリババが提供するQRコード決済のAlipay(アリペイ)が使われるので、店舗側は決済の履歴が収集できます。これらの商品情報提供や決済、配送など販売にかかわるすべてをアプリで完結させることで、ユーザーの行動データをもれなく取得することができるのです。このデータを元にして店舗ごとの需要を正確な予測を行い、産地直送の素材や近隣の農家から調達した野菜が物流基地から各店舗に届けられます。こうして店舗ごとの倉庫をなくすことで、高品質な食品を手頃な価格で販売することを可能にするなどしてより良い顧客体験を目指しています。
オンラインとオフラインを融合させたフーマーのありかたは、かつてオムニチャネルが国内で話題になり始めたころに代表例として取り上げられたイオン幕張店の取り組みとも似ています。イオン幕張店では店内に配置した専用タブレット端末で店頭にない在庫を注文して自宅に配送してもらう仕組みや、決済をWAONで支払える仕組みを提供していました。
内容だけ見ればフーマーフレッシュのサービスとイオン幕張店のサービスは似ていますが、イオン幕張店が店頭在庫とEC在庫の一元化、リアル店舗とECサイト上の顧客情報の統合などを目指していたのに対し、フーマーが目指しているのはユーザーにとってより良い体験を提供することで、両者は最終的な目的地が異なっています。これはOMOがオムニチャネルと決定的に異なっている点でもあります。
凸版印刷株式会社の電子チラシサービス「Shufoo!」
「Shufoo!(シュフー)」は、凸版印刷のグループ会社「ONE COMPATH」が運営する電子チラシサービスです。もともとは紙のチラシを補完するデジタルチラシの閲覧サービスとしてスタートして、現在はチラシ情報に加えて各種のお買い物情報を閲覧できるメディアとして月間4億PVを獲得する巨大メディアに成長しています。
また、Shufoo!では2018年から「レシートくじ」を提供してレシート情報の取得を始めました。これは掲載店で買い物をしたレシートをスマホで撮影して応募すると抽選で賞金が当たるというものです。Shufoo!では、こうして得られた実際の購買データを買い物前のチラシ閲覧ログとひも付けすることができます。つまり、ユーザーがどのチラシを閲覧して、実際にどの商品を購入したのかを追跡することが可能になったのです。
今までのサービスでは把握できなかった広告と購買行動の関係が明らかになることで、店舗側もどういった情報を掲載すれば売り上げにつながるかを把握できるようになります。Shufoo!はこれらの複合データをマーケティング活動を支援する新たな材料として顧客企業に提供しています。
まとめ
オンラインとオンラインの情報を融合して快適な顧客体験を目指すOMOは、特に店舗型小売業のマーケティングを考える上で欠かせない要素になりつつあります。より良いユーザー体験を提供する方法としてOMOを取り入れた施策を検討してみてはいかがでしょうか。