従業員が安心して仕事に打ち込むためには、そもそも良い組織風土が醸成されていることが前提です。しかし、組織風土は自然に定着しているものであり、内側からの視点だけでは問題点に気付きにくい場合も少なくありません。本記事では、組織風土の改革を目指す企業の経営層に向けて、組織風土を改善する必要性やメリットなどを解説します。
良い「組織風土」とは
良い「組織風土」とは、具体的にどのような組織を指すのでしょうか。そもそも組織風土とは、組織内の仕事環境で共有された価値観や認識のことです。従業員の間で暗黙の了解として醸成された習慣や独自のルールは、組織風土の一種といえるでしょう。従業員同士の価値観や認識が合致していれば、必要最小限のやり取りで業務を進められ、意思決定もスムーズに行いやすくなります。仕事の効率性が高まれば、組織のパフォーマンスも向上していくでしょう。
良い組織風土を醸成するためには、望ましい組織風土の要素とされるチェックポイントに沿って、現状を評価してみることが大切です。チェックすべきポイントはいくつもありますが、例えば以下のようなポイントが重要です。
- 企業ビジョンが明確で、従業員にも周知徹底されているか。
- 現場の声が経営層に届いているか。
- 組織内の風通しが良く、部門間のコミュニケーションが活発に行われているか。
- 組織目標に必要な規範や行動を従業員一人ひとりが理解・実践できているか。
- 社員一人ひとりが本音を言えているか。
- 上記の実施に必要なコミュニケーションライン(連絡系統)が確保されているか。
組織文化、社風との違い
組織風土と似た言葉に、「組織文化」や「社風」があります。それぞれとの違いも理解しておきましょう。
組織文化とは、組織内で共有されている価値観や信念のことで、個々の従業員の属性を超えて存在するものです。組織文化に大きく影響するのは、経営理念や就業規則といった組織全体を管理するための判断基準です。これに対し、組織風土は、成果主義か年功序列か、トップダウンかボトムアップか、上昇志向か安定志向かといった要素に影響され、従業員の仕事やモチベーションにも関わります。ただし、両者は明確に区別されているわけではなく、影響する要素には被る部分もあります。また、組織風土は組織内に自然と根付いたものであり、外部からの影響で変化しやすい組織文化に比べて、改革が難しいという違いもあります。
社風とは、従業員が感じる企業の雰囲気や価値観のことで、「明るくて仲が良い」「ピリピリしている」など、感覚的な要素も多いのが特徴です。情報や数値として可視化できないため、入社前に伝えるのが難しく、従業員が早期離職してしまう理由に挙げられやすいものでもあります。
組織風土を構成する要素
組織風土は、主にソフト面とハード面という2つの要素から構成されます。ここでは、それぞれの具体例を挙げ、特徴を解説します。
ソフト
組織風土を構成する「ソフトな要素」とは、従業員一人ひとりの意識や行動、価値観、人間関係などによって構成されるものです。経営スタイルやチームワーク力、上下関係、信頼関係、モチベーション、従業員エンゲージメント、組織内のローカルルールなどがソフトな要素の例として挙げられます。
「始業時間の10分前には着席しておく」「忙しい人がいれば手伝う、代わりに対応する」といった形で表面化しますが、いずれも暗黙のルールのように存在するもので、明文化はされていません。目には見えないのがソフトな要素の特徴であり、改革には従業員自身の意識や行動を変革することが必要です。
ハード
組織風土を構成する「ハードな要素」とは、組織において明文化された価値観や組織構造、制度などを指し、組織運営における意思決定の基盤となるものです。目に見える要素であり、経営層の積極的な働きかけによって大きな変化を生み出せます。企業のビジョンやミッション、コーポレートガバナンス、中期経営計画、人事評価制度、クレド、コンプライアンスに関するルールなどが、ハードな要素の具体例です。
良い組織風土を醸成するメリット
良い組織風土の醸成は、組織運営にさまざまなメリットをもたらします。主なメリットとしては、企業ビジョンの共有や従業員エンゲージメントの向上、離職率の低下などが挙げられます。
まず、組織風土のハード要素である企業のビジョンやミッションを提示し、従業員にも周知徹底することで、企業と従業員との目指すべき方向性を合わせられます。これによって業務の生産性が上がり、経営層が目指す事業計画の実効性も高まるでしょう。
次に、良い組織風土の醸成は、人間関係が良好な職場環境の構築に寄与します。従業員は自社に愛着心や誇りを持てるようになり、従業員エンゲージメントの向上が期待できます。従業員エンゲージメントが高い人は自社への貢献意欲が高く、仕事にもやりがいを感じているため、離職防止にも効果を発揮するでしょう。このような人材は自社のことを周囲にも紹介したくなるため、自社にマッチする知人や友人を推薦するリファラル採用の可能性も生まれます。
組織風土の変革が求められる背景
組織風土の変革が求められる背景には、大きく3つの理由が存在します。
まず、世界はVUCA時代に突入しているということです。VUCA時代とは、変化が著しく、将来の見通しが複雑かつ困難で、捉えきれない事象が多い時代のことを意味します。このような時代に企業が生き残り、成長を続けていくために必要なのは、挑戦や進化を恐れない組織と従業員であり、組織風土の改革が叫ばれているのです。
次に、終身雇用制度の崩壊に伴い、人材の流動化が進んでいる点です。企業の知名度や待遇だけで、優秀な従業員を引き留めるのは難しくなっていると言わざるを得ません。人材を定着させるには、従来のように企業が一方的に従業員を管理するのではなく、企業と従業員が相互に作用し合える組織風土への見直しが必要です。
3つ目は、労働人口が減少するなか、働き方改革やテレワークの普及によって、働き方そのものも多様化している点です。「ワークライフバランスを重視しながら働きたい」など、仕事に対する価値観にも変化が生まれています。多様な人材の雇用や勤務を受け入れるダイバーシティへの取り組みは今や企業の経営戦略の一つであり、それにマッチする組織風土への改革が重要になってきています。
組織風土を変革する際のポイント
組織風土を変革する際は、あらかじめ課題や注意点を知っておくことが大切です。ここからは、組織風土を改革するときに押さえておきたい重要なポイントを3つ紹介します。
まず、組織風土は長い時間のなかで自然に定着したものであり、改革にはそれ相応の時間がかかります。年単位でPDCAを繰り返しながら、中・長期的に取り組む必要があるでしょう。
また、組織風土における課題の明確化は難しいということも覚えておきましょう。特にソフト面の要素は目に見えないため、要素の抽出や課題の特定が容易ではありません。ただし、課題の抽出が不十分であると改革の効果が弱まってしまうため、時間をかけて丁寧に課題を洗い出していく必要があります。そのため、まずは変化を加えやすいハード面から着手していくのも手です。
最後に、未来に向けて組織風土をどのように変えていくべきかを、明確に定義しましょう。定着しているものとは異なる組織風土を従業員に浸透していくには、現状から組織をどう変革しようとしているのか、それがなぜ必要なのかをわかりやすく定義することが大切です。定義が曖昧では、従業員が改革の必要性を理解できず、どうしてもやらされ感が出てしまいます。改革自体もスムーズに進まないでしょう。
まとめ
企業を取り巻く環境が激変しているなか、組織風土も時代に合うものへと見直していく必要があります。組織風土の改革には、経営層の積極的な働きかけと従業員の理解の両方が必須です。本記事で紹介したポイントを踏まえて自社の目指すべき姿を描き、全社一丸となって改革を進めていきましょう。