地方・地域では人口流出や高齢化といった問題を抱えています。これらの問題は地域を支える産業を失い地域経済が縮小することにつながってしまうため、企業や移住者の誘致をはじめ活性化に向けて国をあげて取り組んでいます。本記事では地域課題例と、解決に向けて実際に行われている施策や今後の展望について取り上げます。
地方・地域が抱える課題例
国が主導し地域経済の活性化を目指す「地方創生」は、根本的な目的は少子高齢化と人口減少によって起こるさまざまな社会的課題と、都市部への人口一極集中を是正することです。まず、地方・地域が抱える課題について解説します。
東京への一極集中
日本の人口は、1億2,544万人(2022年1月1日現在)で、2008年を境に減少傾向が続いています。一方、近年は新型コロナウイルスの影響などで若干の変動はあるものの、東京をはじめとする首都圏の人口は増加の一途を辿っています。
また、首都圏に転入する人口を年代別にみると15〜19歳、20〜24歳が大半を占めており、大学への進学や就職をきっかけに都市部に若年層が集まっていることがわかります。
これらの動きがもたらす課題は、地方の将来を担う若者の流出による人口減少、少子高齢化の加速などです。東京への一極集中に拍車がかかることは、同時に地方の衰退を後押ししてしまうことになりかねません。
地方創生も成果は今ひとつ
国は、このような流れを食い止めようと2014年の第二次安倍内閣の時から地方創生の政策に乗り出しました。
大きな柱として、「人口減少の緩和」を掲げ、結婚・出産・子育てがしやすい地域社会に向けた取り組みと、地方でも子育てがしやすいように住みやすい街を作る、かつ地方の実情に合わせた取り組みを行うことを推進しています。他方、「地域の活性化」として地域資源や産業を活かした競争力強化で、雇用を増やし若年層の移住・定住を促す取り組みも進めています。これには、企業の本社を地方に移転したり、政府関係機関の地方移転も含まれます。
実際に、地方経済を活性化させる起爆剤となった取り組み等もいくつかあるものの、総合的・長期的な視点でみると東京への人口一極集中の是正や地域における課題解決には至っていないのが現状です。
課題解消に向けた方向性と取り組み一覧
地方創生に関わる課題にはさまざまなものがあります。「地方・地域」と一括りにしていても、そこにある課題が医療・介護ニーズがひっ迫しかねない高齢化なのか、あるいは人口そのものが減り続けている過疎化なのかによって、取り組むべき方向性が異なります。ここでは4つの大きな課題に対して、実際にどのような施策を講じているのかをまとめました。
人口減少問題
人口減少は、地方経済の縮小に直結します。人がいなくなれば地元にある企業は労働者不足に陥り、また後継者不足によって企業の存続も危ぶまれる事態となってしまいます。
そこで、地域の人口増加・企業誘致を目的に「サテライトオフィスの設置」が行われています。例えば、経営コンサルタント事業やクラウド・セキュリティシステムの構築をサポートする企業は、これまで首都圏で行っていたシステム開発やテスト事業を地方に移管し、地方に移住しても働き続けられる地盤を強化しました。
また「テレワークの導入」も盛んに行われています。これは新型コロナウイルスの影響もあり、普及が加速化しています。例えば大手保険会社は、地方で雇用している社員が居住地をそのままにリモートで本社(東京)勤務できる制度の運用を始めました。そのほか、本社オフィスをなくし、社長自らも地方移住して事業を継続する「場所にとらわれない働き方」を推し進める企業も存在します。
加えて、市区町村をあげて「ICTオフィスビル」を設置し、成長産業を誘致する取り組みも解決の糸口になるとして進められています。福島県会津若松市は「スマートシティAiCT」を開設しました。現在大手企業など30社以上が入っており、首都圏からの人口・雇用の誘致と地域を活性化するための情報プラットフォーム化につながったと評価されています。
地域活性化・文化振興
都市部から若者を誘致し、移住・定住を促すためには、住みやすさや居住地としての魅力度を高めるだけではなく、しっかりと情報発信を行う必要があります。これまでも実際に地方に出向いて一定期間「お試し移住」するなどの試みは行われていましたが、AIなどの技術を用いてより効率的に情報を発受できる仕組みの構築も進められています。
運用されている事例のひとつに、自治体と移住希望者を画像診断のアルゴリズムを用いてマッチングするシステムがあります。メリットは検索した人が認識していなかった地域を知ることができるので、自治体にとっても「認知度が低いために、移住者を誘致できない」といった課題を解決することにつながります。また、これまで移住にあたって条件など膨大な情報を精査する必要があったものを、理想の「暮らし」を視点にすることで画像を使ってシンプルに探すことができ、ミスマッチを防げるとも考えられています。
そのほか、移住希望者の問い合わせに対応するためのAIチャットボットも登場しています。岡山県和気町では、限られた自治体職員で移住希望者からの問い合わせに対応するのに業務負荷がかかっていたことと、希望者が得たい情報をすぐに提供できるようにしたいとの考えから、移住特化型AIチャットボット「わけまろくん」を開発しました。何千もの問いに応答でき、かつ自治体のホームページなどから情報を吸い上げる仕組みを作り、移住希望者の情報収集方法として活用されています。
また、ほかにも移住希望者のニーズや希望をより細かく把握できるように、お試し移住体験中の活動状況を人流データと感情分析AIでモニタリングし、移住促進につながるようなイベントや体験への参加を提案するといった活用法があります。移住体験後のアンケート分析も、感情分析AIで移住可否の要因をさらに深く推しはかることで、次の施策につながる分析が行えます。
防災・防犯対策
自然災害が多い日本では、都市部・地方に関わらず万が一に備えた避難計画の策定や、情報提供できる体制を整えておく必要があります。そのための解決策として、国土交通省が提供する「ハザードマップ」や官民一体となって開発・実証実験に取り組むAIによる被害予測システムなどがあります。
都道府県が独自に開発している情報提供アプリの例として、静岡県総合防災アプリ「静岡県防災」があります。防災情報や避難場所を確認できる地図を備えているほか、ARを活用した浸水状況の体験や避難トレーニングといった学習コンテンツも提供し、防災への意識向上を促しています。
また、地方にとって防犯対策もおざなりにはできない課題です。防犯カメラや街灯の設置はもちろんのこと、人口が減ることによって増える空き家に対し、放置せず再生・リノベーションによって活用されることで地域経済の活性化にもつなげようとする動きが広がっています。
都市基盤整備
暮らしやすさや高齢化社会を支えるのは都市基盤の整備です。特に、自家用車が運転できない交通弱者が増えてしまうと、食料品が買えない、必要な医療・介護が受けられないなど生活の基盤も揺らいでしまいます。
そこで、解決策として必要なのが地域モビリティの確保です。一例に「運航ルートや時刻表の最適化」があります。AIなどの先端技術を利用したシステムがあれば、リアルタイムの状況に合わせて公共交通機関を上手に活用できます。また、そもそも時刻表をもたない「オンデマンド・バス」も登場しています。これは乗降バス停や乗りたい時間を予約することで、システムがルートを自動生成するため、利用者のニーズに柔軟に対応できます。
そのほか、タクシーの予約から決済までを行える配車アプリの活用や山間部など公共交通機関が行き届かない場所で運用するコミュニティバス、さらには自家用車に相乗りするライドシェアなども、都市基盤を支える施策になるのではないかと考えられ、実証実験などが進められています。
まとめ
地方・地域は、人口減少と少子高齢化が喫緊の課題であり、未だ解決に向けた兆しは見えていません。ただ企業にとっては地方にサテライトオフィスを設置し、居住地にとらわれないテレワーク制度を整備することで、地方の優秀な人材を取り込めるメリットもあります。この機会に、自社が取り組めることを考えてみてはいかがでしょうか。