新型コロナウイルスにより大きな打撃を受けたテレビ業界。海外だけでなく、国内地方ロケができず利用映像に制約が出る状況となっています。テレビ業界は今後どのように変わりゆくべきなのか。本記事では、新型コロナウイルスがテレビ業界に与えた影響について、また、今後のテレビ業界に求められる変革について詳しく解説していきます。
コロナ影響で業績は大幅下降
新型コロナウイルスにより業績が悪化したのは、テレビ業界も例外ではありません。まずは2020年9月に出た在京民放5社の中間決算を見てみましょう。
日本テレビHD…売上高1744億円(前年比-16.8%)、純利益△56億円
フジ・メディアHD…2468億円(前年比-22.0%)、純利益54億円(前年比-81.2%)
テレビ朝日HD…1390億円(前年比-22.5%)、純利益△419億円
TBSHD…1494億円(前年比-15.5%)、純利益59億円(前年比-11.8%)
テレビ東京HD…643億円(前年比-10.1%)、純利益10億円(前年比+173%)
テレビ東京以外の大手4社は、軒並み減収減益であったことがわかります。一番の理由はCM収入が大幅に減少したこと。コロナ禍でスポンサーの売り上げが落ち、広告宣伝予算が削減されたことが痛手となりました。
そんなコロナ禍でも好調だったのがテレビ東京です。売上こそ前年比を下回っていますが、純利益は前年比のなんと2.7倍。飛躍的な伸びに大きく貢献したのが「ポケットモンスター」や「銀魂」といったアニメコンテンツです。
アニメはロケもないのでコロナの影響を受けにくく、作品の質も安定しています。これらのアニメが高視聴率を獲得したことが、ピンチに強いテレビ東京の底力になっています。
巣ごもりの影響でアニメ番組は視聴率が上昇
2020年上半期における各局の視聴率を見ると、フジテレビ以外は上昇していることがわかります。これはもちろん番組の質が高かったこともありますが、コロナ禍で外出できず巣ごもりする人が増え、相対的にテレビを点ける時間が長くなったことも影響しています。
視聴率は全体的に底上げされている印象ですが、中でも視聴率が上昇しているのがアニメ番組です。アニメといえば「映画 鬼滅の刃」が記録的ヒットになっていますが、こちらも元々はテレビシリーズでした。
日本のテレビアニメは昔から質が高く、巣ごもりでテレビを観る人が増えたことで、普段はアニメを観ない層からもファンを獲得しました。関連グッズ販売など番組以外で利益を上げることもできるので、今後成長が期待されるジャンルです。
新型コロナウイルスがテレビ業界に与えたそのほかの影響
収益や視聴率以外でも、コロナ禍がテレビに与えた影響は計り知れません。ここからはコロナ禍前後で、どんな変化があったのかを検証していきましょう。
番組制作がリモートワークで行われる
コロナ禍により日本の企業ではオンライン会議やペーパーレス化が進みましたが、テレビ業界も例外ではありません。1つの部屋に集まって行う会議が減り、ZOOMを用いたオンライン会議が増えています。
場所の確保や出社の必要なく会議に参加できることで、他業種と同じくテレビ業界も業務の効率化が進みました。資料を印刷して配らなくてもよいので、経費削減に加え、エコの観点からも多くのメリットがあります。
番組出演者もリモート出演が増える
感染対策の観点から、バラエティ番組では出演者がスタジオに集まるのではなく、リモート出演も増えています。ひとことでリモートと言っても、テレビ局の別室から中継したり、自宅や事務所からの出演だったりと方法はさまざまです。しかし、出演者が自分で機材を用意する場合は、電波が悪かったり時差が生じたりして、制作者側が思い描くようなやり取りができないこともあります。
スタジオに出演者が集まって撮影する場合は、充分なソーシャルディスタンスを保った上で、アクリル板で仕切りをするなどして感染対策を行っています。全員画に入れようとすると間延びした構図になるため、1人ずつアップで撮った画像を組み合わせるなど、撮影の方法も変化しています。
一方、ドラマではスタジオやロケでの撮影ができないことを逆手に取った面白い試みもありました。出演者1人の映像だけでストーリーを構成する「リモートドラマ」が制作されたのです。NHKの「今だから、新作ドラマ作ってみました」シリーズや、フジテレビの「世界は3で出来ている」などがそれに当たります。設定が工夫されたドラマはどれも好評で、コロナ禍の中でも明るい話題を提供してくれました。
地方のロケができず使える映像に制約がある
コロナで特に大打撃を受けたのがロケ番組やドラマです。海外ロケができないだけでなく、感染が拡大した時期は県をまたいでの移動が制限され、地方ロケも難しくなりました。ロケメインの番組では、緊急事態宣言中は再放送や総集編でしのいだところもあります。
そんな中、視聴者の支持を集めたのが人気コンテンツの再放送です。撮影がストップしてしまったドラマ枠では、「野ブタ。をプロデュース」や「逃げるは恥だが役に立つ」など、ヒットしたドラマを再放送し、再び高い視聴率を獲得しました。再放送でもよい番組なら視聴率が取れるということが証明されたのです。
インターネットを意識したコンテンツ配信が課題
コロナ禍で相対的に視聴率が上昇した地上波ですが、今や映像メディアはテレビだけではありません。Netflix、Amazon Primeなどオンライン動画配信サービスとの厳しい競争が待ち受けています。
インターネット配信市場の規模は拡大傾向にあり、番組の予算も地上波をしのぐ勢いです。大手各社もオンライン配信に力を入れつつあります。しかし競争に勝つためには、テレビの人気コンテンツを配信するだけでなく、ネットと連動するなど今までの常識にとらわれない番組作りが求められるのです。
SNSを使って視聴者も参加できる形の番組や、地上波・映画・ネットと複数のメディアをまたぐコンテンツ展開など、変革の方法はいくつか考えられます。今後生き残るにはインターネットを意識した上で、テレビにしかできない付加価値のあるコンテンツ作りを行うことが課題と言えるでしょう。
まとめ
新型コロナにより大打撃を受けたテレビ業界。しかしそれは企業からの広告収入に頼り過ぎていた業界のあり方を見直すきっかけにもなりました。テレビが勢いを巻き返すには、視聴率だけに一喜一憂せず、ネット配信やグッズも含めた「コンテンツ販売」にシフトすることが課題と言えるでしょう。今後もテレビ業界の動向から目が離せません。