メタバースの活用が多くのビジネス分野で広がっています。メタバースを有効的に活用していくためには、デジタル技術の利用を欠かすことはできません。
その中で必要な考え方が「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」です。
本記事ではDXとメタバースの関係性から、実際の活用例、さらにその先に求められている技術についてまで解説していきます。
DXとメタバースの関係性を解説
DXとメタバースはどちらも「デジタル技術」を活用していくものです。またメタバースを構築していくには、DXの概念は切っても切り離せない関係にあるため、どちらも密接に関係しているものと言っても過言ではありません。
本章では「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」と「メタバース」の関係性ついて、解説していきます。
DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは
DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは「デジタル技術を用いて、従来のビジネスモデルや企業文化などを変革させること」です。
経済産業省が発表している「デジタルガバナンス・コード2.0」では、DXを以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
つまりDXとは、ツールなどを用いて仕事をデジタル化することを指すのではなく、従来のビジネスモデルを変革して、新たな時代の競争力を築いていくことであると言えます。
共有の仮想空間を意味する「メタバース」
メタバースとは「デジタル技術を活用してインターネット上に構築された3Dの仮想空間」のことです。具体的には仮想空間上に、自身の分身となるアバターを作成し、さまざまなイベントやサービスを楽しめます。
日本でも人気のゲームである「あつまれ どうぶつの森」などが、メタバースコンテンツとして大流行しました。
こうしたメタバースは閉鎖された空間ではなく、世界中の人とつながることができる空間のため、現実世界では会うのが難しい人達と交流ができるのも魅力です。
2021年10月にはMeta社(旧Facebook社)が、メタバース構築に100億ドル (約1兆1400億円)のコストを費やす予定と発表しており、今後も世界規模で広がっていくことが予想されています。
DXとメタバースは「目的」と「手段」の関係にある
DXは「デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや生活そのものを変革すること」が目的で、メタバースは「デジタル技術を活用して作られた新しい空間」です。そのためメタバースの世界観は、DXが目指す目的を実現したものであるとも言えます。つまり、DXとメタバースは「目的」と「手段」の関係にあるのです。
例えば順天堂大学と日本アイ・ビー・エム株式会社は、メタバースを活用して医療サービスの研究・開発に取り組んでいます。「順天堂バーチャルホスピタル」をメタバース上に構築し、来院を疑似体験させ、患者の不安を取り除き、メンタルヘルスの改善につなげる取り組みを行なっています。
このようにDXを実現させるために、メタバースを手段として利用している企業や団体は多くあります。
メタバースはDXにどう活用できるのか
本章では実際にメタバースをDXにどのように活用できるのかの具体例を紹介していきます。
主な具体例は以下の通りです。
- 会議・商談|濃密なディスカッションが可能
- バーチャルオフィス|リアルタイムでの交流が可能
- 広告配信|よりユーザーの興味を惹く配信が可能
- ショッピング|現実の街と同じ体験が可能
- ライブ・展示会|世界中からの集客が可能
会議・商談|濃密なディスカッションが可能
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、多くの企業がZoomなどを活用したオンライン会議や商談を取り入れるようになりました。
メタバースでは、このオンライン会議をより現実世界に近い濃密なディスカッションとすることが可能です。なぜならメタバース上で行われる会議では、アバターとして参加するのはもちろんのこと、会議室内にあるホワイトボードに意見を書き込んで共有することができるなど、現実世界の会議と同じようなことができます。
バーチャルオフィス|リアルタイムでの交流が可能
バーチャルオフィスとは、バーチャル空間上に構築された擬似的なオフィスのことです。バーチャルオフィスに自身のアバターをログインさせることで、擬似的な出社を行えます。
「誰が、どこに、どのような状態でいるか」が一目で分かるようになっており、離席中や会議中などのステータスなどによって、コミュニケーションのタイミングを図ることが可能です。
また企業側にとってもバーチャルオフィスを構築することで、テレワークの推進はもちろんのこと、実際のオフィスにかかる賃貸料や光熱費などのコスト削減にも貢献します。
広告配信|よりユーザーの興味を惹く配信が可能
YouTubeで広告が流れるように、メタバース上においても広告配信を行う企業が増えてきています。例えば株式会社テレシーでは「元素騎士オンライン - META WORLD -」というメタバース上のゲームにおいて、自社の広告出稿を行なっています。ゲーム内で広告を自然な形で出稿することで、ユーザーへの認知度が高まる効果が期待できるのです。
またメタバース内で体験型の広告を出稿させることで、ユーザーに擬似的な体験をしてもらい、商品やサービスをアピールする取り組みも広がっています。単純なオンライン広告だけでは伝わりづらい「体験」を軸とした配信もメタバースでは可能です。
ショッピング|現実の街と同じ体験が可能
メタバースでは仮想空間上に現実世界と同じような街を再現させ、実際にお店に入り、ショッピングを行うことも可能です。
例えば三越伊勢丹が運営している「REV WORLDS」という仮想空間では、実際にバーチャル店舗を作り、ユーザーがお店に入り商品の購入をすることができます。「REV WORLDS」は2022年12月時点でサービス開始から1年半以上が過ぎていますが、バーチャル店舗からECサイトへ遷移する割合が、メルマガやバナーよりも約3倍程度高くなっているとして、ユーザーの購買意欲が高まっているという分析がされています。
今後、さらにバーチャル空間において現実世界と同じ世界が再現されれば、現実の街と同じ体験がより可能になると言えます。
ライブ・展示会|世界中からの集客が可能
ライブや展示会が行えるのもメタバースの魅力です。
実際にアメリカのEpicGames社が展開しているゲーム「フォートナイト」では、実際にライブや展示会を行い世界中からユーザーを集客しています。世界的なスターであるトラビス・スコットがフォートナイト上で行なったライブでは、同時接続数が1,230万人にまで上ったとされています。
また日本人では、米津玄師さんや星野源さんなどもオンラインコンサートを行なっており、高い集客力を見せています。
こうした現実世界では簡単ではない集客をメタバースを活用することで実現可能です。
DX・メタバースの次は「VX」「デジタルツイン」?
DXはすでに多くの企業が進めており、メタバースにも続々と企業が参入するなど認知度が高まっています。さらには現在、DX・メタバースの「次」が注目されているのです。中でも注目されているのが「VX(バーチャルトランスフォーメーション)」「デジタルツイン」です。
本章では「VX」「デジタルツイン」について、解説していきます。
DXの次に来ると注目されている「VX(バーチャルトランスフォーメーション)」とは?
「VX(バーチャルトランスフォーメーション)」とは「Virtual(仮装)」と「Transformation(変換)」を組み合わせた造語で、現実世界と仮想世界を融合させ、社会を変革させる取り組みのことです。
具体的には「XR(クロスリアリティ)」や「5G」「AI」などあらゆるデジタル技術に加え、それを補完するサービスによって構成されます。例えばMeta社が提供している「Horizon Workrooms」は、XRミーティングと呼ばれています。XRミーティングでは、Web会議としての機能に加えて、現実世界と同じように360度の視点確保や、メモやファイルの共有などが可能です。
こうしたデジタル技術を活用して、仮想世界でも現実世界と同じような体験ができ、ビジネスや生活に変革をもたらすのが「VX」になります。
メタバースの次にくる と注目される「デジタルツイン」
デジタルツインとは、現実世界にある情報を集め、仮想空間上に同じような世界をリアルに再現する技術のことです。現実世界と仮想世界がほとんど同じであることから「デジタルの双子」という意味が名付けられています。
実際にデジタルツインの技術を活用した、さまざまな取り組みが始まっています。
メタバースとデジタルツインの違い
メタバースとデジタルツインは、どちらも仮想空間を活用するものですが、作り方や目的が異なります。メタバースはユーザーが利用しやすいように、都市空間を作る、現実世界にはない世界を作るなどが多くあります。一方でデジタルツインは、前述したように現実世界の環境を仮想空間上にリアルに再現する作り方です。そのため現実世界にはないものは、デジタルツインの仮想空間上でもありません。
またメタバースの目的は、ゲームやコミュニケーション、ビジネスなどあらゆる目的で活用されています。一方でデジタルツインは、もう一つの現実世界を再現したものなので、災害のシミュレーションなどに利用されています。
このような目的の違いもメタバースとデジタルツインの違いと言えるでしょう。
デジタルツインは「シミュレーション」とは違う?
結論から言えば、従来のシミュレーションよりもリアルタイム性があり、高度な予測ができるのがデジタルツインになります。従来のシミュレーションは、シナリオを仮定して設計、実験、検証を行なっていたため、人の手や時間がかかっていました。
しかしデジタルツインでは、現実世界の情報をリアルタイムで仮想空間上で構築します。そのため、あらゆる予測に基づいたシミュレーションを従来よりもタイムラグがなく行えるようになるのです。
また現実世界の情報を軸として、あらゆる予測を行うので、結果は迅速に現実世界にフィードバックできる点も大きな違いと言えます。
VXやデジタルツインに必要な4つの技術
今後、VXやデジタルツインを実現させるために必要な技術は、主に以下の4つになります。
それぞれの技術について解説していきます。
1.VR・AR・MRなどのXR関連技術
VRやARなどを総称した「XR(クロスリアリティ)」技術は、VXやデジタルツインには欠かせません。
VRは仮想空間を現実世界のように見せる技術、ARは現実世界にデジタル情報を加えて拡張する技術、MRとは現実世界の映像を読み取り、表示されたデジタル情報に実際に触れる技術のことです。
仮想空間での実験結果などを、よりリアリティのあるものにするためには、こうした「XR技術」を用いて可視化することで、説得力が増していきます。
2.AI技術
人工知能とも呼ばれている「AI技術」は、多くの情報やデータを処理することが可能です。VXやデジタルツインでは、従来とは比べ物にならないほど膨大な量のデータを処理する必要があります。さらにそのデータを正確に処理することも求められるなど、より重要性が増しています。
またAIには機械学習機能が備わっているため、膨大なデータを分析させることで、現実世界においても誤差の少ない実験結果を導き出すことが期待できます。
3.IoT
IoTとは「Internet of Things」の頭文字を取ったもので、あらゆるものとインターネットを接続させて通信を行う技術のことです。昨今ではIoT家電なども普及しはじめており、帰宅前にエアコンを付ける、冷蔵庫の中身を確認するなどが可能になっています。
デジタルツインにおける仮想空間を構築する際には、現実世界のリアルな情報が多く必要です。こうした正確な情報を多く集めるためには、IoTによるリアルタイムな情報収集が必要不可欠と言えます。
4.5Gネットワーク
5Gネットワークとは、現在の主流である4Gよりも高速で大容量のデータを送受信できるネットワークのことです。通信速度は4Gの20倍、遅延は4Gの1/10 とされており、リアルタイム性が求められるデジタルツインを支える技術として注目されています。
日本では2020年の春から商用化が始められており、今後はさらにビジネスにおいての活用が拡大するでしょう。
まとめ
DXとメタバースは「目的」と「手段」の関係にあります。DXを実現させるために、メタバースを手段として活用させることは、多くの企業が取り組んでいます。
そしてメタバース空間を構築し、DXを実現させていくためには、さまざまなデジタル技術が必要です。またDXの達成は一つのゴールと言えますが「VX」や「デジタルツイン」など、すでにその後に向けての取り組みもスタートしています。そのため今後のビジネスは、デジタル技術の有効活用がさらに求められてくるでしょう。