新型コロナウイルス感染症の世界的な流行で、社会のありかたが大きく変化しつつあります。特に店舗販売で利益を得ていた小売業界への影響は大きく、今後はITなどを活用して変化に対応していくことが求められています。この記事ではコロナ禍がもたらした変化を踏まえ、小売業界におけるIT活用のポイントなどについて解説します。
コロナによって小売業界で起きた変化
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の影響で社会が大きく変化しています。今までリアルな店舗での販売を基本としていた小売業界もその例外ではなく、大きな変化が起こりつつあります。
自粛で加速する消費者の在宅化
新型コロナウイルス感染の流行で、以前に比べほとんどの人が外出の機会を減らしています。感染対策として日本でも緊急事態宣言が全国的に出されて外出制限が呼びかけられたこともあり、オンラインショッピングの需要がいっそう拡大することになりました。
「働き方改革」のかけ声だけではいまひとつ普及していなかった「リモートワーク」「テレワーク」も急激に認知され始めており、在宅勤務が増えた関係で必然的に外出が減少していることもオンラインショッピングの需要を増やす要因になっています。
現代の消費者はスマートフォンやPCなどを利用して買い物をオンラインだけで完結させようとする傾向が強まっており、オンラインショップでいかに集客できるかが売り上げを大きく左右するようになっています。
消費者の購買意識の変化
新型コロナウイルス感染拡大防止で「新しい生活様式」が求められているなか、消費者の購買意識にも徐々に変化が生まれつつあります。手段としてのオンラインでの買い物が増加しただけではなく、買う物の内容にも変化が出始めています。コンサルティング会社のアクセンチュアが2020年4月2日から4月6日にかけて日本を含む世界15か国約3000人の消費者を対象に行った調査によると、調査実施の2週間前に比べファッションアイテムや美容グッズ、家電などの購入控えが見られる一方、個人向けの衛生用品や洗浄用品、缶詰や生鮮食品など食料品の購入が増えています。5人に1人は今回の感染流行をきっかけに初めてオンラインによる食料の購入を行ったと回答しており、また、回答者の60%が「健康管理により多くの時間を使うようになった」としています。
さらに、45%が「持続可能な選択を重視した購入を心掛けるようになり今後もそうする」とし、64%が「食品廃棄物の削減への関心が高まり、今後も関心を持ち続けるであろう」と回答しており、感染症の流行をきっかけに今後も消費者の購買行動が長期的に変化していくことが予測されています。
中国の小売業はオンラインチャネルを強化
小売業のオンライン化が特に進んでいる国として中国が挙げられます。米リサーチ会社ニールセンの調査によると、2021年の戦略として中国の小売企業の67%が販売に関してオンラインチャネルを拡大しビジネスのありかたの変更を加速させると答えています。
60%の企業は店舗のほかに宅配サービスを開始する予定であると回答しており、オンラインとオフラインの統合をさらに進めていくことが見込まれます。 また、消費者のニーズに応じて柔軟に商品構成を変更すると53%が答えており、流通や在庫管理のありかたについても変化が加速することが予想されています。
小売業の現場で考慮したいポイント
このように、コロナ禍は小売業にも大きな変化をもたらしています。ここではコロナショックを乗り越えるために小売業の現場レベルで考慮しておきたいことについて解説します。感染のリスクとなる対面での接触を避けるためには、ITを活用してあらゆるサービスをデジタル化していくことが大きなポイントになるでしょう。
飲食はデリバリー・テイクアウトが主流に
コロナ禍は特に飲食業界に大きな影響を及ぼしています。店舗で会話しながら飲食することに感染のリスクがあるとして、特に大人数で行う宴会の需要などが大きく減少しており、その分売り上げも大きく低迷しています。
このように室内での飲食に制限がかかる中、各店舗ともテイクアウトやデリバリーに活路を見出しています。
感染の影響が長期化する中、日常の飲食に関しては需要がなくなることは想定しづらく、テイクアウトやデリバリーへの需要は今後も続いていくことが予想されます。ですから、これらの営業形態を前提として、ITサービスと連携してネットを介した注文や支払いなどを行うビジネスモデルへの転換を検討する会社も増えています。
実際に、各自治体が個々の飲食店の情報を発信して、デリバリーやテイクアウトに転換する業者の支援を行うという動きも出始めています。
大手チェーンにだけにとどまらず、今後は個々の飲食店もオンラインで注文を受けられる体制を整えておくことが重要になるでしょう。SNSや口コミを通して広く知ってもらい、お店の「ファン」を増やしつつ、予約販売などにつなげていくことが今後さらに求められていくと考えられます。
3密状態を避けたドライブスルー式
ウイルス感染のリスクを下げるため、人々の間で店舗のような「3密」になりやすい空間に滞在する時間をできるだけ短くしたいという心理が働くようになっています。
そこで注目されているのが、ネットで事前に予約や注文を行い、指定の場所で商品を受け取る「ドライブスルー」方式です。大手ハンバーガーチェーンなど飲食業界では元々浸透していた手法ですが、コロナ禍の影響で飲食業界以外の小売業にもドライブスルー方式が広がりつつあります。 スーパー大手の「イオン」は、ネットスーパーで事前に注文と決済を済ませて、受け取りのみドライブスルーで行うサービスを試験的に開始しています。通常のネットスーパーと同様に購入して、ドライブスルーでの受け取りを選択して店舗の所定の場所で注文番号と名前を伝えれば、スタッフが荷積み作業まで行ってくれます。
コロナ禍でネットスーパーの需要は一気に拡大しましたが、配送トラックの台数は限られているため注文が受けられないといったケースも多発していました。
しかし、ドライブスルー方式なら配送が不要になるのでより多くの注文を受け付けることができる上、店内の混雑緩和や店内滞在時間を削減することも可能になります。
3密を避けたいユーザー心理を理解したドライブスルー式の営業手法を取り入れることも、今後は有力な選択肢になってくるでしょう。
Web・ECサイトの強化とテクノロジーの活用
コロナ禍の影響により小売業界全体でオンラインショッピングへのニーズが急激に高まっています。その需要に応えるためにはWebやECサイトを充実させるなどして、ITの活用を推し進める必要があります。
WebやECサイトの構築にあたっては、まず、顧客の視点に立って内容を充実させるという視点を持つことが大切です。リアルの店舗と同様にECサイトでも、重点的に売りたい商品は最も目を引く位置に表示することになります。ショッピングそのものを楽しんでもらうために顧客が楽しめるようなコンテンツを充実させたり、ユーザーインターフェース(UI)を充実させるといったことにも気を配る必要があります。「集客」の点ではSEO最適化による検索エンジンからの流入や、Web広告の展開などが必要になるでしょう。
また、オンラインでも顧客体験をより充実させる方向に向かってより高度なテクノロジーの活用が進んでいます。リアルタイムで動画を配信して商品をアピールするライブコマースの手法なども徐々に広がりを見せ始めています。
今後はネット経由の仮想空間と現実の世界を融合させるMR(ミックスドリアリティー)という技術を利用して、よりよい購入体験を提供するなどの手法を取り入れていくことも考えられます。ECサイト上で高度なMRが実現すれば、その場にない服の着心地や感触を自宅で再現することも可能になり、店舗での試着と同様の試着体験を自宅で得ることが可能になるでしょう。今後もオンラインの買い物体験をより楽しめるような方向にあらゆる技術が発展していくと考えられています。
まとめ
新型コロナウイルス大流行の影響で、業界を問わずビジネスモデルの根本的な見直しが急務となっています。特に、リアル店舗を前提としていた小売業界への影響は大きく、ITなどを活用して変化に対応していくことが求められています。もちろん、消費者の関心ポイントや懸念を踏まえた施策を練っていくことが大切です。