映像業界というと映画やテレビをイメージしますが、最近はYouTubeなどWebメディアの普及によりさまざまなビジネスの可能性が広がっています。この記事を参考に、映像業界の職種や現在の動向、さらにはコロナ禍で受けた影響について整理し、今後のあり方について考えていきましょう。
映像業界とは
映像業界は業種としては情報通信業ですが、テレビ、映画、ゲーム、MV(ミュージックビデオ)、広告(CM制作)など多種多様な分野が含まれます。さらに結婚式の撮影や広報ビデオなど、個人・企業のために映像を制作する会社も含めると、携わる企業の数は膨大です。
最近はIT企業が自社で動画を制作して配信することも増えてきています。「AbemaTV」などネット専用のテレビ局も作られ、Webにおいて映像が果たす役割は今後さらに大きくなるでしょう。
映像制作の職種は「企画系」と「技術系」の2つに分かれます。まずは企画系に分類される職種を見てみましょう。
- プロデューサー(企画・予算管理など全体の統括)
- ディレクター(現場での演出)
- 制作デスク(事務関係全般)
- 構成作家(台本を制作)
- アシスタントディレクター(制作の補助・雑用)
これらの職種は主に企画や進行、監督などを行い、直接機材を扱うことはあまりありません。専門知識のない一般大学の卒業生にも門戸が開かれ、まずアシスタントディレクター(AD)を経験してから、それぞれの進路に分かれていきます。
一方、技術系に分類されるのは以下のような仕事です。
- カメラマン(映像の撮影)
- 音声(音声の収録)
- 照明(ライトや光の調整)
- スイッチャー(生放送での映像の切り替え)
- MAミキサー(効果音の作成)
- 編集(撮影した映像をつなぐ)
- サウンドクリエイター(BGMや効果音を制作)
- CGクリエイター(CGを制作)
技術系はそれぞれ専門的な機材を扱います。そのため、専門学校などで学んでから業界に入るのが一般的です。未経験ならアシスタントから始めることが多くなります。
映像業界の今後の動向
近年、技術や機材の進歩により映像業界はめざましい進歩を遂げています。高解像度の4Kや8K、高輝度のHDRといった技術により、肉眼で見るのと変わらないような鮮明な映像を自宅で楽しめるようになりました。
さらに今後成長が期待できるのは、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)といった、バーチャル技術を活用したコンテンツです。ARは「ポケモンGO」に代表されるように、スマートフォンのアプリなどを使って現実には存在しないものをリアルな世界で見せる技術です。その躍進はゲームの世界だけにとどまりません。
例えば自動車メーカー「テスラ」では、車の製造工程でAR技術を取り入れています。さらに道案内や手術支援など、実用的な分野への進出はさらに加速しそうです。
一方、VRは専用のゴーグルを頭に装着することにより、仮想世界を現実のように体験できる技術です。VRはすでにスゲーム、広告などに活用されているほか、VR観賞用の映像作品も数多く制作されています。ほかに医療分野での学習や従業員の訓練など、娯楽以外でも幅広く実用化が進んでいます。
またビッグデータやAIの進展も、今後の映像業界を語る上で重要なファクターになるでしょう。SNSの普及により、Web上では毎日膨大な量のデジタルデータ(ビッグデータ)が作られています。それらを格納し分析する技術が向上したことで、ビジネスの世界にも変革が起きているのです。
例えば、Googleは利用者の閲覧情報を蓄積・分析することで、その人が関心を持ちそうな広告を表示することができます。近年はデータの統計・分析にAIを導入することにより、これまでよりさらに効率的に有用なデータを抽出できるようになりました。
今後は映像制作においても、こうしたAIによるビッグデータの解析が活用される機会が多くなるでしょう。この技術を使えば、多くの人に好まれる映像を制作することも、逆にとことん個人の好みに合わせた映像をプロデュースすることも可能になるのです。
多種多様な企業が映像業界へ参入
これまで映像業界に関わるのは、放送や広告、映像プロダクションや撮影音響など限られたジャンルの企業だけでした。しかしインターネット配信が普及したことで、これまで門外漢だった企業も映像業界へ参入し始めています。
Webにおいてシステムメーカーはもちろん、システム設計やメンテナンスを行う企業も欠かせない存在です。さらには機器メーカー、ソリューションベンダー、通信事業者、企画会社、コンテンツ制作会社など、多彩な企業がさまざまな形でビジネスに関わることは、サービスの多様化や活性化にもつながっています。今後もこれらの企業がプロデュースする、新たな映像ビジネスの動向から目が離せません。
コロナ禍における映像業界の現状
コロナ禍は映像業界の制作現場にも、さまざまな影響を及ぼしています。第一に東京など首都圏から地方に向かうロケが難しくなったことが挙げられます。首都圏の感染者数が多い現状では、感染予防の観点から地方では歓迎されず、撮影が断られるケースもあるのです。
ほかに変わった点といえば、バラエティ番組でリモート出演が増えたことが挙げられるでしょう。出演者同士が一切接触しない、「リモートドラマ」のようなユニークな試みも生まれました。出演者がスタジオに集まらなくても、中継をつないで番組が成立すると証明されたことは、今後の番組制作にも影響を与えそうです。
そんな中、3密を回避する有効な手段として注目されているのが「リモート機材」です。AIカメラなどを活用すれば現場に人が集まることなく、遠隔操作で映像制作が行えます。こうした最新技術を取り入れた機材は、今後さらに活躍の場が広がっていくでしょう。
実写の現場が新型コロナウイルスで打撃を受ける一方、CGアニメーションの制作会社などは、日頃からリモートワークに近い体制で仕事が行われていたため、制作がストップするといった大きなダメージはありませんでした。
アニメはコロナ禍でも安定して需要の高いジャンルです。今回のような非常時でも制作を続けやすいとわかったことで、今後映像業界でのアニメの比重はさらに大きくなることが見込まれます。
映像制作における新型コロナ対策
「公益社団法人映像文化製作者連盟」のガイドラインによると、映像制作における新型コロナウイルス感染予防の基本的な対策は、以下のようなものです。
- 会議などはできるだけリモートで行う
- スタッフやキャストは2メートルを目安とした距離を確保し、毎日検温する
- 手洗い・アルコール消毒の徹底
- 1時間に2回程度の充分な換気
- マスクの着用(必要に応じて、フェイスシールドや手袋、眼鏡も着用する)
- ロケやロケハンなどの人数は最小限に
- 菓子類の提供禁止。飲み物は各自持参
- 小道具や衣装の共用禁止。機材などの貸し借りも避ける
- 食事は交代に時間差で取るよう心がける
- 免疫力低下予防のため、深夜や早朝の準備・撮影は避ける
- 高齢者や子どもは拘束時間をできるだけ短くする
- 感染症対策を統括する担当者を置く
- 過去14日以内に入国制限のある国・地域に渡航歴がある者や濃厚接触者は、撮影参加を見送る
ここでは要約していますが、ガイドラインにはさらに状況ごとの細かな対策が記されています。しかし、いくら対策を徹底していても感染を100%抑え込むことはできません。
もし発熱などの体調不良が見られた場合は、業務前なら自宅待機、現場で症状が現れた場合はすみやかに医療機関を受診します。検査で新型コロナウイルス陽性とわかったら撮影は一旦中止し、保健所や医療機関と連携して適切な対応を行います。
現在の番組は、このような徹底した対策により制作されています。これまでにない業務が大幅に増えたことで、現場のスタッフやキャストの負担は大きくなりましたが、安全性を最優先にコンテンツを作り続けています。
まとめ
ネット動画配信の普及や、高性能機材が手軽に購入できるようになったことで、映像業界には新たな企業が次々に参入し、さらなる競争が生まれています。コロナ禍で制作方法が見直されていることも、変革に拍車をかけるでしょう。ハイテク技術とネットワークの進展が映像業界にどのような変化をもたらすのか、今後も要注目です。