製造業

老舗製造機器メーカーはどのようにサービタイゼーションを実現したのか

サービタイゼーション」と呼ばれる製造業の業態変化をご存知でしょうか?これは、従来モノとして販売してきた製品が生み出す価値や体験に着目し、コト(サービス)として提供するビジネスモデルです。よくよく考えてみると、消費者や企業は製品そのものというより、製品が生み出す価値や体験を求めて購入しています。

例えば自動車の場合、消費者が真っ先に求める価値とは「移動手段としての利便性」です。自動車があれば行動範囲は大きく広がりますし、公共交通機関ではたどり着くことが難しい場所でもスムーズに行くことができます。また、車内は電車のように他人と隣り合わせになることもないので、そうしたストレスは皆無です。もちろん、渋滞や自動車の故障、事故トラブルなどのリスクはあるものの移動手段として欠かせない製品の一つです。

消費者が自動車そのものではなく「移動手段としての利便性」という価値を欲しているとなると、自動車をモノとして販売するだけでなくコトとして提供するのも有効だと考えられます。つまり、サブスクリプションモデルのレンタカーサービスにより、自動車が持つ価値だけを切り取ってサービスとして提供できるというわけです。これも一種のサービタイゼーションであり、「モノ売りからコト売りへの転換」と言えます。

サービタイゼーションを実現することは決して簡単ではありません。従来のビジネスモデルを大きく変革することから、問題は多く発生しますしクリアすべき課題もたくさんあります。しかしその先にある時代の変化やビジネス価値は計り知れません。そこで本記事では、老舗電機メーカーである古野電気株式会社(以下古野電気)がどのようにしてサービタイゼーションを実現したのかをご紹介したいと思います。

老舗製造機器メーカーはどのようにサービタイゼーションを実現したのか

Factory of the Future

古野電気が抱えていたサービタイゼーションの課題

古野電気は1948年に世界で初めて魚群探知機の実用化に成功して以来、船舶用電子機器分野において独自の超音波技術と電子技術をもとに数々の世界初・日本初の商品を提供し、世界80カ国以上に販売拠点を有するグローバル企業です。

その技術力は陸上事業にも及び、現在ではETC車載器、防災・監視ソリューション、医療機器、GNSS( Global Navigation Satellite System /全球測位衛星システム)などの産業用電子機器分野にも事業を拡大しています。

同社が経営戦略として考えていたことは、「売上高全体の80%ほどを占める海外ビジネスにおいて、陸上事業をいかに成長させるか?」ということでした。そこで着目したのが本記事のテーマであるサービタイゼーションです。

しかし、サービタイゼーションへの取り組み当初は課題が山積みだったと言います。古野電気の陸上事業は50年以上前からOEM(Original Equipment Manufacturing / 納入先商標による受託製造)事業に取り組んでいます。社内にOEM文化が深く根ざしている古野電気では、QCD(Quality, Cost, Delivery / 品質、予算、納期)などの顧客ニーズに応えることは得意としていたものの、「事業戦略はお客様が考えること」という会話が日常的になされ、OEM事業からの脱却が難しい状況にありました。さらに、サービタイゼーションの実現に向けて他メーカーとの協業にも取り組んだものの、どちらが費用を捻出するのか、意思決定は誰が行うのかなどを明確にできないまま、事業をうまく展開することに苦労していたと言います。また、サービタイゼーションに着目したものの「モノを通じて得られる価値や体験をコトとして売る」ということにピンとこない社員がほとんどだったそうです。

サービタイゼーションを進めるために古野電気が築いたベース

深く根差されたOEM文化、進まない協業、サービタイゼーションに対する認識と理解の不足など深刻な課題を抱えていた古野電気が、その状況を打開するべくサービタイゼーションを果たすために掲げた戦略が「仮想分割によるセグメント制」です。

事業部を実際に分割すると結果的に部門ごとの孤立(セクショナリズム)が生じるため、営業や開発、製造や企画などの部門を横断的に分割し、さらにOEM事業、インフラ事業、ETC事業、GNSS事業、さらにサービタイゼーションへ注力するソリューション事業の5つのセグメントを仮想的に分割し、各セグメントのリーダーが事業戦略を立案し実行していきます。

例えば、ETC事業は品質の高い製品を素早く安く届けるためにオペレーションの最適化を追求し、ソリューション事業ではソリューションプロバイダーに進化し顧客の戦略的パートナーになっていく取り組みを進めています。事業戦略は経営層だけでなく、社員自らが当事者意識を持って考えるべきことという意識改革を促し、組織の活性化へとつながっています。そうしたベースを作ってこそ初めて、戦略実現としてのサービタイゼーションを進めていけると考えたのです。

Microsoft Dynamics 365を活用した高付加価値サービスの提供

古野電気がサービタイゼーションの第一歩として取り組んだ事業が、「生化学自動分析装置」と呼ばれる医療機器です。この装置は血液中に含まれる脂質や糖分、タンパク質などを自動的に精密測定するモノで、従来は医療機関に装置を販売することでビジネスは完了しています。

これに対し古野電気が取り組んだのが、装置を通じて得た個人情報をマスキングした状態でクラウド上に蓄積し、それらのデータをMicrosoft Dynamics 365を通じて分析し、さらにSNSと連携することで付加価値の高いサービスを提供して顧客満足度を向上させるというものです。

また、保守業務においては、装置の異常を知らせるアラートがMicrosoft Dynamics 365に知らされると、その情報が素早く営業担当者のスマートフォンに通知され、通知受けた営業担当者は医療機関に駆けつけて障害が発生した装置の写真をスマートフォンで撮影し、SNSを通じて報告を行います。その報告もMicrosoft Dynamics 365に収集され、それを上司が確認するといったプロセスでフィールドサービスの迅速性を飛躍的に高めています。

さらに、クラウドに蓄積したデータをAIで分析し、予兆保全や製品開発に活かすことも重要なテーマだとしています。生化学自動分析装置の測定では試薬を使います。これをMicrosoft Power BIを使って装置の稼働状況を分析し、試薬の残量を正確に割り出すことで試薬がなくなりそうな段階で医薬品担当者にその試薬の補填を提案できるというわけです。これにより、装置販売後のサービタイゼーションだけでなく、試薬という消耗品ビジネスにも参入することができます。

何をサービス化し、どう提供すべきなのかを考える

サービタイゼーションの成否を分けるポイントはやはり、何をサービス化してどう提供すべきなのかを考えるところにあります。そのためには自社製品やサービスについて改めて理解すること、現状の経営課題を明確にした上で適切な解決策を考案し、組織が一体となってサービタイゼーションへ取り組むことが重要になるでしょう。

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