現在では、さまざまな企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいます。デジタル技術を駆使し、新たな製品・サービスの創出や業務プロセスの再構築を目指すDXですが、近年では店舗型ビジネスの世界でも注目を集めています。本記事では、店舗型ビジネスにDXが必要な理由や、得られるメリットなどを解説します。
店舗DXとは、店舗の業務プロセスにデジタル技術を加えることによって、新しい顧客体験や業務効率化、コスト削減などを目指します。店舗DXは費用や手間がかかるため、店舗だけでなく企業全体で取り組むことが必要です。DX化に成功した場合は、さまざまなメリットをもたらす可能性があります。
店舗DXとはデジタル技術を導入して店舗ビジネスを変革すること
DX(Digital Transformation)とは、デジタル技術を活用することでビジネスにおいて変革を進め、競合他社に対して優位性を確立することです。店舗DXとは店舗体験と店舗運用といった2種類のDXが挙げられます。
店舗体験とは店舗での業務をデジタル化したものであり、アバターを使った仮想店舗やWeb上での接客ツールなどが例として挙げられます。店舗運用とはキャッシュレス決済やセルフレジなど、運用業務をデジタル化したものです。
店舗型ビジネスにDXが求められる理由
そもそも、どうして店舗型ビジネスにDXが必要なのでしょうか。さまざまな理由が考えられますが、特に大きな理由としてはモノの価値が変化し、モノが売れない・売れにくい時代へと変わったことが挙げられます。以下で詳しく見ていきましょう。
モノの価値の変化
かつては、モノを購入して所有することが一種のステータスでもありました。ただ、日本の経済はいまだ好況とはいえず、高価な買い物を躊躇してしまう方が増えているのも事実です。
こうした背景から、サブスクリプション型や使い放題サービスが台頭しました。現在ではコスメや衣類、フレグランスなどさまざまなサブスクリプションサービスがあり、毎月定額で利用できます。このようなサービスが増えたことも、人々があまり買い物をしなくなった理由といえるでしょう。
消費者のニーズは、時代により大きく変化します。そうした変化へいかに対応できるかが、これから先の小売業界で生き抜くためには重要です。
モノが売れない・売れにくい時代へ
小売業界で成長を続けてきた企業の多くは、あらゆる企業努力により、他社よりも高品質な製品を生み出してきました。こうした努力によって消費者の信頼を勝ち取り、利益を拡大し続けてきたのです。しかし時代が変わり、現在では小規模な企業であっても、ノウハウや品質のよい原材料を仕入れできるようになり、他社との差別化がしにくくなりました。
どこで購入しても高品質なものが手に入り、しかも長く使い続けられるため、人々はあまり買い物をしなくなったのです。製品やメーカーにこだわってモノを買う人が少なくなり、一度購入したものを長く使い続ける時代へと変化したことが、モノが売れない・売れにくいといわれるようになった理由です。
店舗DXの実現で得られるメリット
店舗DXを実現すれば、顧客満足度の向上が期待できます。また、省力化や無人化によって、人的コストの削減や勤怠管理の効率化につながるなど、さまざまなメリットが得られます。正しくメリットを理解し、店舗DXに取り組んでみましょう。
顧客満足度の向上
顧客のニーズを汲み取り、満足度を向上させることが顧客離れを防ぎ、新規顧客の獲得にもつながります。実店舗だけでなく、オンライン販売も併せて始めるのもひとつの手です。「店舗で獲得した顧客情報をもとに、オンラインで顧客へおすすめのアイテムを紹介する」といった手もよく用いられています。
反対に、オンラインで顧客に有益なコンテンツを発信し、実店舗への集客を促す方法もあります。たとえば、「店舗で使えるお得なクーポンを配布する」「ネット会員限定で実店舗割引を実施する」などです。このように、デジタル技術をうまく活用すれば、さまざまな方法を組み合わせて顧客満足度向上につなげられます。
省力化・無人化
小売業界が抱える問題のひとつが、慢性的な人手不足です。人材を採用するにもコストがかかり、業務を覚えたころには辞めてしまう、といったケースは少なくありません。店舗DXを実現すれば、店舗の省力化や無人化が可能となるため、人材不足の問題を解決できます。
業界によっては、セルフレジやセミセルフレジを導入し、少人数での店舗運営に成功しています。海外のコンビニでは、すでに完全無人化に成功した例もあるのです。またAIを活用し、売場の商品が少なくなるとアラートで通知してくれるシステムを導入すれば、少人数化や機会損失の回避、コスト削減が実現します。
勤怠管理の効率化
シフトの調整やタイムカードの確認、給与計算などには手間と時間がかかります。そこで、これらを一元管理できるITツールを導入すれば、人的コストを削減でき、担当者の負担も軽減できるでしょう。
勤怠管理ツールには、打刻漏れを回避できる機能が備わったものもあります。打刻漏れがあると、人事部は本人への事実確認をしなければならず、手間と負担が増大します。このような問題も、管理ツールを導入すれば解決します。現在では、導入しやすく使いやすいツールがいくつもリリースされているため、この機会に導入を検討してみてはいかがでしょうか。
コスト削減
小売業において、もっとも財政を圧迫するのは人件費です。デジタル技術を導入し、今まで人の手で行っていた業務を自動化・簡略化できれば、人的コストを削減できます。たとえば、データ入力のような単純作業も、ITツールを導入すれば効率化が可能です。
また、在庫管理も手間やコストがかかる業務ですが、これもDXにより効率化できます。AIやITツールを活用すれば、在庫状況を自動的に管理でき、状況把握も容易になります。
キャッシュレス化
海外に比べると、日本のキャッシュレス化は遅れているものの、今後は広がりを見せると考えられます。DXを実現すればキャッシュレス化が実現し、従業員のレジ打ち業務における負担軽減や、人的コストの削減が可能です。
すでにコンビニやスーパーなど、さまざまなところでキャッシュレス化は広がりを見せています。経済産業省も、2027年までにキャッシュレス化を推進すると発表しています。キャッシュレス決済が普及すれば、キャッシュレスに慣れている外国人観光客を誘致する効果も期待できるでしょう。
店舗DXを進める上でのポイント・注意点
店舗DXを進める上で次のポイントや注意点が挙げられます。
- 店舗DXの目的を明確化してから進める
- 最初から広範囲に導入しない
- 経営陣と現場メンバーで連携を行う
- 費用対効果を検証し続ける
- 必要に応じてツールを導入する
1つずつ詳しく見ていきましょう。
店舗DXの目的を明確にしてから進める
店舗DXを進める上では、導入する目的を明確にすることが重要です。導入目的は月間売上の向上や人件費の削減率など、具体的に設定することでより効果的なDX戦略の立案や効果測定ができます。また目的が明確であれば、DX化するにあたって適切な方法を選びやすくなります。
店舗DXにはさまざまな種類があり、目的に合わないツールを導入しても成果につながらない可能性があります。目的を達成できるツールを選ぶことが重要です。
最初から広範囲に導入しない
店舗DXは最初から広範囲に導入するべきではありません。まずは必要な部分から狭い範囲でのDX導入が重要です。特に、初めてデジタル技術の導入をする企業では慣れない従業員が多く、浸透するまでに時間がかかるでしょう。
いきなり広範囲に導入すると、現場が従来通りの営業をできない可能性があります。そのため、狭い範囲で少しずつ導入することが重要です。たとえば、これまで紙で管理していたものを電子化するだけでもデジタル化といえるでしょう。
経営陣と現場メンバーで連携を行う
店舗DXを進める上では、経営陣と現場メンバーとの連携が重要となります。店舗DXは経営陣を中心にプロジェクトを進めることが一般的です。経営陣が率先してDX化を進めていけば、店舗や企業の従業員全体にDX化を浸透させることができるでしょう。
さらに、DXの推進の具体的な内容は経営陣だけで把握せずに現場のメンバーにも伝えることが必要です。実際にデジタル技術を活用するのは現場の店舗であるため、導入するタイミングや導入時の注意点などは共有しておきましょう。
費用対効果を検証し続ける
店舗DXは導入したら終わりではなく、定期的に効果測定を行うことが重要です。効果測定において費用対効果を算出し、DX運用を継続するべきかどうかを判断します。たとえばRPA(PC内で完結する簡単な業務を自動化するシステム)を導入しようとしている場合、必要な費用と生産性の向上やコスト削減などの効果を比較することが大切です。
DXを導入した効果が、必要な費用を上回った場合は費用対効果が出ています。効果測定は1度ではなく、継続的に確認することが重要です。
必要に応じてツールを導入する
店舗DXにはさまざまな種類があり、目的に合わせたツールを予算内で導入します。導入においては、通常の店舗運用に影響がないか確認することが重要です。これまで活用していた基盤システムからシステムを新しくする場合、何らかのトラブルでデータを紛失してしまう可能性はゼロではありません。
顧客情報や売り上げ情報が漏洩した場合、大きなトラブルになる可能性があるため注意が必要です。そのため、信頼できる業者に依頼することが大切です。
店舗DXを推進するツールの種類を紹介
店舗DXを推進するツールには次のようにさまざまな種類があります。
- オンライン接客ツール
- キャッシュレス決済ツール
- 予約管理ツール
- 顧客管理ツール
- モバイルオーダーツール
そのため、店舗DXの導入目的を達成できるツールを選ぶことが重要です。1つずつ見ていきましょう。
オンライン接客ツール
オンライン接客ツールとは、顧客に対して商品の説明から販売までをWeb上で進められるツールです。そのため、顧客は店舗に行くことなくスムーズに買い物ができます。店舗側にとっても接客の負担が減るため、残業時間の軽減や多様な働き方への対応など働き方改革への対策にもつながります。双方にメリットがあるため、さまざまな業界で需要が高まっています。
キャッシュレス決済ツール
キャッシュレス決済ツールとは、現金払い以外の支払い方法ができるツールです。クレジットカードをはじめ、QRコードや電子マネー、スマートフォンでの支払いなどさまざまな支払い方法を可能にします。
店舗のスタッフが直接現金に触れないことから、感染者対策にもなります。このように顧客にとってもメリットが多く、顧客満足度の向上につながります。
予約管理ツール
予約管理ツールとは、オンラインで予約を受け付けられるツールです。名前や連絡先などの予約情報はクラウドシステムにおいて一括で管理できるのが一般的です。オンラインで24時間予約できることから、顧客満足度の向上や機会損失を防ぎます。
これまで直接店舗や電話でのみ受付をしていた店舗にとって、従業員の負担を減らせるため業務効率化にもつながります。
顧客管理ツール
顧客管理ツールとは、顧客が注文した商品や来店日時、その他顧客に関する情報などを一元管理できるツールです。顧客の情報を把握することで、顧客一人ひとりに合わせたサービスを提供できることから他店との差別化を図れます。
来店日時や注文した商品などのデータを蓄積することで、効率的なマーケティング施策につなげられます。
モバイルオーダーツール
モバイルオーダーツールとは、店内にてスマートフォンやタブレットなどを使って、注文から決済まで完結できるツールです。新型コロナウイルスの影響により、できるだけ接触を避けたい顧客が多いことからモバイルオーダーツールの需要が高まっています。顧客のニーズを満たしているため、顧客満足度向上を期待できるツールです。
店舗DXの最新トレンド
店舗DXの最新トレンドは「バーチャル店舗」「オンライン接客」「体験型ショップ」などです。トレンドはどんどん変化を続けますが、現段階においては最新であるため、覚えておいて損はありません。以下でそれぞれ詳しく見ていきましょう。
バーチャル店舗
仮想空間で店舗運営を行うスタイルです。インテリアや不動産、家具業界などで導入している企業が多く見受けられます。オンライン販売と混同されやすいですが、お客様は3D化された店内を見てまわることができ、接客も受けられるメリットがあります。
店舗側としても、画面越しにお客様へおすすめの商品を案内できるため、一般的なネット通販よりも購買を促しやすいのがメリットです。
オンライン接客
三越伊勢丹やオルビスなどが導入していることでも知られています。ビデオ通話やチャットボット、SNS、VRなどを使い、オンラインで双方向のやり取りを行います。
近年では新型コロナウイルスの感染拡大により、実店舗での接客が難しくなりました。オンライン接客がトレンドとなったのは、新型コロナウイルスの影響もひとつの要因です。大企業も導入していることから、今後さらに多くの企業が取り組みを始めるものと考えられます。
体験型ショップ
一般的な小売店のように、商品を売るのが目的ではなく、体験してもらうこと自体を目的としているのが体験型ショップです。体験型ショップが注目を集めたのは、2020年8月にサンフランシスコ発の小売店「b8ta」が日本へ上陸したことがきっかけです。お客様に新たな発見や体験をしてもらうこと自体を目的としたビジネスモデルは、当初大きな話題となりました。
ANF(Azure NetApp Files)で店舗DXを実現
店舗DXを実現するにあたり、「ANF(Azure NetApp Files)」を導入してみてはいかがでしょうか。ANFとは、Azure上で動作するクラウドストレージサービスです。ストレージ運用が不要となるため、ストレージの管理コスト削減を実現できるのがメリットです。
また、テレワークへのスムーズな移行もサポートしてもらえます。小売店でも、業務によってはテレワーク化が可能なので、コスト削減効果も期待できるでしょう。従量課金制のため、運用コストも抑えられます。
実際に店舗DXを実現した企業例3選
さまざまな店舗が店舗DXを導入することで、業務効率化や新しい顧客体験を生み出しています。次の3店舗においての導入例を説明します。
- 東急ストア
- ユニクロ
- スターバックス
スーパーマーケットの事例1/東急ストア
東急ストアではリアルタイムに在庫を確認するためにDXを導入しました。在庫管理にとどまらず、惣菜の値引き化を最適化したりネットスーパー対応時のピッキングなど、さまざまな分野においてDXを導入しています。
2020年の売上向上と比例して商品管理におけるスタッフの負担が増えていたことが課題でした。そこで、DXを導入してバックヤード業務をデジタル化し、業務負担軽減に成功したのです。リアルタイムに在庫確認ができるようになり、品切れの防止、顧客満足度向上にもつながっています。
スーパーマーケットの事例2/イオン
「レジゴー」は、レジの待ち時間解消のために開発されたイオンのサービスです。
専用のスマホアプリをダウンロードして、顧客が商品のスキャンを自身で行います。カートにはスマホホルダーが設置されているため歩きスマホの心配はありません。
会計は専用レジにて行いますが、商品のスキャンは済んでいるので通常のレジに比べるとスムーズに完了します。
レジゴーの導入で、待ち時間の解消と顧客満足度の工場につながりました。
飲食店の事例/スターバックス
スターバックスではカスタマイズなどでオーダーに時間がかかるため、レジでの対応に時間を取られていました。このため、待ち時間が長くなり顧客満足度の低下やスタッフの負担が大きくなるなどの課題があったのです。
そこで、列に並ぶ前に顧客がオーダーや決済をできるMobile Order&Payを導入しました。これによりスタッフの負担や顧客の待ち時間が減少しました。
まとめ
モノの価値が変わり、モノだけでは売れない時代へと変化した今、多様化するニーズに対応するために店舗DXが求められています。本記事では、店舗DXを推進するためのツールや実際の事例などをご紹介しました。店舗DXを実現できれば、顧客満足度を向上させつつ、小売業が抱えるさまざまな課題を解決できます。ANFなどのITツールの導入も検討しながら、DX実現に向けて取り組みを始めましょう。