企業がデジタル化を目指すためには何が必要でしょうか。昨今目にする「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の前には、「デジタイゼーション」や「デジタライゼーション」といった段階があり、いずれも非常に重要です。本記事ではそれぞれが意味することを説明し、実践イメージを持てるような具体例をご紹介します。
デジタイゼーションとは一体何なのか
まず、デジタイゼーションとは何か、意味や特徴、具体例について解説しましょう。
デジタイゼーションの特徴について
デジタイゼーションは英語の「Digitization」で、「業務のデジタル化」を意味する言葉です。これまで紙や人の手を使ったアナログ作業によって管理していた業務を、IT技術を使ってデータベース化するだけで、効率化と人的ミスの軽減を目指せるようになります。デジタル化のステップを考えたときには、最初に目指すべき姿といえるでしょう。
デジタイゼーションの具体的な例
具体例は以下のようなものと考えるとイメージしやすいでしょう。たとえば、最も代表的なものは「紙の書類の電子化(クラウド上での保管)」です。紙の書類をストックしなくて済む分、保管場所が不要となり、わずらわしいセキュリティ管理からも解放されるメリットがあります。
また新型コロナウイルスの感染拡大や働き方改革によって広く浸透してきたテレワークでは、オンライン会議を行うシーンも増えました。これも従来、会議室での対面会議をデジタル技術によって進化させたデジタイゼーションの形といえるでしょう。さらにタブレットやスマートフォンなど、さまざまなモバイル端末を導入し、いつでもどこでもシステムやアプリケーションにつなげられる環境を整備することもデジタイゼーションの一環として実施されています。
"デジタライゼーション"とは何か
似たような言葉に「デジタライゼーション」があります。ここでは意味するものと特徴、具体例について解説します。
"デジタライゼーション"の特徴について
デジタライゼーションは英語の「Digitalization」で、デジタイゼーションからもう一歩進み、デジタル技術を使って、これまでなかったような新しいビジネスモデルを新たに生み出していくことを意味します。企業はこの段階になると、既存の商品やサービスを改善、進化させ、新しい顧客体験の価値を提供できるようになります。
顧客との関係性やつながりがより深くなるという点で、社内の業務をデジタル化するデジタイゼーションよりも大きな効果を感じられるようになると考えられています。また、デジタライゼーションを進めると、これまでかかっていた時間やコストを削減し、時代の変化に合わせてスピード感を持ってビジネスを実現できるようになるのもメリットだと捉えられています。
デジタライゼーションの具体的な例
身近な例には、コンビニエンスストアのPOSレジが挙げられます。デジタライゼーションに取り組む前は、いつ・どの商品を発注するのかといった判断は人の手でExcelのマクロ機能などを使って分析し決定していました。その後、POSレジが登場したことで過去の販売データなどをもとに自動的かつ多角的に予測できるようになりました。つまり人的負担は必要最低限となり、より精度の高い発注から販売までの処理を行えるようになったのです。
また、毎日のデータ処理など、同じような作業の繰り返しを手作業で行っていれば、RPAを使って自動化するのも事例の1つです。製造業であれば、わざわざ現場へ赴くことなく、カメラやセンサーを使って常時モニタリングすることで効率化や人件費などのコスト削減を図ることも挙げられます。さらに最先端のIoT技術やロボット技術を駆使して、業務をシステム化すれば、人はより創造的で付加価値のある仕事に専念できるようになるでしょう。
デジタライゼーションとデジタイゼーションの違い
では、この2つにはどのような違いがあるのでしょうか。まず、はじめに紹介したデジタイゼーションは、単純にデジタル化を進めることに尽きます。ビジネスプロセスは何ら変化せず、いわゆるアナログだった作業をデジタルに置き換えることに重きを置きます。
一方、デジタライゼーションはデジタイゼーションよりさらに進んだもので、既存のビジネスから新しいビジネスモデルを創出するステップに移ります。つまり、ビジネスプロセス自体を変革することも含まれるため、規模は自ずと大きくなります。デジタル化へのステップは決められた順番があるわけではありませんが、通常はデジタイゼーションの次の段階がデジタライゼーションになると考えてよいでしょう。
よく聞くDXとは何のこと?
昨今よく耳にするようになったDXについて意味や特徴を解説します。また、前述のデジタライゼーションと何が異なるのかについても紹介します。
DXの特徴について
DXは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略で、デジタル化の浸透した最終段階を指す言葉です。2004年にスウェーデンのウメオ大学、エリック・ストルターマン教授が提唱した概念で、「ITが社会に浸透することで、人々の生活があらゆる面でよりよい方向に変化すること」と定義しています。
日本においては、経済産業省が2018年9月に発表した「DXレポート」をもとに各企業が具体的に実践していくための「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」、また2019年7月に各企業が簡単に自己診断を行える「DX推進指標」を提供している中で、DXを以下のように定義付けています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
(引用元:https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc2.pdf)
つまり、企業がDXを積極的に推進することで、業務プロセスを見直し、組織体制や企業の文化を変革できるようになります。また社会的にみても、そのような動きが期待されているといえます。
DXとデジタライゼーションの違いと関係について
DXがデジタル化の最終形態とすると、その前段階のデジタライゼーションとどのような点で異なるのでしょうか。DXは、IT技術を使って企業価値を高め、消費者に還元することでより豊かな社会を形成する営みという幅広い意味で捉える概念です。そのため、自社のデジタル化や発展だけではなく社会全体で変革していくというイメージが大きいといえるでしょう。
その点、デジタライゼーションはあくまで一企業の枠組みの中で、業務のプロセスを変革することにとどまり、DXへの足掛かりをつくる段階です。それゆえに、企業がデジタル化を検討する際には、デジタイゼーション→デジタライゼーション→デジタルトランスフォーメーション(DX)といった3段階で進めていくことが望ましいといえます。
まとめ
デジタル化を進めるためには、デジタイゼーションでアナログ業務からの脱却が必要です。達成すれば、次にデジタライゼーションでビジネスモデルの変革が可能となります。そして、DXで豊かな社会の形成を目指していくのです。3者の違いを理解し、自社にとって必要な取り組みは何かについて考えてみてください。