通信業界の様相は、以前と比較して大きく変化しています。この記事では、複雑な通信業界とは具体的にどんなものか振り返ると共に、市場規模などの現状を紹介します。その上で、変化し続ける通信業界ではどんな課題があるのかも解説します。
情報インフラの基盤となる「通信業界」とは?
通信業界とは、広く電波や通信に関わるサービスを運営する業種を集めた業界のことです。具体的にはインターネット回線などの通信インフラを扱う「通信業」、テレビやラジオの放送を行う「放送業」、インターネット上でさまざまなコミュニケーションを生み出す環境を提供する「デジタルプラットフォーム事業」などがあります。
通信業界の範囲について
通信業界には、どんな事業を行う業種が含まれるのか、より詳しく見ていきましょう。
まず通信業は、自宅やオフィスといった決まった場所でのインターネット接続を提供する「固定通信」と、移動中のインターネット接続を提供する「移動通信」に分類されます。固定通信には光回線やADSL、移動通信には「4G」や最近注目される「5G」などが含まれます。
次に放送業界に含まれる業種とは、マスメディアです。民放各テレビ局やNHK、ラジオ局などが該当します。
デジタルプラットフォーム事業とは、インターネット上で多様な「コミュニケーションの機会」を作るためのさまざまな業種が含まれています。たとえばコミュニケーションの環境を提供するTwitter・Facebook・LINEなどのSNS、商品取引の機会を提供する通販などのショッピングモール、さらにはホテルや航空機の比較検索サイトなどもデジタルプラットフォーム事業の1つです。
このように一口で「通信業界」と言っても、さまざまな業種が混在しています。
通信業界の現状|市場規模と今後の推移
それでは現在の日本における通信業界の市場規模はどのくらいで、どのように推移しているのでしょうか。総務省がまとめた「ICT の経済分析に関する調査 報告書」によれば、広義の「情報通信産業」全体における2017年の市場規模は約99兆円、そのうち通信業は19兆円と2割近くを占めています。
さらに直近5年間の推移をみていくと、5年前の2013年では全体の情報通信産業全体の市場規模が約92兆円で、約7兆円も伸びています。さらに通信業の市場規模は2013年では16兆円だったことから、2017年までに3兆円ほど拡大しています。
日米における情報通信業の比較
日米の情報通信業を比較してみると、2000年時点を100としたときの実質国内生産額の指数は、2017年時点の日本は114.7となっています。しかし米国は145.1であることから、伸び率に大きな差が生じていることがわかります。米国は直近5年間でみても、2013年の123.7から2017年の145.1と大きく伸びています。
次に部門ごとの推移に注目してみましょう。日本の通信業は2000~2017年の長期的なスパンでは、年平均2.9%の成長を記録しています。日本の2016~2017 年動向を見てみると、「インターネット附随サービス」の伸び率が8.5%と最大ですが、「情報通信関連製造業」は2.7%増、「情報サービス業」2.6%増となっています。
いっぽうで同じく2016年~2017年における米国の「情報サービス業」の伸び率は9.3%と非常に高くなっています。このほか「通信業」は3.7%、「情報通信関連製造業」も3.1%の成長を遂げています。同時期の日本はマイナス12.5%だったことを考えれば、相当な伸び率といえるでしょう。
米国の情報サービス業の成長要因として、経済産業省では「Google社の各種サービスやFacebook等のSNS、Appleの音楽配信サービスなどの成長が影響している」と分析しています。このほか米国の「情報通信関連製造業」の成長要因としては、「たとえば自動運転車やIoT、AIといった最新テクノロジーの台頭によって、ハードウェア産業も伸びてきていると考えられる」、としています。
通信業界の課題とは
拡大を続けている通信業界ですが、現在はどのような課題と向き合っているのでしょうか。1つずつ見ていきましょう。
IoTの拡大への対応
家電や自動車など、あらゆるモノがネットワークに接続し生活の利便性を高めるIoT時代はもうすでに始まっています。IoTは通信業界にとっては大きなビジネスチャンスであることは間違いありませんが、課題が多いのも否めません。
IoTへの対応に関する通信業界の大きな課題として言われているのが、プライバシーの問題です。いろいろなモノがネットワークに接続するようになると、そこから集められる個人情報が増えるのに加え、収集の機会が多くなるためです。通信業界は実際にどのような個人情報を集めているのか明確化するなど、ユーザーとの信頼関係を醸成していく努力を続けなくてはなりません。
セキュアな利用環境
IoTによってあらゆるモノがネットワークに接続することになると、通信の需要が増します。それは裏を返せばそれだけサイバー攻撃を受けるリスクも高まるということです。
しかし現状をみてみると、IoTによって生活がどんどん便利になっていき明るい未来予想図が描かれている反面、セキュリティに対する意識や対策が後回しになってしまっている感は否めません。もちろん通信業界はこれまでセキュリティの対策をしてこなかったわけではありませんが、今後さらなる万全な対策強化が必要です。
光回線が通ってない地域への対応
総務省がまとめた「ブロードバンド基盤の整備状況」によれば、2019年3月末の光回線の世帯カバー率は98.8%と非常に高くなっています。ほぼ全国民が光回線を使える状態になっていると言っていいでしょう。
その反面、残りの1.2%にあたる約66万世帯については光回線が使えない状態です。整備されていない地域として特に多いのが過疎地や離島、山間部です。これらの地域でもIoTが利用できるようにするためには、光回線のさらなる普及が求められます。
カスタマーサービスの需要増
通信業界に限ったことではありませんが、カスタマーサービスの品質は、企業の評判に大きく影響します。機器の故障により通信できくなったときなどに、ユーザーから寄せられる問い合わせやクレームに適切に対処できるか否かによって、企業に対するユーザーの評価が劇的に変わることもあります。そのため、カスタマーサービスの重要性や需要が増しています。
昨今では電話やメールだけでなく、TwitterなどのSNS、ライブチャット機能によってユーザーからの問い合わせを受け付ける企業も増えています。問い合わせ方法を増やしてユーザーの利便性を高めると共に、どの窓口であってもどれだけスピーディーに返答できるかも重要です。カスタマーサービスの品質を向上すれば、ユーザーの満足度もさらに高まると言えます。通信業界においては、カスタマーサービスの需要増はチャンスでもあるのです。
業界の今後の動向について
昨今、大きな進化を遂げている通信業界は今後どのように変わっていくでしょうか。ここでは、通信業界の動向に関する主なトピックを紹介します。
東京オリンピック・パラリンピックによる影響
新型コロナ感染拡大の影響により2021年夏に延期になってしまったものの、東京オリンピック・パラリンピックが通信業界に与える影響は見逃せません。オリンピック開催に向け、通信環境の品質を高めるための動きが活発化しています。
地域の課題をICTで解決するというプロジェクトもよく見かけるようになりました。公衆無線LANの環境を増やすなど、訪日外国人の増加に向け通信環境を整備しようとする動きもあります。
光回線の普及
2015年に行われた電気通信事業法の改正以降、光回線の卸売が開始され「光コラボレーション」という形で業者間の競争が促進されるようになりました。これにより光回線の普及が進んでいますが、この傾向は今後も続くと予測されます。また上述したように、未だに光回線の整備が進んでいない過疎地や山間部などへの普及も期待されるところです。
新規格「5G」の登場
移動通信の分野で見ると、新規格「5G」登場のトピックは見逃せません。5Gは、これまでの4Gと比較にならないほど通信技術が高度になっています。通信速度は4Gの20倍、通信遅延は1/4、最大同時接続数は4Gの10倍です。
移動通信技術の革新によって、社会的にも様々な変化が起こっていくことでしょう。あらゆる家電や設備がネットワークに接続され、生活の利便性が大きく高まります。また4K・8Kといった高精細な映像を日常的に観ることができるようになるなど、さらなるEC化の加速や遠隔医療、自動運転車の普及なども、5G普及により予測される未来の例です。
まとめ
通信業界の市場規模が拡大化を続けているなか、光回線の普及や5Gの登場により今後さらなる変化を続けていくことでしょう。東京オリンピック・パラリンピックが与える通信業界への影響も見逃せません。一方でセキュリティや個人情報の保護、離島・山間部へどのように高速な光回線を普及されるかといった課題も残っています。