近年、あらゆる業界の企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に関心を寄せています。AIやIoTといった技術を積極的に取り入れようとする業界がある中で、小売業界ではいまいち導入が進んでいません。この記事では、小売業にフォーカスし、AI技術を活用するメリットや実際に導入した事例について紹介します。
小売業が抱える経営課題
さまざまな業界でAI(Artificial Intelligence=人工知能)やIoT (Internet of Things =モノのインターネット)の導入・活用が進むなかで、小売業界では導入が遅れているという声も少なくありません。小売業界が抱える経営課題には、慢性的な人手不足や発注・在庫の管理にかかる時間的負担などが挙げられます。にもかかわらず、DXの波に乗り切れず、現在のシステムから移行できずにいる企業も多いです。これらの問題について、以下で詳しく解説します。
人材不足
まず、課題として挙げられるのが人手不足です。少子高齢化社会である日本において労働人口の不足は深刻です。とくに小売業においては、給料の低さもさることながら、人手不足からくる一人当たりの労働時間の長さが問題として提起されています。
オフィス勤務の場合、カレンダーどおりに営業する企業が多いですが、店舗を必要とする業態ではほとんどの場合シフト制をとっています。この働き方では休みの取りにくさが原因となって、新しい人材が入ってこないのです。
また、チェーン展開していない小さな店舗であればあるほど、従業員の経験や勘に頼っている業務も多いです。後継人がいないまま属人化が進むことは解決すべき喫緊の課題といえるでしょう。少子高齢化社会は当面つづくものと見られ、さらにこの問題は加速すると予測されています。
発注管理・在庫管理
どんな仕事においてもヒューマンエラーを100%防ぐことは難しいものです。そんななか、小売業においての発注ミスや在庫の管理ミスは利益に直結しており、一度のミスから受けるダメージは非常に大きいといえるでしょう。
また、天候や日程などによってその日の売り上げが左右されることから、先読みしながら仕入れを行うのも容易くありません。とくに食品を扱う企業においては、消費期限があるため、食品ロスにも気を使う必要があります。消費期限が切れてしまったものは廃棄処分にせざるを得ません。これらを踏まえ販売機会の損失を出さないように管理しようとすると、設備投資やそれに基づく人件費など膨大な管理コストが必要になります。
デジタルマーケティングへの移行
ECサイトの展開やOMO(Online Merges with Offline)といった、店舗に足を運ばなくてもモノがスムーズに購入できるデジタルマーケティングへの移行が思うように進まないというのも小売業の課題として挙げられます。とくに、新型コロナウイルスの感染拡大により、店舗で品物を購入する人が減ったり、店舗自体が営業できなかったりといった、誰もが予測しなかった事態が発生しました。
日本のみならず世界各国において、感染状況に応じた家での自粛が推奨されることとなり、それに伴い巣ごもり需要が増加しました。今後感染が落ち着いたとしても生活スタイルはもとに戻りにくいという声もあります。消費者はサブスクリプションやシェアリングエコノミーといったビジネスモデルを利用するようになり、価値のあるモノだけを購入する時代に向かっているのです。
また、店頭で商品を購入する際はキャッシュレス決済を求める消費者も増えているため、消費者のニーズにあったマーケティングが小売業界にも早急に求められています。
小売業がAI活用によりできること・メリット
では小売業においてAIを活用することで起こるメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。以下で詳しく解説します。
データ活用した定量的な需要予測
AIは機械学習を得意とするため、特定の分野における大量のデータを分析し、そこから法則や規則を見つけ出すことに長けています。
POSシステムやID-POSの活用が小売業で一般的になってからは、購入者の膨大なデータを蓄積し、そのデータから傾向や分析などが行えるようになりました。しかし、これはあくまで商品を購入した人のデータであり、購入していない層の見込み需要には対応できません。
AIを活用すれば、顧客の購入履歴といったデータはもちろん、経済の動向やその地域の人たちの消費傾向、日々の天気やカメラを使った消費者の動きなど、多角的な視点から定量的な需要を予測できるようになります。分析結果をもとに発注等を行うことで、利益を損失するような大きな発注ミスなども発生しにくくなるでしょう。
発注システムの自動化
前述した定量的な需要が予測できたら、次に活用したいのが発注システムの自動化です。
店舗によっては人手不足を理由に発注業務が属人化していることも多く、発注量やタイミングなどはこれまでの経験や勘に頼って行われるケースも多いのが現実でした。しかし、それを継続的に行っていると、いつまでも同じ従業員に頼らねばなりません。その従業員が辞めてしまったら、それまでの均一性や正確性が実現できないといった課題を抱えることになります。
その部分を今後AIでまかなうことにより、ボタンひとつでシステムを通じて発注することが可能です。さらには、リアルタイムでカメラを使った監視をすることで、陳列状況や欠品情報を把握するシステムも登場しています。すべてをAIで完結することが難しい場合でも、要所要所でAIを活用すれば、人手不足といった問題も解消され、生産性の向上や業務効率化にもつながるでしょう。
小売業におけるAI導入の事例
最後に、小売業でAIを導入し成功した事例についてまとめました。主に消費者にとって身近な存在であるコンビニエンスストアの事例をピックアップして紹介します。
まず、大手コンビニエンスストア・ローソンでは、2015年から「セミオート発注システム」を導入したり、自動釣銭機付POSを導入したりと、コンビニエンスストアのなかでもいち早くAI技術を活用しています。セミオート発注システムでは、販売状況やポイントカードの情報、天候などといった100あまりのデータをもとに、AIが発注数を割り出してくれます。発注数決定の際には、消費期限が短めの食品に対して気を遣うことも多く、そこに費やす時間が短縮されることで業務効率化にもつながるうえ、食品ロスも防げます。また、人手不足が叫ばれるなかでのレジの自動化は、店舗スタッフの負担軽減につながりました。それと同時にお客さまがレジに並ぶ時間も短縮されれば、顧客満足度の向上にも寄与するでしょう。2019年には電子決済対応のセルフレジを全店舗で導入しています。
ファミリーマートはパナソニックと提携し、AIやIoT技術を駆使した、次世代型コンビニエンスストアの開発に取り組んでいます。2019年4月、実現にむけて、まず横浜市都筑区に実験的な店舗をオープンさせました。入店前にクレジットカードの情報や顔の写真を登録しておくことで、購入する際に情報を利用できるようになっています。また店内に設置したカメラやセンサーを用いて、入店してくる人の性別や年齢などの情報を分析することで、発注や商品管理に活かせるといったメリットもあります。
セブンイレブンでも、店舗の人手不足を解消するための施策として、AI技術を活用し、発注数が算出できるシステムを開発しました。導入することでこれまで発注業務にかかっていた労働力の削減につながることが明らかになり、今後もさらなる省人化を目指すとしています。
上記で紹介したコンビニエンスストアの事例だけでなく、生鮮食品を取り扱っているスーパーや百貨店においても、仕入れの業務などAIを導入して改善しようとする企業が近年増えつづけています。
まとめ
AIを積極的に活用することで、小売業が抱える人手不足や、発注・在庫管理にかかる業務負担といった様々な問題を解決に導けます。今後も少子高齢化が進む日本において、労働力不足は避けられない問題です。それを解決するためにはAIの活用が一番の近道です。この記事を参考にし導入を検討してみてはいかがでしょうか。