今後人口減少が見込まれている日本では、産業における人材不足が深刻化しています。それは製造業でも例外ではなく、今後はデジタル化をはじめ、効率的な生産を推進することが重要です。この記事では、デジタル変革の鍵となるスマートファクトリーやデジタルツインについて解説します。
経済産業省も推進する製造業のデジタル化
製造業では、デジタル化による生産効率化が推進されています。これは企業だけではなく、経済産業省も推進している変革です。
つまり、民間企業だけではなく、官民で協力して推し進めているのです。経済産業省は「2019年版ものづくり白書」を発表し、製造業のデジタル化に向けた指針を示しています。
具体的には、日本の製造業の現状や抱える課題を整理し、その解決策のひとつとして「デジタル化」を位置づけています。
深刻な人材不足を追い風として捉え、人間とAIやIoT、ロボットが協働して省力化を目指すと明言しているのです。
製造業×デジタル化の最先端「スマートファクトリー」
製造業のデジタル化をイメージする際、最初に浮かぶのは工場の省力化をはじめとした「スマートファクトリー」でしょう。
つぎに、スマートファクトリーの概要やメリット、導入する際の課題について解説します。
スマートファクトリーとは?
デジタル化のなかでも業界で脚光を浴びているスマートファクトリーとは、あらゆる設備や機器がインターネットを介してつながっている工場のことを指します。
インターネットでつながることで、人工知能も駆使しながら、設備の使用状況や状態などがリアルタイムに把握できます。
これにより、品質を保ちながら状況に応じた最適な稼働体制を採ることが可能です。スマートファクトリーとはハイテクという面だけでなく、この点においても「スマート(=無駄がなく手際が良い)」な工場なのです。
スマートファクトリー化するメリットとは?
製造業では、製品の生産にあたり多くのステップを踏みます。従来であれば、工程ごとに設備や備品などが最適化されていますが、全体の工程を俯瞰して考えると必ずしも最適化された状態ではありませんでした。
スマートファクトリーになり、全ての機器・設備の稼働状況やエネルギーの消費量などを把握し、データとして蓄積できるようになると、現状の生産ライン全体における非効率な部分を洗い出し、その課題解消を図ることが可能になります。
また、スマートファクトリーは、機器や設備など「機械」に焦点が当てられることも多いですが、実は「人」に対しても活用できます。
生産において、従来は熟練度の高い職人に依存する部分も多く、しかもその「熟練度」は可視化・数値化することが困難でした。
しかし、人やモノがインターネットでつながることで、人の作業もデータとして蓄積することができ、若手をはじめとした人材育成における技術伝承に役立てられます。
スマートファクトリー化の課題
メリットの大きいスマートファクトリー化も、その実現には課題があります。そもそも、スマートファクトリー化には膨大な資金と時間の投入が必要です。
スマートファクトリー化を進めづらい理由としては、投資効果の測定がしづらい点が挙げられます。測定できても長期的な視点で考える必要もあり、失敗のリスクも踏まえるとどうしても導入しづらいところです。
効果測定がしづらいと感じる理由には、データをどう活用するべきかを明確にできていないことも大きいでしょう。
人や機械などの稼働や技術データを集積しただけでは、生産の効率化につなげるのは難しいです。
その解決にはデータ活用目的を明確にしたうえで、データの集め方をデザインすることが大切になります。すでにスマートファクトリー化を進めている会社においても、その投資効果を正確に測れているとは限りません。
さらにいえば、データの蓄積自体がハードルとなる可能性もあります。
すでに設置されている機器や設備がデータ収集を前提に導入されていないケースも多く、仕様も統一されていません。そのため、整理された形でデータ蓄積が可能な環境を整えることが意外と難しいのです。
また、スマートファクトリーは個別最適ではなく、全体最適の視点が必要です。スマートファクトリーの一要素であるITシステムやAI、IoTのそれぞれを最適化しただけではスマートファクトリーとしての効果は発揮できません。
企業によっては、各要素の担当者がバラバラで、意思疎通が十分にできていないケースもあります。
セキュリティの問題も製造業にとっては重要です。製造会社は、多くの場合、情報の取り扱いに慎重な姿勢を示します。開発中の製品や技術情報が外部に漏れることを警戒するからです。
インターネットを介して工場を乗っ取られるリスクもゼロではありません。スマートファクトリー化で工場のあらゆる要素がインターネットでつながることを踏まえると、セキュリティの担保が必須となるでしょう。
製造業変革の鍵となる「デジタルツイン」
スマートファクトリー化の文脈のなかで、製造業のデジタル変革において「デジタルツイン」が注目を集めています。
続いては、デジタルツインの概要やメリット・デメリット、導入事例についてご紹介します。
デジタルツインとは?
「デジタルツイン」とは、現実世界の製品や機器の情報をほぼリアルタイムに仮想空間にも再現することです。
これが「デジタルの双子」と呼ばれる所以で、IoTを活用することで、必要な情報を仮想空間に送信し、現実世界での製品や機器の動き、形状などを反映します。
デジタル空間にリアルタイムで現実の工場やモノを投影し、状況などを確認できることで多くのメリットが生じます。
デジタルツインのメリット
プロダクト生産化までのリードタイム短縮
デジタルツインを導入することで、製品の設計や製造におけるプロセスのリードタイムを短縮することができます。
リードタイムとは、設計から開発や試作、生産化にいたるまでの時間のことです。デジタルツインを活用することで、たとえばリアルな試作品を作らなくても、仮想空間においてある程度の確認を行うことができます。
そのため、試作品に要する時間が不要になるのです。
また、リードタイム短縮の副次的な効果もあります。新製品開発にかかる時間やコストを削減できるので、新製品にトライするリスクを低減できます。従来であれば難しかった挑戦も可能になり、新しいアイデアをどんどん試せるようになるのです。
製品の機能改善の精度やそれにかかるスピード向上
デジタルツインを取り入れると、既存製品の製造工程や出荷後の製品に起こる不具合、稼働状況などといったさまざまなデータが蓄積されていきます。
これらのデータを活用することで、各工程や製品出荷後に起こり得る問題などをパターン化できます。例えば、事前に問題点が洗い出せていれば、早々に改良を加えて製品を製造していけます。
また、顧客が不具合を訴えてきたときには、設計の段階で生じたものか、予想されていなかった使用方法によって起きたものかの判断が瞬時に行え、適切な処置をとることが可能です。新たに製品の課題が発見された際もデータと照合することで、より確実かつ迅速に対応できます。
アフターサービスの向上
デジタルツイン上の製品データを用いると同時に、顧客先で稼働しているデータを蓄積させ分析することで、故障やメンテナンスが必要になる時期を予測し、素早くアフターサービスを実施できるのも、デジタルツインを導入するメリットです。
不具合あるいは不具合に近い状態をあらかじめ検知しフォローを行うことで、顧客の不満を未然に防ぐことができるうえ、顧客からの信頼度も上がります。
顧客ニーズ把握の精度向上
顧客先での使用状況などもデジタルツイン上のデータと連携すれば、製品が稼働により実際に受けている負荷などを把握できるようになります。
このデータを活用することで、新製品の開発において顧客目線に立った企画や設計が行え、より顧客のニーズに合致した新製品を作ることが可能になります。
従来のシミュレーションではなく、現場のデータを収集および分析することで、市場で求められる新製品の開発や既存製品の改善につなげやすくなるのです。
デジタルツインの導入事例
デジタルツインの導入は多くの時間と費用がかかるので、先行事例を確認したい人も多いでしょう。以下では、実際の導入事例をご紹介します。
GE(ゼネラル・エレクトリック)社:メンテナンスの効率化
世界最大手の電機メーカーのひとつであるGE社では、航空機のエンジンの状況をデジタルツインによりリアルタイムで監視しています。
飛行中のエンジン状況も把握することで、飛行機が目的地に着陸する前にメンテナンスや部品交換などの作業を要する箇所が明確化され、着陸後のスムーズな整備につなげられます。航空会社にとっても、フライトスケジュールの遅延を防ぐことが可能です。
エンジンのメンテナンスには洗浄が必要ですが、燃料の特性や上空の状況など細かいデータも把握することで適切な洗浄頻度に調整でき、洗浄にかかるコストの削減につながります。
まとめ
今後の人口減少などの外部環境のもと、日本の製造業の大きな課題は深刻な人材不足です。これを解決できる可能性のあるのがデジタルツインを含む「スマートファクトリー化」です。
導入事例は今後増加が期待されますが、本格的な導入には多くの関係者の協力や準備が必要です。早い段階から導入準備や情報収集を進めてはいかがでしょうか。