労働人口の減少が社会問題となっている日本において、AIやIoTといった技術の活用は欠かせません。とりわけITの活用が遅れている製造業においては、今後の課題となってくるでしょう。そこで本記事では、製造業におけるAIの導入や活用事例、スマートファクトリーの概要や導入のメリットなどを紹介します。
製造業の現状
まず経済状況について、国内総生産(実質GDP)速報値を見ると、内閣府が2020年9月に発表したデータでは、新型コロナウイルス感染拡大の影響から、2020年4~6月期のGDPは年率換算で28.1%減少しました。これは日本における戦後最大の低下率であり、現在は徐々に増加傾向にあるものの、新型コロナウイルスが発生する前の状況には戻っていないのが現状です。
また、日本は少子高齢化社会が加速し、労働人口の減少が社会問題になっています。現在、政府は働き方改革などを掲げ、地方在住者や女性などが働きやすい環境を整え、労働人口の減少に対する施策を打ち出しているものの、なかなかすぐに改善することは難しいでしょう。中小規模の製造業においても、専門的な知識やノウハウを持った職人たちが高齢となり、それを継承する人手不足に悩まされています。労働人口の不足は、全業界が抱えている重大な問題といえるのです。
労働人口の減少とともに、諸外国と比較して日本はITの活用が著しく遅れているともいわれています。それを変革させるために、近年「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉を耳にする機会も多いかもしれません。経済産業省が2018年12月に発表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」では、DXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。
しかし、製造業においてはとりわけDX推進の遅れが顕著であり、資金不足による設備投資もなかなかできないというのが現状です。そもそもITについて理解している人材が不足している、ITを活用する資金の確保がしにくいといったことが課題としてあり、今後はそれを変えていくことが重要視されています。
製造業におけるAI導入の可能性
製造業にAI(人工知能)を導入すると、どんなメリットがあるのでしょうか。まず考えられるのは、特定の職人に属人化した作業の解消や作業の標準化が期待できることです。
負荷の大きい作業を人間ではなく機械に行わせたり、決まった定型業務をAIに移行したりすれば、作業が属人化することもなくなるでしょう。検査や生産ラインを自動化する機器(FA機器)を導入することで、人が処理するよりも遥かに速いスピードで進むため、生産性の向上が期待できます。こうして徐々にAIを取り入れて、ベテラン職人にしかできなかった業務を軽減すれば、働く人たちの満足度向上にもつながります。人に頼らずに生産計画を立てることも可能でしょう。
AIを製造業で活用する場合、どの企業においても共通していえる重要なことは、徹底したデータ集積と学習を重ねるという点です。機械学習を重ねることで、どんな工場や体制であっても生産性の向上が期待できます。
また、MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)を導入すれば、工場の生産ラインとの連携も可能です。IoTシステムと、AIによる作業の半自動化を実現することで、職人の卓越した技術もデータ化できるでしょう。
インダストリー4.0とは
日本の製造業の方向性を左右する重要な言葉として注目を集めているのが「インダストリー4.0」です。インダストリー4.0は、ドイツが製造業のデジタル化を目指して取り組んでいる国家プロジェクトです。その考え方の中核をなすのが「スマートファクトリー(考える工場)」ですが、これについては詳しく後述します。
インダストリー4.0には設計原則があります。相互運用性、情報の透明性、技術的アシスト、分散型意志決定の4つです。それぞれの特徴は以下の通りです。
- 相互運用性
工場内の人・モノやシステムを相互接続し通信することを指します。これにはIoTの活用が不可欠です。 - 情報の透明性
工場を取り巻くさまざまなデータの見える化を実現します。デバイスやセンサーを通じて集積されたビッグデータは、製品開発などに役立てられます。 - 技術的アシスト
インダストリー4.0ではデバイスやセンサーを使って、人間が行うと危険な作業をロボットに任せることで、生産現場で働く人をサポートします。 - 分散的意志決定
サイバーフィジカルシステム(CPS)を用いて観測したデータを、サイバー空間のなかで定量分析し、できり限り人の手をかけず自律化させることを目指します。
インダストリー4.0は、上記のような具体的な原則がきちんと行われてはじめて成り立ちます。
製造業×AI導入の代表例!スマートファクトリーとは?
「スマートファクトリー」とは、機械と人間が通信し合いながら、デジタルデータを活用し、生産性や品質を向上させるための概念です。スマートファクトリーには、センサーなどの感知器を使ってあらゆる情報を計測する「センシング技術」や、人間が介さなくとも機械同士で情報交換を行う「M2M」といったハードウェア技術が欠かせません。
また、あらかじめ定められた順序で制御を進めることを意味する「シーケンス制御」を行う機器(PLC)とAIやIoTの連携することで、可能性は大きく広がります。たとえば、ネットワークにPLCを接続し遠隔で稼働状況を監視できたり、AIを搭載したPLCに機械学習させることで異常を感知させられたり、といった事例が挙げられます。
スマートファクトリーを代表する機能
スマートファクトリーを代表する機能としては、まずAIによる品質管理の効率化が挙げられます。機械が行うことで、検品作業などといった定型業務でのヒューマンエラーが起こりにくくなるでしょう。作業する人間のスキルに左右されることもなくなるため、結果的に品質の均一化と作業効率を上げることにつながります。
また工場内は、人や設備などあらゆるシステムが複雑に絡み合いながら機能しています。スマートファクトリーがきちんと整備されれば、的確なデータのもとオペレーションが行われ、オートメーション化による工場の無人化も可能です。
これらが実現されれば、稼働状況が明確になり、納品場所や製造日といった固有データに基づいて、人間の指示がなくとも機械学習によって判断することが可能です。AIのビッグデータ分析による設備稼働も最適化できるでしょう。
製造業×AI導入の代表例!スマートファクトリーのメリット
スマートファクトリーの代表的なメリットとしては、次の4点が挙げられます。
- 人材育成のコスト、人件費削減
本来人間が行う作業にAIを活用することで、人件費の削減につながります。あわせて、新たに作業手順を教えるといった人材育成のコストも削減できるでしょう。 - 商品在庫の最適化
データに基づいて在庫管理をしたり、作業を自動化したりすることで、商品在庫や設備の管理が最適化できます。IoTを活用してデータ共有をし、システムにアクセスできるようになれば、工場内部の状況をいつでも・誰でも把握できるようになるでしょう。 - 工場設備の予知保全
予知保全とは、工場内の設備や機械の故障を予知し、常に最適な状態で管理することです。これまで製造業の予知保全は、熟練者でしか異常を発見できないケースがほとんどでしたが、AIを導入することで設備点検を人に依存することもなくなります。また、そこにかかるコストも抑えられるでしょう。 - 商品需要の予測
これまでは欠品を恐れて在庫を多数抱えていたり、逆に廃棄ロスを出してしまったりといった課題についても、AIを活用すれば、データに基づいた精度の高い発注数や需要予測を算出することが可能です。
スマートファクトリー導入に関する注意点
メリットの多いスマートファクトリーですが、導入に際していくつか注意点もあります。
まず挙げられるのは、最適なシステムの構築です。導入に際して、一番費用と労力を必要とするのが、データを収集できるようにするシステム環境の構築フェーズでしょう。インターネット環境に接続し、データベースとして活用するための設備がない場合は、センサーを設置したり、IoT化するために機器を買い替えたりと膨大な費用がかかります。またそれに付随して、データの収集、蓄積、分析、活用といったノウハウも必要とされるでしょう。
さらに、設備保全やソフトウェアアップデートなどのランニングコストも必要となります。また、セキュリティ対策も講じなければなりません。セキュリティ対策が甘く、外部からの攻撃によりあらゆるデータが破壊されてしまっては元も子もないので、必ず対策は万全にしておきましょう。
スマートファクトリー導入の成功事例をご紹介
最後にスマートファクトリーを導入した企業の成功事例を紹介します。
株式会社IBUKI
株式会社IBUKIでは、AIソリューション「ORGENIUS」を用いて、AIへ職人技術を継承しました。職人たちにヒアリングをし、匠の知識や技をネットワーク図によって可視化することで、効率的に若い職人にノウハウを継承することに成功。これまでベテラン職人が半日かかっていた見積もり作業も、「ORGENIUS」を活用することで約30分にまで短縮され、業務効率化を実現しました。
株式会社ダイセル
株式会社ダイセルでは、AI画像解析システムを実用化することで、製品の品質安定化につなげる仕組みを確立しました。具体的には複数のカメラで、人や設備の動きをAIが画像データとして解析し、異常を検知したらすぐさまアラートが通知されます。これにより品質向上はもちろん、工場内での不具合も未然に防げるようになりました。
久野⾦属⼯業株式会社
久野⾦属⼯業株式会社では、製造業の生産性を向上するクラウドサービス「IoT GO」を導入しています。製造工程を自動化することを目標に掲げ、業務の属人化防止や省エネに取り組むことにより、結果的に費用の削減が実現できました。
武州工業株式会社
武州工業株式会社では、生産性の向上を目的とした生産管理システム「BIMMS」を導入しています。これにより一人の作業者が、材料の調達から加工、納期の管理まで、ノンストップで行う体制が整備されました。そして「BIMMS」を活用したことで、同社は「スマートファクトリーAWARD2018」に選ばれています。
TOTO株式会社
住宅設備の製造大手であるTOTO株式会社は、BIツール導入し、クラウドに送信されたデータを工場で直接分析。導入から半年で、過去最高の歩留まりを達成しています。今後は国内にあるすべての工場でのデータ活用も視野に入れ、端末の近くにサーバを分散配置する「エッジコンピューティング」の導入も検討しています。
まとめ
製造業においてAIの導入は、今後標準的になるといっても過言ではありません。DXの波に乗り遅れないためにも、この記事で紹介したAIやIoTの活用術を参考にし、ぜひスマートファクトリーの構築を目指してみてはいかがでしょうか。そうすることで、生産性の向上はもちろん、従業員満足度のアップにもつながるでしょう。