さまざまな業界において、IoTの導入が始まっています。建設業界でもIoTは注目を集めていますが、導入することで具体的にどのようなメリットを得られるのかご存じでしょうか。本記事では、建設業でIoTを導入するメリットや、実際の活用事例などを解説します。
建設業界が抱える課題
人手不足に悩まされている業界はいくつかありますが、建設業界もそのひとつです。現場で腕を奮う職人は高齢化が進んでおり、このままいけば将来的には、さらなる労働力不足に陥りかねません。
高齢化が進んでいる原因としては、若い人材をなかなか確保・育成できないことが挙げられます。「きつい・汚い・危険」のいわゆる「3K」業種であることが、建設業界に若い人があまり入ってこない理由でしょう。
日本がバブル景気に沸いていたころは、たくさんの人が建設業界へ入ってきました。至るところに高層ビルが建設され、業界がとても潤っていたからです。しかし、この時期に業界へ入ってきた方は現在すでに高齢のため、あとどれくらい働けるかわかりません。10年後には、大半の方が引退している可能性もあります。
また、人件費が高騰していることも、業界が抱える課題のひとつです。人件費が高騰すれば当然、利益率が下がります。企業によっては、熟練の高齢職人が大半を占めていることもあり、必然的に人件費が高くなってしまうのです。
このように、建設業界が抱える課題は根深いため、企業は根本的な解決方法を模索しなければなりません。そこで注目されているのが、「IoT」の導入なのです。
建設現場にIoTを導入するメリット
IoTとは、「Internet of Things」の頭文字をとって略した言葉です。モノとインターネットを融合させた技術で、現在ではさまざまな業界でビジネスに活用されています。では、建設業界にIoTを導入することに、一体どのようなメリットがあるのでしょうか。
現場業務の効率化
現場を管理するのは、現場監督や主任の業務です。監督は、現場が問題なく動いているか、進捗はどうか、安全に作業できているかなどを、直接足を運んで確認します。もし、1日に複数の現場を回るとなれば、1現場あたりの管理にあまり時間を割けず、品質低下を招くおそれがあるほか、監督の負担増にもつながります。
たとえば、現場にカメラを設置し、ネットワーク接続して遠隔で管理できれば、こうした問題を解決できるでしょう。監督は事務所や営業所で状況把握ができるため、業務効率化と生産性の向上が見込めます。しっかりとしたシステムを構築すれば、内勤の社員が進捗や安全管理をできるため、監督が不要になり大幅な人材コストの削減も可能です。
また、IoTの導入は働き方改革の実現にも貢献します。業務効率を改善すれば人手不足を解消でき、不要な長時間労働も減らせます。長時間労働を減らせば、社員の満足度を高められるため、生産性の向上も見込めるのです。
人手不足や人件費の高騰といった課題を有する建設業界こそ、働き方改革を推進しなければなりません。そのためには、IoTの導入が欠かせないと考えられます。
安全性の担保
建設業界へ若い人が好んで足を踏み入れない理由のひとつに、業務の安全性に関する不安が挙げられます。建設現場にはさまざまな作業がありますが、高い足場の上で重量物を運んだり、重機のすぐそばで土嚢を積んだりといった危険な業務もあるのです。
IoTを導入すれば、すべてとはいかないものの、危険を伴う業務を減らせます。たとえば、「危険な場所の測量にドローンを活用する」「重機を自動化する」などが考えられます。
ドローンを活用すれば、人が足を踏み入れにくい危険な場所でも容易に測量が可能です。重機を自動化すれば、ヒューマンエラーを未然に防げるため、誤操作による作業員への衝突などの危険を回避できます。
また、IoTの導入により、作業員の負担を軽減できるのもメリットといえるでしょう。建設現場の作業はハードであるため、心身ともに疲弊してしまうことも少なくありません。その結果、集中力の低下を招き、ケガをしてしまうことも考えられます。
IoTを活用して業務効率を向上させれば、労働時間が短縮されるため、従業員の負担軽減につながります。無用な長時間労働も回避できるため、ひいては従業員の安全を守れるのです。
建設現場にIoTを活用した事例
すでに、建設業界でもIoTの導入が始まっており、大手に属する企業も積極的に導入しています。では、具体的にどのような形でIoTが活用されているのでしょうか。以下では、実際の建設現場におけるIoTの活用事例をご紹介します。
鹿島建設
「鹿島建設」といえば、日本を代表する大手建設会社のひとつです。同社では、工事のコスト削減や状況把握の迅速化などを求め、IoTを活用しています。同社におけるIoTの特徴としては、Microsoft社と連携し、自社で新たな建物管理プラットフォームを開発したことが挙げられます。
同社の開発した「鹿島スマートBM」は、設備機器の異常検知やエネルギー消費予測などを可能とするプラットフォームです。BEMSやBAS、IoTで収集したデータを蓄積し、AIが分析を行います。
鹿島スマートBMの誕生により、多くのビルオーナーが抱える課題の解決が可能となりました。管理維持コストの削減や管理の最適化、居住者の満足度維持・向上などは、ビルオーナーが抱える永遠の課題です。
鹿島スマートBMなら、設備機器の異常や故障をいち早く検知でき、スピーディな対応ができます。つまり、居住者の満足度向上につながるのです。また、建物の管理負担を軽減し省人化も図れるため、コスト削減効果も期待できます。
大成建設
「大成建設」も、Microsoft社と連携してIoTを導入・活用しています。たとえば、地震発生直後における建物の安全性を可視化するシステムが代表的です。
ベースとなっているのは、Microsoft社のAzureとWindows 10 IoTベースのエッジデバイスです。この2つを活用したシステムで、地震発生直後における建物の安全性のスピーディな可視化に成功しました。
従来では、地震が起きてから少し間をおいて、専門の調査員が現地に赴き調査を行っていましたが、それでは時間がかかりすぎてしまいます。その間、建物を使用できるかどうかわからず、時間もムダにしてしまうのです。このシステムを使えば、地震発生直後に建物の安全性を速やかに可視化できるため、管理者は使用の可否を素早く判断できます。
Ynomia
「Ynomia」は、オーストラリアのメルボルンを拠点とするスタートアップ企業です。同社では、Bluetoothをベースとしたセンサー技術を建設現場に持ち込み、人員や資材のトラッキングを可能にしました。
建設現場の規模が大きくなると、資材や作業員の所在の把握が困難です。その結果、作業の効率が低下し、進捗が滞ってしまうことも少なくありません。こうした問題を解決するため、同社ではBluetoothセンサーを用いたトラッキングソリューションを開発したのです。
この技術により、現場の管理者は資材や人員、工具などがどこにあるのかをリアルタイムで把握できます。たとえば、目的とする資材の場所がわかれば、一番近くにいる作業員へ連絡をとり対応させるといったことが可能です。業務効率化はもちろん、生産性の向上効果も期待できるシステムです。
この技術は、すでにイギリスやメルボルンの建設現場で導入されており、たしかな実績があります。オーロラメルボルンセントラルやグレンショッピングセンター、ウエストサイドプレイスなど、名だたる建造物の工事に同社の技術が採用されています。この事実からも、いかに優れた技術なのかが理解できるでしょう。
まとめ
建設業でIoTを導入すれば、現場業務の効率化や安全性の担保といったメリットが得られます。働き方改革の実現にも貢献できるため、これを機会にIoTの導入を本格的に検討してみてはいかがでしょうか。今回ご紹介した大手建設会社の事例も参考にしつつ、自社への導入を検討してみましょう。