人手不足が社会的な課題として認識される中、人の代わりに業務を行うAIやロボットへの関心が高まっています。特に小売業においては、対人向けの接客を行う接客ロボットを導入することで、省人化を図りたいというニーズが高まっています。そこで今回は、人材不足を解決する手段として期待されている「接客ロボット」について解説します。
働くロボ「接客ロボット」の魅力
「接客ロボット」とは対人向けに接客対応を行う機械のことをいい、施設・商品の案内を行ったり、対話式でユーザーからの質問や要望に対応したりする目的で利用されています。見た目は一様ではなく、人型や恐竜型、デジタルサイネージ(2次元)型などバリエーションに富んでいます。
もともとロボットとは「移動性、個体性、知能性、汎用性、半機械半人間性、自動性、奴隷性の七つの特性をもつ柔らかい機械」と定義されており、外見についての定義はありません。しかし接客を用途とする性質上、接客を受ける人間が親しみやすくストレスを感じないよう、キャラクター・動物・人間などの姿を模したデザインが多く採用されています。
さまざまな会話にスムーズに対応できるよう、人工知能(AI)を搭載されていることも特徴です。完璧な対応はできないまでも、想定できる会話については適切な回答を返せるように学習させています。本記事では、音声やテキストで自動的に対話を行うプログラムである「チャットボット」も、接客ロボットの一形態として扱っています。
AI技術を活用!接客ロボットのメリット・デメリットを理解
自社で接客ロボットを導入するかどうか検討する上で、事前にメリットとデメリットをよく理解しておくことが重要です。以下に導入する場合のメリットとデメリットを紹介します。
導入のメリット
接客ロボットを導入するメリットとしては、やはり365日24時間休まずに働いてくれる点が挙げられます。人手不足が年々深刻化してきている中、働き方改革によって長時間労働や深夜労働さえ難しくなってきています。従来、人が対応してきた業務をロボットに置き換えることができれば、人への負担が少ない労働環境になるだけでなく、省人化・効率化の面でも大きな効果が期待できます。
また、多言語に対応できる点もメリットです。近年、中国人をはじめとする外国人顧客が増加しており、日本語だけでは伝えたい情報を伝えきれないケースが懸念されています。外国語が話せるスタッフを採用するのが難しくても、代わりに英語・中国語など多言語対応された接客ロボットを配置することで、外国人客向けに商品説明や店舗案内などをスムーズに行えます。
導入のデメリット
一方デメリットとしては、導入に際し多額のコストが必要になる点が挙げられます。接客ロボットの導入に当たっては、多くのサービスで初期投資に加えて、月々の運用費用がかかります。
人件費よりかは安くなるという見方もできますが、それでも中小規模の企業が導入するには、費用負担が大きい印象があるでしょう。また機械なので、不具合やエラーに対応できる管理者が必要になることもネックとなります。
人材難に期待大!接客ロボットの導入事例を紹介
他企業ではどのように接客ロボットを運用しているのかが分かると、自社での活用シーンもイメージしやすくなります。ここからは、接客ロボット導入によって効果を上げた企業の実例を3つご紹介します。
ヤマダ電機|Pepper(ペッパー)
ソフトバンクグループが開発した人型ロボット「Pepper」は、テレビCMなどで目にしたことがある方も少なくないでしょう。2015年から法人向けレンタルサービスを開始し、一般の企業や店舗でも見かけるようになりました。
大手家電量販店のヤマダ電機は、2016年に一部店舗でPepperを活用したテストマーケティングを実施しました。ドライヤー売り場と炊飯器売り場に設置したPepperが商品説明を行い、クーポンを配布したところ、接客を受けた顧客の半数以上(約56%)が購入に前向きになったと回答しました。
ちなみにPepperは、2019年からMicrosoftが提供するAIエンジン「Rinna Character Platform」と、Googleが提供するプラットフォーム「Dialogflow Enterprise Edition」を採用したことが発表されました。一般的な接客ロボットはシナリオに基づく会話が中心なのに対して、Pepperはより自然な会話のやりとりができるようになっています。
マックスバリュ西日本|AIさくらさん
「AIさくらさん」は、Web制作会社のティファナ・ドットコムが開発・提供しているAI接客システムです。可愛らしい女性のキャラクターで、一般的にはチャットボットと呼ばれるタイプです。
イオングループ系列のスーパーマーケット運営会社「マックスバリュ西日本」は、2020年に社内ヘルプデスクとしてAIさくらさんを導入したと発表しました。社員がパソコン上でさくらさんに質問すると、人事・総務・会計・棚卸といった社内規定関連やオペレーションなどを案内してくれます。
ユニークなのが、グループ内でチャットボットが連携している点です。イオングループでは、2019年にITソリューション子会社「イオンアイビス」でAIさくらさんを先行導入しており、マックスバリュ西日本側で学習していない質問内容をイオンアイビス側に引き継ぐことができるようになっています。チャットボットの学習は、1社ですべてを行うとなると時間的・工数的に負担が大きいので、グループ企業で回答内容を引き継げるのは効率化の面で大きな利点といえます。
パルコ|Siriusbot(シリウスボット)
「Siriusbot」は、システム開発企業の日本ユニシスとパルコ、08ワークスが2017年に共同開発した純国産自走式案内ロボットで、人型ではない接客ロボットです。都立産業技術研究センターが開発した自律移動型案内ロボット「Libra(リブラ)」をベースとしています。
2017年に池袋パルコで実施された実証実験では、営業時間中は会話またはタッチパネル操作で来店客に施設情報を案内し、自走して目的地まで案内を行いました。さらに閉店後は、テナント店舗内で商品に付けられたRFIDタグを読み取り、無人で在庫確認を行うことでスタッフの負荷軽減を図りました。
このSiriusbotは、2019年末に東京ビックサイトが実施した実証実験においても、案内ロボットとして採用されました。日本語・英語・中国語・韓国語に対応していることから、外国人客向けの案内対応用途でも期待されています。
なお、Libraをベースにしたロボットは他にも開発されており、プラネックス製の美術館・博物館向け自律移動型・多言語対応案内ロボット「おーい」をベースに開発された、葛西臨海水族園の案内ロボット「ペリン」などがあります。
いちごプラザ|CORON(コロン)
「CORON」は、アイウィズが開発・提供する人型接客サポートロボットで、全長30cmと手のひらに乗るくらいの小型サイズです。
静岡県内のドライブイン「いちごプラザ』を運営する仲原商事では、増加するインバウンド客向けの外国語対応が必要になったことから、経済産業省のIT導入補助金を利用してCORONを3台導入しました。主力商品であるいちご大福売り場に設置し、賞味期限などの情報を伝えるようにしたことで、販売スタッフが別の作業に注力できるようになるなど一定の効果が見られました。
国の補助金を利用して接客ロボットを導入した仲原商事の例は、他の中小規模の企業にとっても参考になる事例でしょう。
まとめ
接客ロボットの導入によって従業員一人ひとりの作業負担が減ることで、作業の効率化や生産性の向上など、さまざまなメリットが期待できます。無論、導入コストは決して安くはありませんが、人件費を考慮すればむしろコスト削減に繋がる場合もあります。今回ご紹介した事例を参考に、ぜひ接客ロボットの導入を検討されてはいかがでしょうか。