2018年、経済産業省は「DXレポート」を報告しました。この文書では、日本企業のICT環境の遅れが招く将来的なリスクが警告されると共に、そこから脱却するためのDXのガイドラインが示されています。
本記事では、このDXレポートの概要を解説すると共に、その後2020年に追加報告されたDXレポート2についても紹介します。
経済産業省が発表したDXレポートとは
DXレポートとは、日本社会におけるICT環境の現状と課題について書かれた報告書で、2018年に経済産業省が発表しました。正式な名称は、『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』といいます。
この報告書においては、他の先進国と比べてICTの活用が遅れがちである日本の現状を指摘すると共に、国としてDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する必要性が示されています。このレポートをきっかけに、日本社会においてDXという言葉が大きく広がりました。
DX推進ガイドラインとは
DX推進ガイドラインとは、上記のDXレポートを基に、日本においてDXを実現するためのポイントを示した文書です。以下では、その主だったポイントを紹介していきます。
責任者の意識改革について
DXを推進するための第一のポイントは、責任者の意識改革をすることです。DXを成功させるには、現場の社員や技術者だけでなく、経営の決定権を持つ経営者や現場の管理職の理解や協力も欠かせません。
例えば「AIを使って何かやれ」とだけ言われても、現場の社員は困ってしまいます。また、たとえシステムを新しくしたとしても、ビジネスモデルや業務体系が従来と何も変わらないのであれば、DX化できたとはいえないでしょう。
それゆえ、DXを推進するためには、組織の上層にいる経営者や各部門の責任者自身もDXの意義や価値を正しく理解し、それをどのように自社のビジネスへ具体的に落とし込んでいくかを考えなければなりません。
従来システムとの一貫システム構築
DXを推進する際に新システムへの移行を実施する際には、新旧のシステム間の連携や一貫性が確保されているか注意しなければなりません。例えば某銀行で頻発しているシステムトラブルも、元はと言えば、3つの銀行が合併したときに、それぞれ別々のシステムを不用意に統合してしまったことによると言われています。それゆえ、新システムを導入する際には、旧来のシステムの構造がどうなっているか入念に把握した上で行わなければなりません。
クラウド化したデータ共有
DXの推進のためには、旧来のオンプレミス環境からクラウド環境にシステムを移行することが近道だと言われています。その際に重要になるのは、事業部門ごとにばらばらではなく、部門横断的にデータ共有やデータ活用できるようにすることです。そのためには例えば、統合的なプラットフォームを導入することが手段となります。
2025年の崖問題とは
先述のように、DXレポートの副題には「2025年の崖」という象徴的な言葉が含まれています。2025年の崖とは、ICTの遅れが日本企業にもたらす深刻なリスクを指すものです。DXレポートでは、21年以上稼働している基幹系システムを抱えている企業が2025年までに6割に達すると予想されています。
こうした老朽化したシステム(レガシーシステム)は、「システムのサイロ化・ブラックボックス化」、「システム維持費の高騰」、「管理人材の不足」、「セキュリティの脆弱性」などの深刻な技術的負債を生じさせます。そしてDXレポートにおいては、こうした問題を放置すすることによって、2025年以降、日本経済が毎年12兆円もの経済損失を生む恐れがあることが予測されているのです。
以下、2025年の崖問題において、DXの阻害要因として言及されている課題について解説します。
DXにおける人材課題
DXを実施しようにも、それを担うべき人材が不足していることが多くの企業にとって深刻な課題になっています。DXレポートでは、2025年までにIT人材の不足数は約43万人まで拡大すると報告されています。それゆえ、システムの運用をベンダー企業に丸投げしている企業も多く存在しますが、それによって自社のシステムやICT活用に対する理解が進みづらい悪循環が作られてしまっています。
DXにおける経営課題
DXを推進していく過程では、新しいシステムに合わせてビジネス形態や業務プロセスの変更が迫られる場合もあります。
例えば、新型コロナウイルスによって急速に普及したテレワークは、従来とは大きく異なる働き方を可能にします。しかし、同時に多くの企業でさまざまな課題も発生しました。
現場の社員の負担や不満を軽減するためにも、如何にスムーズにDXを実行していくかは重要な経営課題と言えます。
DXにおける技術的課題
近年、AIやIoTなど最新の技術を活用した新たなビジネスモデルが次々と登場しています。しかし、こうした最新技術をビジネスに取り入れるには、相応のシステム基盤が必要です。しかし先述のように、多くの日本企業は古いレガシーシステムを使用し続けており、こうしたDXを加速する最新技術を活用するための土壌が育っていません。つまり、技術的な遅れがビジネスの遅れにまで波及してしまっているのです。
DXにおけるグローバル化への課題
上記で紹介した各問題は、当然ながら日本企業の国際競争力の低下を招きます。現状、多くの日本企業はICTを活用するための基盤作りさえままなりませんが、先進的な海外企業は既に、「データ分析やデータ活用によってどのように顧客体験を向上させるか」といったように、デジタル技術をビジネスに活かすノウハウやスキルをさら進化させています。
グローバル社会における経済競争に負けないためには、ICTの活用方法について海外企業から学ばなければならないでしょう。
DXレポート2とは
経済産業省は、2020年12月にDXレポート公開後の日本におけるICTの現状をまとめた中間報告「DXレポート2 中間とりまとめ」を公表しました。
このレポートでは、2020年10月時点において、日本企業において未だDXが十分に進んでいないことが指摘されています。具体的には、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査対象企業500社のうち、9割以上の企業がDXに未着手か途上にある状態だったそうです。
DXレポート2は、ICTの遅れについての危機意識のなさが日本企業に蔓延している現状を伝えると共に、ICTの活用の有無がコロナ禍において企業の明暗を分けたと指摘しています。つまり、DXに対応できていない企業、あるいはDXを単に「システムを新しくすること」と誤認識していた企業は、従来のビジネスモデルが通用しづらいコロナ禍に対応できず、それがコロナ禍においても業績を伸ばした企業との分かれ目になったと分析されています。
DXレポート2においては、こうした急激な社会情勢の変化に対応していくには、ビジネスモデルの面でもシステムの面でも素早く変革し続ける能力を身に付けること、すなわちアジャイル型の姿勢を取り入れることが必要であると指摘されています。
DXレポート2追記版が2021年8月31日に発表
経済産業省は2021年8月に、上記のDXレポート2の追記版として「DXレポート2.1」を公表しました。このレポートにおいては、デジタル変革によって大きく変わるであろう産業社会や、その中で生きる企業の姿が示されています。そこでデジタル産業を構成する各企業は4つのタイプに分けられ、それぞれが担う役割が開設されています。
また、DXを進める企業の参考となるように、「DX成功パターン」を2021年度中に策定予定であることが公表されました。
まとめ
経済産業省が発表したDXレポートとは、日本社会が抱えるICT環境に関する課題を伝え、DXの推進を促す報告書です。同レポートによれば、DXの本質とは、単にシステムを刷新させるだけでなく、それによってビジネスモデルの変革をもたらすことです。システムのクラウド化や刷新は、その土台作りと言えるでしょう。
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