ワークフローの承認ルートは組織の決裁をとるために必要です。
正しいルートの種類を活用して設計しないと誤った判断や意思決定を招いてしまい企業に大きな損失を与えてしまう可能性があるでしょう。本記事ではワークフローの承認ルートの基本知識と4つのルートの種類、効率化するポイントも交えて紹介しますので参考にしてください。
ワークフローの承認ルートとは?
本章では、ワークフローの承認ルートの基礎知識や関わる権限者について紹介しますので順番に見ていきましょう。
ワークフロー承認ルートの基本知識
承認ルートとは申請した内容が承認されて決裁されるまでの経路や道筋です。
誰に対して申請するのか、申請を誰が承認するのか、どのようなタスクがあるのか整理・抽出を確立させるのがワークフローになります。
そのため承認ルートを確立していると、誰にも分かりやすく申請した内容が決裁できるでしょう。
ワークフローの承認に関わる権限者
ワークフローの承認に関わる権限者は、申請者と承認者、決裁者の大きく3つです。
権限者について表にまとめました。
■申請者
- 役職が下のメンバー
- 決裁や判断のできない事案について上長に対して承認や決裁を求める
■承認者
- 申請者より役職が上で複数人いる場合もあり
- 申請内容を確認し可否を判断する
- 申請内容の可否を判断するための重要なポジションである
■決裁者
- 承認者よりも更に役職が上である
- 申請内容を最終的に判断する
- 社内で決裁者の権限があるのは特定の人である
権限者の順番は、申請者→承認者→決裁者の順です。
ワークフローの承認ルートが重要な理由
ここでは、なぜワークフローの承認ルートが重要とされているのかについて解説します。重要な理由を理解することは組織として判断する上で大切なため確認していきましょう。
円滑に業務を遂行するため
ワークフローの承認ルートは組織の判断業務を標準化するものであり、業務を円滑に行うためには重要です。仮にこれがなければ、各自バラバラに申請内容を承認して決裁をしてしまい対応する人によって判断が変わってしまう可能性があります。
組織では全従業員が承認ルートのルールを守って手続きを行い、適切に申請・承認・決裁することで円滑に業務を遂行できます。
リスク管理のため
リスクマネジメントにも非常に重要な役割を果たします。
承認ルートを活用することで誰が、いつ、どこで、何を実施したかが明確となります。ルートが明確になっているため事故や紛失が起きても分かりやすく、早急な対応ができるでしょう。
また、視覚化により透明性が確保され不正や改ざんもしづらくなり、リスク管理に大いに役立ちます。
コスト削減ため
書類の作成や回覧の必要性を見直すことで、事務負担が減ることは少なくありません。これにより、人件費や印刷にかかる費用、さらに保管にかかる費用などの削減にもなるでしょう。
ガバナンス強化のため
適切な承認ルートを設定しておくことは、内部統制の強化にもつながります。
誰が承認をしたのか、証跡を残すことや適切な承認者を設定しておくことでトラブルの回避や解決などに役立つことがあるでしょう。
ワークフローの承認ルートの種類
承認ルートは大きく4つあります。ここでは、4つのルートについて解説しますのでつくり方の参考にしてください。
直線型
直線型は申請、承認、決裁の流れが直線的に進む、1番シンプルなタイプです。
承認ルートは下記になります。
- 申請者→承認者→決裁者
各ステップで承認が完了するまでは次のステップに進めないため、進捗の把握もしやすくよく使われているタイプです。特に、明確な役割分担や段階的な承認が求められる場面で有効です。
指名型
指名型は直線型に必要であれば途中で新たに承認者を追加できるタイプです。
プロジェクトで関わる上長や指名されたものが、さらに別の承認者を指名して追加を行うことができます。
承認者の追加は、専門家の視点から申請内容の把握が必要な場合などに承認の質を高める目的で実施してください。
指名型は、判断要素が不十分な場合に承認者を追加することができるので柔軟に対応しやすくなりますが、承認者を追加しすぎないように注意してください。
承認ルートは必要最低限の人数でシンプルにするのが基本です。直線型を採用していて、承認者を追加した方がよいと判断した場合に指名型を使いましょう。
条件分岐型
条件分岐型は申請内容に応じて分岐し複数のルートに別れるタイプです。
申請内容は下記の例のように金額によって変わることが多いでしょう。
- 10万円以下は課長で決裁がとれる(申請者→課長)
- 10万円超は課長承認で部長が決裁する(申請者→課長→部長)
上記の場合は申請する金額によって承認ルートが異なります。一般的に企業やプロジェクトの規模が大きくなるほど条件は複雑になり分岐が多いです。
メリットは決裁権を申請内容によって決められることです。状況に応じた対応ができ決裁までのスピードを上げることができるでしょう。
並列型
並列型は複数の部門で承認が必要な場合に、承認ルートを同時並行で確認するタイプです。
大きく3つのタイプがあります。
AND承認・合議 | 全てのルートで承認されれば決裁 | ・全てのルートで承認が必要なため、承認までに時間がかかる ・複数の視点から検討できるため、誤った判断や意思決定となるリスクは低い |
多数決承認 | 複数のルートのうち過半数の承認ができれば決裁 | ・過半数のルートで承認されれば決裁ができる |
OR承認 | いずれかのルートで承認されれば決裁 | ・いずれかのルートの承認で決裁ができる ・AND承認や多数決承認よりスピーディーに決裁ができる |
この中では、OR承認が最もスピーディーに決裁ができますが、1つのルートで承認されれば決裁できるため、誤った判断や意思決定にならないように注意が必要です。
並列型は、ルートが複雑になりやすいことがデメリットとして挙げられます。
ワークフロー承認ルートに関する問題点とは
ここではワークフロー承認ルートに関する問題点について解説します。問題点を把握して改善につなげてください。
- 承認・回覧状況が把握できない
- 承認・決裁が遅い
- 回覧書類の保管に手間がかかる
承認・回覧状況が把握できない
ワークフロー承認ルートを紙で実施している企業は多いです。しかし紙での実施の場合は承認・回覧状況が把握できないという問題があります。
紙に印刷した書類は手渡しで回覧する必要があり、誰のところまで書類が進んでいるのか分からなくなります。承認・回覧状況を確認したいなら各承認者や決裁者のデスクまで行き、紙の書類を見つける必要があるでしょう。
承認・決裁が遅い
紙の書類で回覧すると上位者に書類が次々と集まるため、処理に時間がかかり承認・決裁が遅くなることがあります。
仮に1人の承認や確認に時間がかかると、その後の確認が遅れます。承認ルートが複雑になったり、承認者を増やしたりするとさらに確認の時間がかかるでしょう。
承認・決裁が遅いと、業務全体のスピードが低下し、迅速な意思決定が求められる場面での対応が遅れてしまうという問題点があります。
回覧書類の保管に手間がかかる
紙の書類は一定時間の保管が義務付けられているものがあり、保管に手間がかかります。
申請書類の数だけ紙の書類を保管しなければならず、保管する書類の数も膨大になります。保管した書類を見返そうにも書類の数が膨大なため確認したい書類を見つけるのも困難でしょう。
保管した書類を分かりやすく整理しようにも手作業のため時間もかかります。
保管する書類が増えるほどスペースの確保が必要で、物理的作業が多く書類の保管は手間になります。
ワークフロー承認ルートを見直すコツ
ここでは、承認ルートを見直すコツを紹介します。見直すポイントを把握できていると改善に役立ちますので参考にしてください。
- 導入準備を入念に行う
- 担当者・担当部署と連携する
- 条件ごとに承認ルートを作成する
導入準備を入念に行う
導入準備を入念に行うことで改善できます。導入準備では下記を重点的に確認するとよいでしょう。
- 全ての業務を洗い出したか
- 必要最低限の承認数で最短に決定が進むルールになっているか
- 複数人で確認する仕組みになっているか(1人では見えない改善点もあるため)
- ルートをテスト的に実施してみてスムーズに決裁までできるか
まずは、全ての業務を洗い出しましょう。その上で、承認ルートに無駄がないかどうかチェックします。ワークフローの承認ルートは必要最低限の承認数で実施するのが基本です。承認数が増えるほどミスや遅延の原因となりますので、承認数が適切か確認してください。
1人では見えない改善点もあるため、業務に関わりがあるメンバーに確認を依頼すると改善ポイントが見つかるかもしれません。
承認ルートを作成したら、すぐに実装するのではなくテストを行います。導入準備を入念に行い改善ポイントがないか確認しましょう。
担当者・担当部署と連携する
見直しを図る際には、実際に承認プロセスに関与している担当者や担当部署との連携が重要です。
担当者や担当部署は、日々の業務で実際にワークフローを利用するエンドユーザーであり、業務上の課題や問題点についてよく理解しています。
作成した承認ルートができれば、担当者・担当部署に周知し連携を行うことで、実際の現場で運用がしやすい現実的なワークフローに見直すことが可能です。
ワークフローの承認ルートは作業者が把握していなければ実施できないため担当者、担当部署と連携する必要があります。
条件ごとに承認ルートを作成する
ワークフローの承認ルートは1つのパターンでは運用できないことが多いため、4つの型から適切なルートをつくりましょう。
業務内容に応じて適切な承認ルートが作成できていないと、決裁者は自分なのか、上長に決裁を求めるのか曖昧になるため承認・決裁ができません。
日常的な業務は直線型を採用し、必要であれば指名型も取り入れるなど、臨機応変に対応してください。
ワークフロー承認を効率化する方法
ワークフロー承認ルートは作成するだけではなく効率化することが大事です。ここでは、ワークフロー承認を効率化する方法について解説します。
- 承認ルートを定期的に見直す
- Teamsで承認ルートを管理
- Power Automateで承認ルートを管理
承認ルートを定期的に見直す
現在の承認ルートで適切か定期的に見直しましょう。見直す際には下記のポイントを確認するとよいでしょう。
- 必要以上に承認者を増やしていないか
- 業務は分担しているが毎回同じ決裁者になっていないか
承認者が必要以上に多いと複雑になりミスやルートの遅延につながります。決裁者が自身の業務以外の内容について回覧を受けると把握していない分野となるため誤った判断になる可能性があるでしょう。特に、人事異動の後などはルートを見直すべきタイミングです。承認者の数は適切か、承認者がその業務に現在関わっている役職者か、定期的に確認を行いましょう。
承認ルートは最低限の承認者で、決裁者は業務ごとに適切となるように作成してください。
Teamsで承認ルート管理
Teamsで承認ルートを管理するとワークフロー承認を効率化することができます。リモートワークの導入が進み、Teamsを業務で導入している企業は増えています。リモート会議だけにTeamsを利用しているという企業は、ぜひワークフロー承認にもTeamsを活用してみましょう。
Teamsはチャットやチャネル会話を送信するのと同じ場所や承認アプリ自体から、承認フローを手早く開始できます。
Teamsのワークフローの作成方法は下記2つです。
- 1からテンプレートを作成
- 既存のテンプレートを使用して作成
1からテンプレートを作成すれば自社にあった最適なワークフローをカスタマイズできます。作成もTeamsアプリから手順に沿っていけば簡単に作成できるでしょう。
また、既存のテンプレートを使用して作成することもできます。出張や休暇など企業でよく使われるワークフローはテンプレートで用意されているため、活用してみてください。
Teamsで作成した承認フローを開始すると承認者に通知も自動でされ状況を逐一確認できるため、承認ルートの管理を効率化できます。
Power Automateで承認ルート管理
Power AutomateはMicrosoft社が提供しているRPAサービスで、Microsoft 365に含まれています。Power Automateを活用することで、承認ルート管理も効率化できます。
RPAはロボティックプロセスオートメーション(Robotic Process Automation)の略で、パソコン上で行う業務を登録しておけば自動でロボットが作業をしてくれるシステムです。
同じくMicrosoftが提供しているSharePointと連携して使えるため、SharePointページの承認をカスタマイズしてSharePointの中で承認要求してください。
SharePointはドキュメントや書類をチームに共有ができるサービスのため、Power AutomateとSharePointを連携させれば業務の大半を自動化できるでしょう。
ワークフローシステムを導入する
ワークフローシステムを導入することでワークフロー承認を効率化できるでしょう。
ワークフローシステムは各種申請や稟議(りんぎ)をはじめ、組織内で行われているあらゆる業務手続きを電子化する仕組み・ソフトウェアです。
紙と印鑑での承認作業をデジタルに移行できるメリットもありますが、サービスによって適応できる承認ルートが異なるでしょう。
ワークフローシステムは承認者や決裁者も利用します。ワークフロー承認ルートの作成者だけが使いやすいサービスでは、利用者全員が分かりやすいとは限らず利用されなくなってしまう場合もあります。
ワークフローシステムを選定する際は、自社の承認ルートに適しているのか、利用者全員が分かりやすいかを軸に選定してください。
ワークフローシステムについては、下記の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
ワークフローシステムとは?その概要や導入メリットを解説
社内の承認フローでPower Automateを利用するメリット
社内の承認フローで、Microsoft社のPower Automateを利用できます。本章では、Power Automateを利用する3つのメリットについて解説します。
- 低いコストで利用できる
- セキュリティ性が高く安心
- 人為的なミスを軽減できる
低いコストで利用できる
Power Automateは低いコストで利用できるためミニマムでスタートできます。
料金プランは下記になります。
プラン | 料金 | 詳細 |
無料試用版 | 無料 | 30日間限定で、 Premiumプランを含めた機能が利用可能 |
Power Automate Premium | 1ユーザーにつき2,248円/月 | 利用ユーザー単位の従量課金 |
Power Automate Process | ボットにつき22,488円/月 | 組織内の無制限のユーザーが利用できる |
30日間無料プランもあるため、実際に利用をして機能を確認できます。
有料プランでも1ユーザー2,248円/月で利用できるため、承認フローが簡略化できるのであれば費用対効果は高いといえるでしょう。
費用対効果は承認から決裁にかかる所要時間をどれだけ短縮できたか確認すると試算しやすいので試してみてください。
セキュリティ性が高く安心
承認フローは社内の重要な判断や意思決定に関する情報なので、セキュリティ対策がしっかりされているかどうかは重要なポイントです。Power Automateは、高いセキュリティ性を誇るMicrosoftが提供しているサービスなので、その点では安心といえるでしょう。
具体的には、クラウド版のPower AutomateはWindows Azureのウイルス対策やデータの暗号化機能を導入し、セキュリティが確保された環境で使用しています。
人為的なミスを軽減できる
Power AutomateのRPA機能は日常の業務を自動化できるため、人為的なミスを減らすことができます。
日常の業務で反復作業が多い場合、注意力散漫によるミスが発生しがちです。マニュアルや業務の見直しをしても形骸化しやすく人為的なミスを完全になくすことはできません。人為的なミスが起きるとリカバリーしようとさらに人的リソースが必要となり悪循環になります。
Power AutomateのRPA機能はミスが起きやすい作業を自動化できるメリットがあります。
ロボットによる自動化のため、自動化した全ての作業で人為的なミスをなくすことができ、さらに24時間稼働も可能です。
Power Automateで業務効率化した事例
Power Automateで業務効率化したIT企業の事例を紹介します。開発までに時間はかかりましたが安定稼働をすれば作業が少なくなりました。
この企業は請求書の関連業務の電子化を進めていましたが、取引先の書式がバラバラであったり、URLでの送付もあったり、自動化ができずに手作業になっていました。このためヒューマンエラーが多かったとのことです。
Power Automateを導入した結果、手作業を自動化でき、ミスが限りなく少なくなりました。
承認フローの開発は予め用意されているアクションを選択するだけで直感的に開発が可能でした。また、パッケージ化されたサービスでは対応できなかった細かな運用にも対応できたとのことです。
自動化は作業を効率化するだけではなく、Power Automateが24時間稼働しているためシステムの運用・保守を担当するメンバーの休暇も取りやすくなり、労働環境の改善もできています。
Power Automateを利用することで、低コストで自社のカスタマイズにより最適なシステムを作成できた事例です。
参考:Microsoftまとめ
ワークフロー承認ルートは組織において業務の標準化になるため、円滑に業務を進めるには必要です。
承認ルートは直線型、指名型、条件分岐型、並列型の4つです。基本は直線型を使い、内容に応じて別のルートも検討しください。
紙ベースからワークフローシステムに移行させると業務効率化ができます。しかし、ワークフローシステムでは自社のニーズに応じた細かい運用まで補えない可能性もあるので選定には注意しましょう。
Power AutomateのRPAであれば無料試用版もありますので、自動化の仕組みを構築して人為的なミスを低いコストで減らしたい場合は試してみてください。